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店ではないが少し寄ってもいいか?と聞かれどこでも大丈夫ですと答えたものの、馬車で移動中も場所を教えてはくれなかった。


馬車が止まって扉が開いた先には、大きな湖が広がっていた。湖畔には野営のテントがはられ既にテーブルや椅子がセッティングされていた。よく晴れた日なのでこの時間でも寒すぎることはなく、暖かい日差しと少し冷たい風でちょうどいい気候である。


案内され並んだ椅子に座る。

エドワードが手配したメイドたちがすぐさまお茶やお菓子を用意する。


「殿下。今日は本当にありがとうございました。あんなに素敵なドレスまで…私すごく嬉しいですわ」


「喜んでもらえてよかった」


エドワードはほっとした表情で微笑む。




──こんな素敵な場所が近くにあったなんて。

今ならお渡ししても大丈夫かしら?目の前のお菓子と比べるといまいちだけど…



「先日のプレゼントも本当にありがとうございます」


「今日つけてきてくれて嬉しい。あんな形で渡してしまい受け取ってもらえないかと…」


「そんなことはありません!それで今日のお礼もかねて殿下にお渡ししたい物があるんです」



後ろに控えていたマギーが袋を渡す。

ソフィアがリボンを外し中のクッキーをエドワードの前に置く。


「私が作ったんです」


少し恥ずかしそうに下を向きながらそうつぶやく。














──あら?殿下からの反応が…ない……?




