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可愛いカーライルちゃん。

王子様の婚約破棄~先にしたのはお前だろ。


「カーライル・ハーシュハイザー、

可愛い貴方との婚約は破棄させて貰うわ!」


今日はシュラフ王立学園の卒業式。

堅苦しい式典が終わり、会場を移して卒業生のみで和やかな卒業パーティーを行っていると突然婚約破棄を宣言された。


「...はい?」


突然の事に理解が追い付かない。

だって最近の婚約破棄って男の方からするのが多いんじゃないの?

それに俺は王子だよ、正室じゃなく側室の子で第3王子だけど。


「あら可愛らしく間抜けな顔ね、間抜けなのはおつむ()の中身だけじゃなかったのね」


余りの事に呆けていると1ヶ月振りに見た婚約者の、いや元婚約者になったアシュリー・フンボルトが嘲けた表情で笑った。


「アシュリー仕方ないよ、婚約者を取られる位の間抜けで可愛い王子様なんだからね」


「ああユーリ...」


アシュリーの後ろから現れたのは同じく1ヶ月振りに見たユーリ・スケコタン。

シュラフ王国の隣にあるスケコタン王国の王子。

俺と違い奴は長男、王太子だったな。


名門と名高いこの王立学園には世界中から留学生が集まっているのだが、こいつは王子である俺の婚約者を奪った時点でアウトだ。

奴の評判と共に学園の名声まで落としたな。


「おいカーラ、こりゃ何だ?」


隣に居た友人で宰相の息子、サザーランド・モルゲンが呆れた顔で呟く。

幼馴染みの奴は昔から俺をカーラと呼ぶ。

女みたいだから止めろと何度言っても改めないから俺も愛称で答える。


「ランちゃん、俺が聞きたいよ」


「その呼び名を止めろ!どれだけ学園でからかわれてきたか!」


目を剥いて身体を震わせるランちゃん。

2メートル近い筋肉質な大男だからな。

顔はイケメンだが。


「2人共止めなさい。

それよりあの馬鹿令嬢よ、梅毒が脳にでも回ったのかしら?」


胸倉を掴み合う(俺は掴み上げられ足が浮いている)俺達を諌めながら猛毒な言葉を吐き散らすこいつは同じく幼馴染みのアナリシス・バーロー。

黙ってりゃ美貌の伯爵令嬢なのに。


「梅毒か、お前伝染(うつ)されてないか?」


それは心配ご無用だ。アシュリーと肉体関係はおろかキスさえした事が無い。

しかしランちゃん、お前は王子の俺に対しとんでもない口を利くな。


「お前こそ大丈夫か?あいつの股の緩さが改めて解った以上、俺は実に心配だ」


「サザーランド、貴方まさか...」


アナリシスから立ち上る凄まじい殺気。

この2人は幼少からの婚約者同士で相思相愛なのだ。

3年前に王子と認知され、急遽婚約者を宛がわれた俺との違いが凄い。


「馬鹿な事を言うな、俺はアナリシス一筋だ!」


「...サザーランド」


「アナリシス...」


見つめ合う2人、何だこの三文芝居は?

こら皆も拍手するな!

馬鹿共(アシュリーとユーリ)を見てやれよ。


「すまん、アシュリー続けてくれ」


「...ふざけないで」


「は?」


「ふざけないで!婚約者が可愛いあなたと婚約破棄を宣言してるのよ、悔しがるとか無いの?」


何で俺が怒られなきゃならんのだ?

怒るのはこちら側なのに。


「いや、お前の実家は侯爵家だろ?

良いのか、こんな大勢の人達が居る面前で」


アシュリーの馬鹿らしい振る舞いにフンボルト侯爵家が心配になる。

あいつはどうでも良いがフンボルト侯爵夫妻は良い人だ。


側室の産んだ俺を皇位継承の暗殺から護る為、殺された事にして親子共々サザーランドの家、モルゲン家に雇われた家政婦とその娘として隠してくれたんだから。


でも徹底し過ぎて親父(国王)はなかなか俺を王子として認知してくれなかった。

(母親に似過ぎたのが原因かもしれない、よく姉妹と間違われた)


「話を誤魔化さないで、私分かってるのよ!」


「分かってる?」


「しょっちゅう学園を休んでばっかり!

私を放ったらかしにして可愛い貴方は遊び歩いてたんでしょ?」


「アシュリー?」


何でそうなる?

俺は3番目とは言え王子だぞ?

