201号室と麻世とクロ 第8話
…そこでふと頭をよぎる。
この男を憐れだなんて思ってるけど、もしかしたらやってる事は同じじゃないんだろうか…?
いや、コイツらは自分のした事の報いを受けるべきだと思う。…自業自得でしょ?
でも、本当にこれでいいのか。と時々考えてしまうのだ。
麻耶と私の違いはここなのかな?
「復讐は何も生まない」なんて、ありきたりなドラマの台詞みたいだけれど、それを全く考えない訳じゃない。
でも、今更後悔した所で私のやってきた事は消えない。
クロみたいに私の中にも複雑な感情や常識なんてモノが無ければ、こんな風に悩む事もないんだろうか…?
床を雑巾掛けして這いつくばっている男を見下ろしながら、私は何とも言えない複雑な感情を持て余していた。
「はぁーー!終わったぞ〜!!こんなにしっかり掃除したのなんて久しぶりだわ。つっかれたーーっ!」
男はそう大きな声で言いながら、敷き直した布団にゴロンと転がった。
「あ、この後はどうすんだ?何かこの後もするつもりなんだろ?」
私に向かって男は語りかけた。
「少し休んでいいわよ…お疲れ様でした。いきなり動いたせいで体の負担も大きいでしょう?」
「…そうか?じゃあ、俺ちょっと寝るわ。」
「はぁ〜い。」
本当に疲れていたんだろう。横になってそんなに経たずに男は寝息を立て始めた。
「クロ。茜ちゃんのお父さんの居場所がわかったわ。」
「ホント?クロ アカネノ オトウサンニ アエル?」
「会えるわ。でも…会ってどうするの?」
「…ン?マヨ シリタイノ?」
一瞬にしてクロの気配が変わる。
これは…ダメなやつだ!
ドス黒い感情が私にも流れ込んでくる…。
またあの目だ。
「ぐっ…うぅ。」
懸命に堪えるが力を抑えきれず暴走しそうになる。
もしかしたらクロの存在自体がトリガーのような役割をしているのかもしれない…。
今まではこんな事なかったのに!
クロに感情移入し過ぎたせい…?
血が全身をグルグル巡っているのがわかる。
カァッと体中が熱くなる…。
「ク、クロ…やめ、て…。も、む…無理。」
「フフフ…マヨ ムリ?ナンデ?」
「うぅ…うっ……はっ!はぁはぁ。」
クロが笑みを浮かべながらスッと気配を元に戻した。
「マヨ ガマン シナクテイイ。ガマン イラナイ。」
「そういう訳にはいかないのよ…ハァハァ。困ったわね。」
まだ息が上がっている。
次にまたクロがこうなった時に対処出来るのか不安だ。
次は耐えきれず誰かれ構わず攻撃してしまうだろう。
何とかしなければ…。これはマズい。




