高木の憂鬱 第3話
「目が覚めたら知らせてくれって…。一体どういう事だ?」
俺は未だに事態を受け入れられず混乱していた。
「あの人に用があるんだ〜。目が覚めたら話したい事があるの。」
少女は普通に話している。…普通に。
「話したい事…?それを俺が聞く訳にはいかない…よな。」
何故俺はここで興味を持ったのか。やはり要らない一言だったらしい…。
再び目の前まで顔を寄せてボソッとアイツは言った。
「…死にたいの?」
あぁ…駄目だ。
俺は逆らえない。というか、逆らったら間違いなく死ぬ。
本能でわかる。これはヤバいやつだ。
「す、すまんっ!つい…。わかったよ。目が覚めたら教えるよ。」
俺は恐怖からギュッと目を瞑ったまま、慌てて謝った。
そこでふと思う。
(ん?…どうやって知らせるんだ?相手は、ばけも…じゃなかった。人間じゃないって言うべきか。たぶん携帯なんて持ってないだろうしな。)
「…聞こえてるわよ。私、一応考えてる事読めるからね。」
イラッとした様子で少女はこちらを睨んでいた。
(マジかよ。頭で考えた事が読めるとか意味がわからんっ!あ、これも聞こえるのか…。)
このままの話の流れはマズいと思い、咄嗟に聞いた。
「…!?す、すまん。いらん事考えてたな。でも、どうやって知らせたらいいんだ?」
「うん。名前呼んで。」
少女は何でもない事のようにアッサリ言う。
「は?名前を呼ぶ?」
俺は思っていた内容と違いすぎてキョトンとして聞き返した。
「そう。私の名前、クロって言うの。だから、呼んで。」
さも当たり前のようにクロという少女はこちらを見ながら言った。
「…クロ?名前、クロっていうのか?」
(何だか犬か猫みたいだな。)と思った。
コイツの正体とはかけ離れた名前のような気がしたが、本人は気に入っているようだ。
嬉しそうに「うん。」と言いながら笑った。
「大切な人がつけてくれた名前なの。いいでしょ?」
無邪気にそう話すクロは普通の少女に見えた。
「あ、あぁ。いい名前だな。」
さっきまでとのギャップが凄すぎて俺の頭はついていかない。
(…なんなんだ?怖かったり、普通の女の子みたいだったり不思議な奴だな。)
「…で、名前を呼んでその後はどうすればいいんだ?」
よくわからないが早くこの話を終わらせるべきだと思った。完全にクロのペースだし、俺は従うしかないのだろう。
「あいつの目が覚めたぞ!って、念じればいいよ。」
「は?それだけ?」
「うん。それだけ。」
そう言ってクロはクスッと笑った。




