クロと茜の父 第5話
◇
当時の記憶が蘇り、自分で思っていたよりも手に力が入ってしまっていた。…危なかった。
怒りに任せて危うく、あっという間に死なせる所だった。
こんな奴、簡単に死なせてなんかやらない…。
ちゃんと反省するまでお仕置きしないと!
◆
「…うっ。ゲホゲホッ…ハァ。」
苦しい。上手く息が吸えない。
…なんでだ?
なんで俺がこんな目に遭わなくちゃならないんだよ!?
意味わかんねぇ!こんなのあり得ないだろっ!?
俺は首を絞められて霞む視界の先にある黒い目を見た。
漆黒の闇。
ポッカリ開いた穴に吸い込まれそうだった。
このまま見ていたらおかしくなりそうで、思わずギュッと目を閉じた。
◇
さぁ、ここまで追い込まれてどんなリアクションをする?命乞いをするのか、はたまた逆ギレするのか…?
対応次第では助けるのも考えなくはないけど…。
ま、あり得ないでしょ。
◆
俺の首を掴みながらガキがまた顔を寄せて言う。
「ねぇ、お父さん。なんで私が来たのかわかる?」
気を失う寸前で止められ、朦朧としていた。
焦点の合わない目でフラフラと首を横に振る。
「わかんないの?…嘘でしょ?私に何したか覚えてないの?」
なんで来たのかなんてわかるかよ!
アイツに何をしたか?
あぁ。身に覚えがある。
これは仕返しなんだな。
俺を殺しに来たのか?復讐ってやつか…。
◇
信じらんない!
やっぱりこんな奴は生きているべきじゃない。
アタシも茜も痛い思いして、寂しい思いして辛かったのに!
絶対コイツここから出てもまた同じ事するでしょ?
悪い奴はどんなにお仕置きしても悪いままなんだよ!
今までもそうだった。
自分より弱くて守らなくちゃいけない存在を痛めつける奴にロクな人間はいない。
いつも最後は口先だけで何度も謝って命乞いをする。
自分が助かりたい一心で。
…コイツもたぶんそうだ。
◆
俺がした事は確かに最低だ。
自分でも分かってる。
でも、だからって殺されなきゃいけないのか?
そんなのおかしいだろ!?
「…ゴホッ。ハァハァ。な、なぁ。俺がわざと死なせた訳じゃないだろ?謝るからさ!頼む!許してくれないか?」
◇
少し回復したようで、茜の父親が急に喋り出す。
「……」
アタシは無言になる…やっぱりか。
「頼むよ!それがダメなら……俺を殺してくれ。」
「は?何言ってんの?何も反省してないのに簡単に死ねると思わないで。」
言ってから「あれ?」と思った。
死なせる事だけがお仕置きじゃない…?
いや、でも他に酷い目に遭う子を減らさないと。