「あっ…!!」



「申し訳ございません。殿下が召し上がる物をそのままお渡しする訳にはいきませんわね」


「え?あっ…いや…そうでは…」



エドワードが何か言いかけてはいたが、ソフィアは慌ててハンカチに3枚ほどクッキーをより分け同じく後ろに控えていたシモンに振り向き


「私も先に1枚食べますので、シモン様も申し訳ございませんが食べていただけますか?」


「…!!」

「え?私ですか?」


ソフィアがシモンの方に歩きかけた時


「ちょっと…まって!」


とエドワードが伸ばした手が当たり、ソフィアの持っていたクッキーがハンカチと一緒に落ちた。




「「「あっ!!」」」





「す…すまな…」



しばらく誰も動けず沈黙が続いたが


「…申し訳ございません。やはりこちらは持って帰りますわ」


ソフィアは顔をそむけエドワードに見られないように広げたクッキーをリボンでまとめ手に持つ。



「……」



眉を寄せ眉間にシワをつくり苦悶の表情のエドワードはその場から逃げるように、テントから離れ馬車の近くまで歩いて行ってしまいここから姿は見えなくなってしまった。




──やっぱり私は間違えてしまうのね…





「本当に申し訳ございません。ソフィア様」


「シモン様は何も…全て私がいたらないせいですわ」


マギーが落ちていたハンカチとクッキーを拾い上げ自分の荷物の中にしまう。

あちゃーと天を仰ぎ考えを巡らせていたシモンが、あっ!と短く叫んでから、何か企んでいるような笑顔でソフィアに向き直る。













「何やってんだか…エド!」


馬車にもたれかかり沈んでいるエドワードにシモンが声をかける


「ソフィア様可哀想だろ?」



「…」



「エド!」




「…なんで…」


「は?」


エドワードの声が小さかったのでやや乱暴に聞き返す。

くるっと向きを変えエドワードはシモンを睨みつけ詰め寄る。


「僕より先にクッキー食べようとするって何事?しかもソフィアから手渡しとか?」


「ソフィアが僕のために作ったクッキーを!!僕がものすごく感動してる間に何で先に食べようとしたのかな!!それでも僕の友達か?側近だろ!!」



「しかもなんでシモンは名前で呼ばれてるのかな!それも気にくわない!!」


片足でダンダンっと地面をふみつける。


「今日はここまで()()だったのに!後少しだったのに!!後少しで兄上みたいになれたのに!!」











「…だそうです。ソフィア様」


シモンがすっと体を横にずらすとソフィアがキョトンとした顔で立っていた。



「!!!!!!!!!!!!!!!!」



発声できない声をあげ真っ赤になったエドワードが馬車の後ろ側に逃げた。






◇◆◇



「殿下?大丈夫ですか?」



「…すまないソフィア…」


まだ真っ赤な顔のまま、動揺の隠せていないエドワードだったが2人は椅子に座り直している。シモンもマギーもその他メイドたちも今は離れたところから見守っている。



一息いれ諦めたようにエドワードが話始める。



「昔、僕と秘密にした約束って覚えてる?」


「殿下とその話をしたのは覚えてますが、内容までは…申し訳ございません」


「ソフィアは本当に幼かったし…。それじゃあ…これは?」


そう言ってエドワードがソフィアに見せたのは先程の本屋で受け取っていた袋の中身。


『完璧な王子様』と書かれた絵本であった。


「これ…」


「君がすごく好きでよく読んでた絵本だよね」


「……あっ」













『エドワード様はどんな子がお好きですか? 』


勇気を振り絞って聞いたあの時


『僕は僕のために着飾ってくれてる可愛いソフィアが大好きだよ』


エドワードの言葉を聞いて舞い上がった。


『ソフィアは?どんな人が好き?』


『私は、かっこよくて優しくて完璧な王子様(エドワード様)が大好きです!!』










──思い出しましたわ。え?でも…間違ったこと言ってないわよね?秘密にするほどのことかしら?



「この絵本、アイザック兄様がモデルになってるんだ」


「え?」


「兄上は全てにおいて本当に完璧な人で、僕は何をやってもかなわない。だからソフィアの理想も兄上なんだと思って…」


「ソフィアが兄上を好きなんて言ったら僕との婚約も簡単に無くなるかもしれないから秘密にしてもらって、僕が兄上のようになるからって約束して…僕も相当子どもだったね」



くしゃっとでも暖かい笑顔でエドワードは続ける


「あーでもやっぱり僕は完璧にはなれない…」




そう言って悲しそうにソフィアを見つめる。



「そんなことはございません!!」


「今日も全てかっこよかったです!!」


「私…私…」





「ソフィアもういいよ。僕が約束にこだわって君を傷つけたことは事実だし、こんな無様なところを見せてしまったし…」




──ここで間違ってはダメ!!




「私は昔も今も、目の前にいるエドワード様が好きです!私の中ではエドワード様が完璧な王子様なんです!本当に大好きです!!大好きなんです!!」


立ち上がり一気に叫ぶと、ボロボロと涙が流れてきて息を吸うのも苦しくなるほどしゃくりあげる。子供のように泣く感じでもう淑女なんて言ってられない。


「ソフィア…?本当に?」

「本当に僕でいいの?」

「え?今名前呼んでくれた?」


うんうんと頷きながらも泣きまくっているソフィアにオロオロしながらも、喜びが込み上げソフィアに近づき抱きしめようとした時



「はい、そこまで」


とシモンが後ろから止めに入る。マギーがソフィアの側で涙を拭き落ち着かせる。


「シモン!いや今いいとこ…」


「正式発表まで待ってくださいね」


さっきまでとは違い完璧に側近の顔になってシモンはにっこり微笑む。








ゴネにゴネて絶対に手は出さないと約束し、帰りの馬車は2人で座っている。



「ソフィア。もう一度名前で呼んで?」


「!!」


真っ赤になるソフィアを楽しむようにエドワードはソフィアの手を取り指に軽くキスをする。


「エドワード様!!それは…」


「ふふっソフィア好きだよ。後でさっきのクッキーくれるかな」


今度は手の甲にキスをして上目遣いでソフィアを見つめる。





──それは…ずるいですわ。エドワード様!!






馬車がスタンリー家に着きエドワードの手を取って降りて来るソフィアを見つけ伯爵が走って来る。



「殿下。送っていただきありがとうございます!ああ愛しのソフィア大丈夫だったかい…ん?顔が赤いけどどうした?」


「なっ何でもありませんお父様!」


「エドワード様本日はありがとうございました。また次お会いできるのを楽しみにしております」


「うん。また次ね。伯爵ではこれで失礼する」


エドワードが乗り込み、シモンが礼をして馬車に乗り込み走り出すのを見つめるソフィア。見えなくなると玄関に向かって歩き出す。


「マギー。何があったんだい?」


おかしいと父親の感なのか質問する伯爵に、私の口からはお答え出来ませんと先に進んでいるソフィアのあとを追う。


「ソ…ソフィア~」


またまたがくっと肩を落とした主人をロイドが屋敷に向かって背中を押した。

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