麻世と楓 第12話
「…ごめんなさい。ごめん、なさい。」
子供のように涙をポロポロと零しながら楓が謝る。
「それじゃあ答えになってないでしょう?きちんと答えないと許さないよ?」
まるで母親が子供を諭すように麻世が言った。
…ところが、すぐに涙は止まった。
もう泣くのはやめたらしい。
開き直った様子の楓は、濡れた頬を拭いながら麻世の方を向く。
「やっぱり泣くのはもうや〜めたっ!嘘泣きなんて馬鹿らし。んで、なんだっけ…なんで殺したか?だっけ。」
待ってましたっ!と言わんばかりの勢いで麻世が食いつく。
「いいねぇ!そうっ!それよ、それっ!お願いだから今はその質問に答えて欲しいなぁ〜!それを聞くためにわざわざここまで来たんだよ?」
しかし、さっきの態度は強がりなのかやはり少し怯えながらも意を決したような表情に変わる楓。
震える唇から少しずつ言葉が溢れてくる…。
「だ、だって…私の事、馬鹿にしてたじゃない。」
「はぁ?馬鹿にしてたってどういう事?」
意味が分からないというような顔で麻世は楓を見つめ返した。
「馬鹿にしてたでしょ?今も言ってたじゃん…。いっつも下向いて、小さい声で何を喋ってるから分かんない奴って。」
「あら?今のって本当の事だったの?何となく勢いで言ってみただけだったんだけど。」
「…は?え、アンタ麻耶だよね?…ちょ、ちょっと待って?意味分かんない…。」
楓はようやくこの状況の異様さに気づいたようで頭を抱えて考え込んだ。
「今はそんな事はどうでもいいでしょ〜?なぁんだ!思ってたよりまともに会話出来るじゃないっ!…で?私に馬鹿されたと思ったから殺したって事でいい?」
麻世は楓を煽るように答えを急かした。
「そんな事…?そんな事じゃないでしょ?だって、麻耶じゃないなら、アンタって一体…?」
楓は納得いかないようだ。
麻世の声は聞こえていないのか、今度は頭を抱えるだけじゃなくガシガシと掻きむしっている。
楓のそんな様子を見ても、麻世はお構いなし。
さらに煽るように喋っている。
「さぁ!さぁさぁさぁっ!本当にそれだけですか?人を殺す理由ってそんな単純なモノなんですかっ?」
ニヤニヤしながら楓の顔を覗き込んだ。
「ねぇっ!アンタ…誰?」
突然、楓が顔をバッと上げて麻世を睨みながら言った。
「ふふっ。……誰だと思う〜?当ててみてよ。」
不敵な笑みを浮かべながら麻世が今度は楓を挑発し始める。
「誰?誰なの?絶対に麻耶じゃない。麻耶はそんな奴じゃない。」




