高木の憂鬱 第2話
あの日から気持ちが揺れている。
調べないとならないのはわかっていた。それにそうしないと自分の中で納得がいかない事も。
ただ…命をかけられるのか?俺自身の好奇心の為に。
たぶんこの一歩を踏み出したらいつ死んでもおかしくないだろう。それがわかっているから毎日迷いながら過ごしていたのだ。
カタンッ。
突然の物音で体がビクリと跳ねる。
「な、なんだ!?」
辺りをキョロキョロと見回す。
…何もいない。
「そんな訳ないか。」
ボソッと呟きながら机に向き直った瞬間。
「うわぁっ!!」
アイツが目の前にいた。
ピッタリと顔を近づけ、俺の顔の前に。
「ふふふ。驚いた?」
あの真っ暗な目と真っ暗な口でニヤァッと笑いながらアイツは言う。
動けない…夢がフラッシュバックしたようだ。
「…あれ?どうしたの?」
少し顔を離してアイツは俺の顔を覗き込んだ。
普通の少女の顔に戻っていた。
「…はっ。な、なんで?」
俺は一瞬止まった呼吸に気づいて大きく吸い、声にならない声を出した。
「あ、やっと喋った。…大丈夫?」
可愛らしく首を傾げてコチラを見ている。
「はぁっ。」とようやく息を吐き、何とか平静を装った。しかし背中は汗が流れて大変な事になっている。
「な、なんでここに?…というか、話せるのか?」
事態を受け入れる事が出来ず、頭の中で様々な質問がぐるぐる回っていた。
なんでだ?
どうして?
何故、今ここに?
「ねぇ、ちょっと落ち着いてよ。何も今すぐ取って食おうなんて思ってないからさ。」
アイツは机の上に膝を抱えて座り、向かい合ったまま俺の肩をトントンと叩きながら言った。
「何しに来たんだ?お、俺はアレから何もしてないぞ?」
あまりの恐怖に俺は慌てて自分の無実を訴えていた。
…情けない。やはり死にたくないのだ。
「うん。知ってるよ?今日はお願いがあって来たんだよね〜。」
なんでもない事のように言っているが、俺はコイツに殺されるかもしれないのだ。
今この瞬間も心臓が痛くなる程、鳴っている。
「お、お願いって、なんだよ。お、俺に出来る事なんてないだろ…?」
…声が震える。あんな夢を見ていたせいか体が拒否しているのがわかる。全身が今にも震えだして大声で叫び出しそうだ。
こんな状態で調べようか悩んでいたなんて。
…無謀だ。所詮、俺はこの程度の人間なのだ。
「出来るから来てるの。…入院してる男の人。あの人が起きたら教えて欲しいんだよね。」
「え、なんで?…そ、それだけ?」
少女はニヤリと笑った。




