103号室の男
「そろそろ目が覚める頃かしら…?」
麻世は茜の母をストーカーしていた103号室の男の病院へ来ていた。
あの時は余計な事をされたら困るので咄嗟に頭を殴ってしまったのだ。悪気はない。
命に別状はないが長く入院する事になってしまい、コイツもなかなか酷い奴だけれど「ちょっと悪い事をしちゃったかな…」とは思っていた。
男の事件については新聞に載っていたので把握していた。
犯人はまだ捕まっておらず傷害事件として警察が現在も捜査中のはず。
でも、犯人が捕まる事はない。
…だって私だもん。犯人。
もうこの世の人じゃないから証拠なんて残らないし、きっと調べようもないと思う。
捕まえられるなら捕まえてみて欲しいもんだわ。
必死に捜査している警察の姿を思い浮かべて、申し訳ないがクスクス笑ってしまった。
そのまま病院の周りをぐるっと飛んで男の病室を探す。
「あ、ここだ。」
クロと一緒になってから、人の気配を感じ取ったり普通の人じゃ聞こえないような小さな音が聞こえるなど、あらゆる感覚が鋭くなったようだった。
建物の外からでも何となくではあるが、そこに誰がいるのか判るようになった。
三階の窓からそっと病室へと入る。
鍵がかかっていようと私には関係のない事だ。
もう死んじゃってるからスルッと何処へでも入れるもの。
その病室は個室で窓際に置かれたベッドの上に例の男が沢山の機械と繋がれて寝ていた。
その隣にある簡易ベッドには、男の母親だろうか?
年配の女性が疲れた顔で眠っている。
「…まだ目は覚めていないみたいね。ま、もう少し眠っていてもらった方が都合がいいわ。じゃあ、せっかく来たしちょっと失礼。」
麻世は寝ている男のおでこに手をかざして頭の中を覗いた。
今回は目が覚めたのか様子を見がてら、今までの記憶の書き換えをしておこうと思って来たのだ。
茜の父親の事を探ろうとしていた私の事を忘れてもらわないと、後で面倒な事になる気がしたからだ。
「さて、これでよしっと。楓の事が全て終わるまでは寝てて欲しいけど…。さすがにそれは私の力ではどうにも出来ないからなぁ。まぁ、時々様子を見に来ますか。」
麻世はそう呟いて再び窓から外へと飛んで行った。
麻世が出て行って少ししてから眠っている男がほんのわずかに顔をしかめた。
「うぅ…。」
悪い夢でも見ているのかうなされているようだ。
このまま目を覚ますかと思われたが…また静かに眠ってしまった。
男が次に目覚める時は一体いつなのか…?