王族としての公務もある、親父(国王)に代わりサザーランドとアナリシスも一緒に役目を果たしてたのに。


「気安く呼ばないで。

それに引き換えユーリは私の為に沢山の品と気持ちをくれた。

卒業旅行楽しかったわね」


「ありがとう。

愛しいアシュリーに寂しい思いをさせる可愛い婚約者みたいな事、僕には出来ないよ」


成る程、1ヶ月間見ないと思ったら旅行してたのか。

よくあいつら卒業出来たな。

アシュリーが身に着けている宝石はユーリからの贈り物だろう。

何と身内に甘々な国だ、そりゃああなるわな。


「お金目当てなんかじゃないの、私はユーリとの愛に生きる事にしたのよ、可愛いカーライルが遊び歩いて私をほったらかしにしたから悪いのよ?」


アシュリー、説得力0だ。


「んな訳あるかよ」


貴女(馬鹿令嬢)いい加減にしなさい」


妄言にランちゃんとアナリシスが言い返す。

すまん、馬鹿な奴等の為に。


「あんた達もコイツ()が休んでる時一緒だったわね、何?3人デキてるの?」


「「はい?」」


馬鹿も突っ切れば爽快だね。

アナリシスと俺が?

そこにサザーランドが入って俺達本当の(アナ)兄...止めよう。


「今、何て言ったの...」


いかんアナリシスがキレた、こいつはサザーランド一筋だからな。

馬鹿の妄言でも許せないのだろう。


「何度でも言ってやるわ、誰彼股を開くビッチ令嬢が!」


おいアシュリー自己紹介は止めろ。


「...貴様何を言っている」


こりゃいかん、ランちゃんまでキレた。

そりゃ愛する彼女をビッチ呼ばわりされりゃキレるわな。

誰もアシュリーの言葉を信じちゃいないが。


「3年前にくじ引きでカーライルの婚約者に選ばれただけの癖に偉そうにしないで!」


おいアナリシス、それを言うな!

確かにめぼしい貴族令嬢は全て婚約者が決まっていたが。


「仕方ないでしょ?

ハズレ引いちゃったんだから!」


今ハズレって言ったな!


「おいカーラ、ハズレだってよ」


繰り返すな!


「うるせえラン坊!」


さすがに言葉が荒くなる。


「誰がランボーだ?」


かっこよく言い直すな!


「茶番劇は止めよう、アシュリー行こうか」


「ええ、こんなのに構ってると馬鹿が伝染るわ。

さようならカーライル、私はユーリと行くわね」


「行くって?」


「カーライル、貴方は本当可愛いのに最後まで馬鹿ね。

スケコタン王国に決まってるじゃない。

私はユーリの妻になるの。

将来はスケコタン王国の王妃よ!」


「...おいカーライル、あいつら知らんのか?」


「....サザーランド、どうやらそうみたいだ」


「...本物の馬鹿を見たわ」


俺達は顔を見合わせる。

いや俺達だけでは無い、アシュリーとユーリを除いた会場の皆が唖然としている。


「スケコタン王国は我が国への併合が1ヶ月前に決まったぞ」


「え?」「誰?」


パーティー会場の扉が開き、威厳溢れる1人の男が入って来た。

会場の皆は慌てて(ひざまず)く。


「...親父?」


「こらカーラちゃん、ちゃんと陛下と呼べ」


いや思わず言っちゃったけど親父、今「ちゃん」を2回言わなかった?

しかもカーラって。


「貴様のスケコタン王国は1ヶ月前に我がシュラフ王国へ併合される事が決まった。

国民への発表はまだだが貴族達には既に通達しておるぞ」


親父は先程と同じ内容を繰り返す。

大事な事だから二回言ったんだね。


「...嘘だ」


「嘘では無い、貴様は自分の国から連絡を受けて無いのか?」


受けて無いよね、だって旅行してたんだもん。


「嘘だ!婚約者を寝取られた可愛いカーライルが哀れで俺にこんな嘘を!」


「いやカーラが哀れとか関係ない、寧ろ(むしろ)可愛いと感じてるなら嬉しいくらいだが」


『こら糞親父!』

さすがに声には出さず心で叫んだ。


「確かにカーラは...いいな」


「ええ、ユーリがカーライルにそんな感情を持つのは仕方無いでしょうね」


ラン!アナ!貴様等!!


「嘘、スケコタン王国が併合?」


お。アシュリーは信じたか?

