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「はぁ…次は殿下に認めてもらえるのかしら…」
朝メイドのマギーに支度をしてもらいながらソフィアはまたため息をつく。
前回のお茶会での失敗を反省し、自分の頑張りを褒めてもらうのではなく、エドワードに喜んでもらえることを模索しつつ自分磨きも忘れず心がけている。
「そもそも私の容姿が殿下の好みじゃない…とか…」
「なんてこと言うんですか!ソフィア様は可愛いです!」
「ふふっ、ありがとうマギー」
凄い勢いで言われて照れながら笑ったソフィア。
今マギーが髪をといてくれてるので動かず目を閉じていたら…
──殿下の好みか…確か子供の頃そんな話をしたような…
「はい。完成ですよソフィア様。今日は宝石商の方が来られるんでしたよね?」
「え?」
昔のことを思い出そうとしてた時に今日の予定を言われ、一瞬全ての思考が止まるソフィアだったがすぐに思い出し
「そうね、今日だったわ。作ってもらってたものが仕上がって持ってきてくれるのよね」
「お茶会に間に合って良かったわ。喜んでもらえると嬉しいのだけれど…」
ありがとうソフィア…と満面の笑みで受け取ってくれるエドワードを想像して
1人頬を赤く染めるも、また何か間違えてる気もして落ち着かなくなる。
──大丈夫、今度こそ大丈夫よ
『エドワード様はどんな子がお好きですか?』
『……………………………』
子供のソフィアの問いかけにエドワードが何か答えてるのに今のソフィアには声が聞こない。
でも答えを聞いて子供のソフィアがとても嬉しそうに笑ってる。
──私すごく嬉しそう…
そう思ったところで、はっと目を覚ます。
朝の食事が終わり宝石商が来るまで自室で本を読んでいたがほんの少し寝てしまったようだ。
「寝てしまうなんて学園が休みだからって気を緩めすぎね。」
うたた寝をしてしまい反省していると執事が呼びにきた。
「ソフィア様、商人が着きました。応接室に待たせております」
「ロイドありがとう。今行きますわ」
◇◆◇
婚約の約束がかわされてから続くお茶会。
余程のことがない限りお互いの家で行われるため、今回はスタンリー伯爵家での開催となる。
経験のあるスタンリー家ではあるが、王族を迎える為朝から使用人総出で動き回っての準備は毎度のことだ。
ソフィアも朝早くから準備をして既に少し疲れてはいるが、大好きなエドワードに会える嬉しさが勝つ。しかし、いつもの試練を思い出し少し緊張もしている。
『………』
不意にこの前の夢を思い出しマギーに髪型のリクエストを出した。
「ようこそお待ちしておりました殿下」
出迎えたソフィアを見てエドワードは驚いて目を大きく開けた後、笑顔を見せた。
「…!!」
不意に見たエドワードの笑顔にソフィアは胸が高まる。
「ソフィア……とても素敵だ」
1歩前にすすみソフィアとの距離をつめたエドワードは、全体を編み込みしてサイドに三つ編みでまとめ小花を差し込み青色のリボンで結んだソフィアの髪の先を少し持ち微笑んだ。
──リクエストしてよかったわ。夢の中で子供の私がしてた髪型。今日は大丈夫かも。
いつもと違うエドワードに舞い上がったソフィア。話も弾み穏やかな時間を過ごした。
ある程度の時間が来た時
「今日は殿下にプレゼントがあるんです」
とマギーに合図を送る。すっとソフィアの手元に持ってきたのは白い箱。
ソフィアはその箱を開けてエドワードの前に置く。
「これは…」
「殿下にと思ってデザインから考えて作りましたの」
それはエドワードの髪と同じ色のようなシトリンを使ったカフスボタン。
カットされた見事な宝石の上に彫刻で透かし模様を入れた銀細工を施した見事な出来であった。
留め具にも彫刻と小さなエメラルドをはめ込んである。
エドワードが手に取って見てる。
──ここで殿下に喜んでいただかないと!
「何度もデザインを変更して、納得できるものをと職人も頑張ってくれました」
「宝石も何回も見に行って決めたんですの」
「入れてる箱もはじめはもっと飾ってあったんですが、開けた時に宝石が際立つようにとアドバイスをもらって…」
「…ありがとう」
礼は述べているが、何故か低く感情のない声が聞こえる。
──想像してた反応と違いますわ…まさか…私また…
「僕とは月1度のお茶会だけなのにね。ソフィアは他の人とは何度も会うんだね?」
「…!!」
「えっあっでも、これはずっと殿下を想って殿下のために…」
──また間違えてしまった!!でも…でも…
「…今日は楽しかった。もう帰るよ」
エドワードはソフィアを見ることなく部屋を出ていこうとした。
「殿下!お待ちください。今日は…」
側近がエドワードを止めようとするが
「黙れシモン!帰るぞ!」
止めようとした手を払い除けそのままエドワードはスタンリー家を後にした。
「ソフィア様」
「マギー…また私調子に乗ってしまったのね」
ソフィアは泣くこともできずただ下を向き耳に手を当てる…そこには先程のカフスボタンとおそろいのピアスをつけていた。
──本当に毎日殿下を想い、殿下の為に頑張ってたつもりだったのに…私やっぱりダメですわ…
◇◆◇
「ソフィア!!どうした!!何があった!!」
「…お父様申し訳ございません。私今は話したくないんです。そっとしておいてください」
ベッドに潜り込み顔も隠してしまっているソフィア。
愛する娘が夜食事もせず部屋にこもってると聞き、部屋まで急ぎやってきたスタンリー伯爵はオドオドしてなおも声をかける。
このやり取りは毎度のことではあるが…
「ソフィア、嫌なら嫌とはっきり言ってくれないか?ソフィアが辛いなら私がなんとか…」
「失礼します。旦那様ソフィアお嬢様にお届けものです」
「またか!!」
「はい。エドワード殿下からです。今回は側近のシモン様直々にお持ちいただいております。応接室にお通ししましたがいかがいたしましょうか?」
私が行くと言いかけたスタンリー伯爵をソフィアが止めた。
「マギー支度をお願い。ロイド、シモン様には少しお待ちいただいて」
「「かしこまりました」」
「お待たせしましたわシモン様」
「いえこちらこそ申し訳ございませんソフィア様」
シモンは椅子にも座らず待っていた。そしてソフィアの顔を見て深々と頭を下げる。
「おやめくださいシモン様。おかけになって。私は…大丈夫ですので」
「こちらを…」
言われて座ってからシモンは白い細長い箱をソフィアの前に置く。
「本当は今日これをソフィア様に渡すつもりで殿下もご用意していたんです」
「これは…」
箱を開けるとエメラルドのネックレスとピアスが入っていた。
「殿下からではなく私からのお渡しで申し訳ございません。後こちらも…」
受け取った封筒には来月のお茶会の招待状がはいっていた。
では私はこれでと、見送りも必要ないと辞退してシモンは帰って行った。
「殿下…」
「ソフィア様」
マギーがソフィアを支え、部屋まで連れていき寝るまでそばに寄り添った。
全て見ていたスタンリー伯爵は、また肩を落とし落ち込んでいた。