麻世とクロ 第6話
クロは静かな声で私を諭すように言った。
「もう今さら無理だよ。それにアタシにはそんな気ないし。…もう誰かを憎んだり恨んだりするの疲れちゃったんだよね。」
「…そんな!じ、じゃあ私は!?私はこれからどうしたらいいの?一人で何かに向かうのは怖くなっちゃった。クロが側にいるのが当たり前になったんだよ?」
「ふふっ。だからアタシが麻世の中に入ったんじゃない。これからはどんな時も一人じゃないよ?ずっとずっと一緒。…麻世なら大丈夫だよ。」
何だか少しずつ声が聞き取りにくくなっている気がする。
もうあまり時間がないのかもしれない…。
「ね、ねぇ、クロ?声が聞こえづらいよ?お願いだからもっと話そうよ!…お願い!一人にしないで。」
「も〜麻世は寂しんぼだなぁ。心配しなくても大丈夫だって!きっと一つになったら分かる。何の心配もいらないって。アタシは麻世。麻世はアタシ。二人で一つになるんだよ?だから、大丈…夫。今まで…ありがとう。これ…からも、よろし…くね。」
最後は急に途切れ途切れになり、どんどん声が小さくなっていった。
スゥッとクロの気配が消えたのを感じ、それと同時に胸の辺りがホワッと暖かくなった。
あぁ。そういう事か。
一つになる、溶けていくってこういう事なのね。
「…クロ。私の方こそありがとう。一緒にいてくれて嬉しい。これからはずっと一緒なんだね。」
私はほんのり暖かくなった胸に手を当てて、小さな声で呟いた。
その時、頭の中に映像が流れ込んできた。
沢山の映像…目を逸らしたくなるようなモノばかり。
クロ…。私も一緒に背負うから。
流れる映像が最後、ピタッと止まる。
見えている景色は窓ガラスに鉄格子がはめられていて、その窓ガラス越しに満月が浮かんでいる。
「これは…そうか。茜ちゃんのお父さん…最後にこの景色を見たのね。でも、なんでこれが…?」
声が聞こえた気がした。
…マヨ、アリガト。
「クロ…最後にお父さんと一緒に…。」
どんなに酷い親でもやはり親なのだ。
父親が最後に見た景色を一緒に目に焼き付けたんだ。
クロの目線で今までクロが見てきた全てを見た。
「辛かったね…。やっぱり私達が思った通りになっちゃったんだ。そうなって欲しくはなかったけれど…。反省してくれてればクロがこんな事しなくて済んだのにな。…でも、仕方ない。これは因果応報。結局自分に返ってくるのよ。」
私はフゥッと大きく息を吐き顔を両手でパチンッと叩いた。
「よし。行こう。」




