4 エドワード視線
王宮にあるエドワードの自室。
窓を背にしてソファーに座っているこの国の第2王子に対し、側近のシモンは腕組みをし、静かに、しかし確実に怒りを込めた声で話しかける。
「わかってるんだよな…エド」
中等部からの友人でもあるシモンは室内に2人しかいないので口調が崩れる。
「…」
エドワードは視線を合わさないように横を向き足を組み替える。
「なんでソフィア様を前にするとああなるかな」
大きなため息をつきシモンは再度エドワードを見おろす。
「刺繍の入ったハンカチも自慢したおし、見せてくれって言った俺にも見せず、そこの引き出しにはいってるよな」
「あのやたらと難しい本も自分より早く読み終わったって感心してたし」
「夜会だと他の誰とも踊らせないように睨みきかせてたし」
それでも拗ねたように横を向いてるエドワードに最大級のため息を吐く。
「約束したんだ。僕はまだその約束を守れてない…」
「子供の頃だろ?どんな約束だよ…それソフィア様は…」
「…覚えてないと思う」
先日のお茶会、ソフィアは約束を交わした日と同じ髪型だった。思い出してくれたのかと嬉しくなったがそうではないとすぐに分かった。
あの時ソフィアはまだ5歳。
覚えてなくてもいい。あの時目を輝かせて笑ってたソフィアの願い事を叶えてあげたい。
「絶対勘違いされてると思うけど…そこまでこだわるなら嫉妬して拗ねるのはかっこ悪いと思うけどな」
「あれは、聞いた報告が…あまりにも…」
「報告って?
前も言ってたけど…まさか自分の暗部をうごかしてるんじゃないよな?」
「…」
答えずごまかすように目線が泳ぐ。
シモンは一瞬目の前が真っ黒になり倒れないように踏ん張るために机に手をつく。
暗部とは王族が情報を集めたり、表立ってできない処理をしたりする部隊で、第2王子であるエドワードには2人がついている。
「普段はそんなことはしてない!あの時は領地に行くって言うし、あのダンが絡んできそうだったから…」
「あーあのサイモン子爵のご子息だよな?商会も引き継いで会長やってるんだったか。子爵がスタンリー伯爵の補佐してるからいるだろうけど」
「僕がいるから抑えてはいたけど、学園でも中等部までソフィアに会いに行ってたし、なんか勝手に幼馴染みとか言い出すし変に敵対視してくるし」
「お祭りの準備とかで会う機会増えたのをいいことに手を握るわ一緒にお祭り楽しんだりダンスも踊るわ僕がいないからって無意味に距離も近いんだよ!」
エドワードは憎らしいダンの顔を思い出しながら一気に喋りバンっと机に両手を振り下ろす。
事細かく報告するんだな…絶対普段しない仕事で喜んだなこれは…
「2人きりとかじゃないだろうしそんなに…」
「僕は一緒に出かけたことがない!!」
「職人たちだってソフィアに何回も会いたいからデザイン変えたのかも…!」
部屋を歩き回りながら止まらず喋り続ける。
「おいおいそれはいくらなんでも…」
あーソフィア様が絡んで喋り出すとこんなにも面倒になるのか…とシモンは意識が飛びそうになるのを必死に耐える。
ためていたものを吐き出すように喋り続けふっと我に返り、ストンとソファーに座り直す。
「分かってるんだ…余裕ないのは…これじゃあ理想の王子様にはなれないな…」
明らかにトーンダウンしたエドワード。口を手で覆い頭をさげて小さくなる。
やれやれと一息入れたシモンがあっと気がつく。
「そうだ!今日スタンリー伯爵が陛下に謁見を申し出たそうだ」
「なっ…!!」
エドワードは立ち上がりシモンの顔を見る。
「今この時期陛下に何を言うのか想像できるよな。伯爵はソフィア様を溺愛してるから。早くて明日には申請通ると思うぞ」
「いいのか。今まで正式では無いにしろエドがいたから誰も名乗りを挙げなかったけど」
「その盾が無くなるかもしれないぞ」
「ソフィア様の横に他の男が、ダンが寄り添ってもいいんだな!」
「そんなこと認めるわけないだろ!!」
──それだけは絶対に嫌だ
「今から父上に会ってくる!」
自室から走り出す。シモンも急いで後を追う。
◇◆◇
「何事か?エドワード。急ぎの要件か?」
上着を脱ぎながらエドワードの父親、エゼルバルト国王が威厳ある低い声で尋ねる。
「急に申し訳ございません父上」
王子とはいえ公務中には時間がさけず、夕食前の僅かな時間に会うことができた。
「明日スタンリー伯爵に会うとお聞きしました」
「で、お前はどうしたい?」
椅子に腰をかけ息子が何を言おうとしてるのかが分かっているのかニヤリと笑う。