国王が冗談でそんな事言うわけ無いからな。


「民を(かえり)みず贅沢三昧、とうとう我が国への借財を返しきれずだ」


仕方ないから説明してやった。


「どうして教えてくれなかったの!」


いや逆に何故教える必要があるんだ?


「そうだ、お前はアシュリーの可愛い婚約者だろ!

どうして俺に教え無いんだ!」


「ユーリ...」


滅茶苦茶な理由だな。

浮気してる婚約者に教える訳ないだろ。

それに今は元婚約者だ。


「あのな、カーラはスケコタン王国の為に頑張ってくれたんだぜ」


「そうよ、本当なら反乱が起きて滅んでいた所を収めて...」


ランちゃんとアナリシスは馬鹿な2人に説明した。

俺が親父に頼まれスケコタン王国の状況を確かめる為に何度も足を伸ばした事、

2人にも頼み財務状況を調べ、何とか再建出来ると親父に報告した事を。


「そんな、お前は我が国の恩人なのか、女みたいな可愛いお前が...」


今何て言った?


「お前に恩人呼ばわりされるのは嫌だ」


「え?」


「王子の婚約者を奪ったんだ。

それに国の財政くらいは知っていただろ。

それでも贅沢三昧したお前を許すと思うか?」


「お、カーラがキレた」


「久し振りね」


サザーランドどアナリシスが嬉しそうだが、そんな事はどうでも良い。


「そんな、じゃあ俺はどうなるんだ?」


「知るか!」


「俺が嫌いなのかカーラ!?」


「好きな訳ねえだろ!」


ユーリは泣き叫ぶ。

何で嫌いと聞く必要があるんだ?

あと俺はカーライルだ。


まあ奴も一応は王立学園の卒業生だ、贅沢しなきゃどこかの国で仕官の口くらいあるだろ。

雇ってくれるかは知らんが。


「...あのカーライル」


まだこいつが残っていたな。


「なんだ」


「私目が覚めたわ!」


「目が覚めた?」


「やっぱり侯爵令嬢たるもの王家に嫁ぎ、国を支えるべきよね。貴方が可愛い過ぎるなんて関係無い、私良い奥さんになるわ!」


「馬鹿も休み休み言え」


「カーライル?」


「目が覚めた?目が腐ってるの間違いだろ?

散々人を貶めといて今更俺の妻?

お前にはそこの馬鹿(ユーリ)がお似合いだ」


「ひ、酷いわ、命の恩人の娘に何て事を...」


命の恩人?

アシュリーの両親、フンボルト侯爵家の事か。


「陛下」


「なんだカーラ...イルちゃん」


「フンボルト侯爵は何か言ってましたか?」



「そこの馬鹿(ユーリ)と家の娘が寮を抜け出し旅行に行ってしまったと聞いた」


「それで?」


「フンボルトの奴、『私の不徳の致す所、如何様にも御処分を』とうるさいから、アシュリーの貴族籍を抜き、息子に家督を譲るよう言ったがな」


成る程、落とし処としてはまあまあか。


「カーラちゃんと、後は頼む」


親父は部屋を出ていく。

こんな馬鹿に付き合わせて申し訳無い。

でも句切るとこおかしくないか?


「嘘、嘘よね?私、平民?

え?お父様、嘘、どうして?」


アシュリー...壊れたかな?


貴族意識と贅沢はこいつの拠り所だったからな。

それでも哀れとは思わん、全て自業自得だ。

最後にちゃんと言っとくか。


「おい!アシュリー」


「...カーライル?」


「元侯爵令嬢アシュリー、貴様との婚約は取り消さして貰うぞ!」


「嘘、カーラ私が嫌いなの?」


「嫌いに決まってるだろ!」


「キャアアアアァ!!」


髪を掻き毟るアシュリー、完全に壊れた様だ。

叫び声を聞き部屋に飛び込んで来た衛兵達に引き摺られる、


「ついでにそこで失禁してるのも頼む」


ランちゃんはユーリを指差し、衛兵は手際よく2人を部屋から連れて行ってくれた。


すっきり解決!


「うし、決まった!」


「カーラ、今それを言うか?」


「ランちゃん、けじめだよ」


「けじめなら浮気に気づいた時にしろよ」


「やだね、絶対に」


ランちゃんには悪いが、俺には奴等に普通の罰では許せなかったのだ。


「何故だ?」


「あいつら3年前に俺を女と勘違いしやがったからだ!」




おしまい。

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