クロのしたい事 第2話
「お願いがあって来たんだ〜。もう何となくわかってるとは思うけど、麻世が私の中に入っちゃったからさ。」
ヘラヘラと笑いながら言うクロをウメさんは腕を組んで鋭い目で見つめていた。騙されまいと身構えているように見える。
しかしクロの話を聞いて少し考えた後、ハァッと深いため息をついてウメさんは静かに言った。
「…やっぱりか。どうしてそうなったのかは全くわからんが、必然だったんだろうねぇ。」
何とも言えない悲しい声と表情だった。
クロはこのウメさんの話し方と声が好きだった。
何とも言えない静かな声。静かなんだけれど、今にも泣き出しそうな悲しみを含んだ声だ。
実は二人がこうして直接会話をするのは、茜ちゃんがお母さんと上へ行く時にクロが邪魔しに来て以来だ。
あの時は会話として成り立っていたのかは微妙だったが、いつかゆっくり話をしてみたいとクロは思っていた。
この人は敵じゃない。でも、扱いを間違うと厄介だというのはわかっていた…。麻世が何度もクロと体を同じくする間に記憶を共有していたから。
クロはなるべく面倒な事にならないようにと、慎重に言葉を選んで落ち着いた声で話すように心がけた。
「…まぁ、色々あったの。麻世が楓を恨んでたのは知ってるでしょ?そういうのが全部片付いちゃったんだよね。なんか、気が済んだみたい。」
どこまで話したものかと迷ったが、勘のいいこの人の事だ。きっとこのくらいの話で察するだろうと考えていた。
「そうかい…終わったんだね。」
クロの話を聞いたウメさんは、先程よりもさらに悲しい声で呟いた。
「そんな顔しないでよ。表には出て来ないけど今もここにはいるからさ。」
クロは慰めるように言ったが、こんなのは気休めに過ぎないとわかっていた。
このままじゃ話が進まないから無理にでも話さないと…。
「で、お願いなんだけど。この後ちょっと面倒な事が続くかもしれないんだけど、スルーしてもらえないかな〜?って伝えに来たの。」
申し訳なさそうにクロはお願いしてみた。
「なんだい?面倒な事って。」
ウメさんは怪訝そうな顔でコチラを見た。
「う〜ん。なんて説明したらいいかな?…お仕置きの必要な人間がまだいるんだ。麻世と茜の為にもやらなきゃならないと思うんだよね。」
言葉を選んで話しているが、お仕置きという言葉や二人の名前が出るとウメさんの体がピクリと反応した。
「あの二人の為…?どういう事なんだ?」
「それはこれから話すよ。…全部ね。」




