入学前夜
「あぁ、終わってしまう」
小太りの少年がベットに横たわりながら、黄ばんだ紙ペラ一枚を手に持ちつぶやいた。少年が持つ紙ペラには文字が書かれているが、少年が文字を読み終わる度に前あった文字が消え、新しい文字が浮かび上がってくる魔法の紙だった。
少年が紙ペラの文字を読み終えたのに、新しい文字が浮かんでこない、紙の真ん中に物語の終わりを告げる文字が浮かんでいた。
少年の目から、すっと涙が流れた。
「あぁー、久々に面白い話だったのにぃ」
少年がベットの上で左右にゴロゴロと悶えるように揺れていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
コンコン
「リア様、プデンが出来上がりました」
きっちりと髪を束ね、清潔な黒い服に白いエプロンを着けた若い女性がドアを開けて部屋へ入ってきた。
綺麗な顔立ちをしているが、無表情でどこか冷たい印象を与える目つきをしていた。
「アーシェラ、すぐ行くから」
リアは小太りの身体を重そうにゆっくりと起こし、アーシェラの待つ食卓のある部屋へ向かった。
食卓は二人で食事を取るのがやっと位の小さな物で、その上にプデンと呼ばれるデザートが置かれていた。
アーシェラはリアが椅子に腰掛けると、黄色いプデンの上にトロリとした茶色の液体をかけた。
「オホホォー美味そう」
リアがムッチリした手でスプーンを持ち、プデンをすくい上げた時、アーシェラが言った。
「リア様、最後のプデンで御座います」
リアはピタリと動きを止め、鋭い目だけをアーシェラに向けた。
アーシェラは冷たい目に恐れと決意を宿し、リアを見つめていたが、突如として平伏し、震える声で直訴した。
「このアーシェラ! 命を賭してお願い申し上げます!」