クロのしたい事 第5話
こんな風にくすぐったくなる様な感覚は味わった事がなかった。思わぬ所でウメさんの優しさに触れたクロは、どんなリアクションをしたらいいのかわからず「えへへっ」と笑って初めての感情を誤魔化した。
そんなクロの様子を見てウメさんはまた優しく目を細めたのだった。
……
「で、具体的にはどうするつもりなんだい?事と次第によっては見て見ぬふりという訳にはいかなくなるがね…。」
言いながらウメさんの表情は険しくなっていく。
「どういう扱いになるか私にもまだわからないんだよね。あの人と話してみないと。…でももし、そうなってしまったら…ごめんなさい。」
"そうなったら"の意味は、ハッキリとは言わなかったがやはりその人物の"死"を表していた。
クロはどんな顔をして話していいかわからず、笑ったような困ったような変な顔でウメさんに謝った。
「私の事は気にしなくて大丈夫さ。さっきあんた達に任せると言ったはずだよ?もし、そうなったとしてもそれはそれ。あの子の運命だったんだろうさ。」
仕方ないと諦めているようで肩を落としてウメさんは言った。やはりさっきの話がショックだったのだろう…目に力がない。
「でもさ、私も敵討ちなんてつもりはなくてとりあえずどう思っていたのか知りたいんだよね。なんで虐待なんてしたのかをさ…。私にはそれを知る権利があると思ってる。」
いつになく真剣な顔でクロはウメさんを真っ直ぐに見て言った。
「ま、それは当然だろう。クロ、あんた自身も被害者なんだからね。聞きたいと思うのは当たり前だ。」
ウメさんもクロの気持ちを受け取るようにしっかり見つめて頷いた。
何だか自分の気持ちをちゃんと受け取ってもらえたんだ…と感じられて嬉しくなった。
「まだどうなるかわからないけどね…。ウメさんありがとう。私たちの気持ち、わかってくれて。」
「いいんだよ。私に出来る事なんてこんな事しかないさ。でも、どんな状況になってもこれだけは約束して欲しい。」
今度はウメさんが真剣な目でクロを見つめる。
「…約束?なぁに?」
突然の言葉にクロはキョトンとしている。
「別に難しい事じゃない。茜や麻世の事を何とかしたい気持ちもわかるが、クロ自身の気持ちを一番に大事にしなさい。やりたくもない事を二人の為だから…と自分を無視してまでするのは無しだ。」
ウメさんはとても心配そうにクロを見ている。
「…わかった。ありがとう、ウメさん。」
その思いが目を見ただけで伝わった。




