第六章 沈黙のエレジー
読んでくださりありがとうございます^^
*第一章〜ここまでで、すこしだけ加筆したところもあります。
このように時々修正していきます。
ご了承ください。
なお、話の筋には変更はございません。
では、どうぞ。
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六章 沈黙のエレジー
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剣をかざせ 遠くまで
矢は疾風の如く 雪を裂く
天と地をわけた あまねく神々
この星に愛を咲かせた 君という花
もし葉が枯れるなら 僕はその礎を築こう
もし根に水がいかないなら 僕はその糧を与えよう
広く大きな水溜まりは それは大地の母だと
広がる大きな両翼は それは天の父であると
木々の芽吹きに 萌え出る緑と
歌声高らかに うそぶく青は
はてなく燃える色に染まる
悲しみは去らない 決して去らない
けれどよろこびは 君が見つけなければはじまらない
ならばいっそ その心を駆り立てればいい
自分の掌に転がる運命を その光と信じ
闇にひそむやさしさを感じて
きっと先にはあるはずだからと
永久につづくことはないいのちを
だからこそうつくしく輝くと信じ
全うした君はうつくしい
君が消えたとなりは ひどく虚しい
けれど
君が残した道しるべを 見つけるために
だから
愛し 愛され つづいてゆくならば
愛され 愛し 生きてゆこう
それを君が愛したように
それが君を愛したように
僕はそれを慈しみ 君をなつかしむ
そうして 君を愛せるならば
それが 君を愛するということならば
それこそ僕の本望
すべてに捧げる 沈黙の祈り
♪‖・‖・‖・‖・‖♪
これは挽歌。大切な人を失ったひとりの青年がつくったと言われる歌だった。
この詩は天と地のはじまりを、その恵みを歓ぶ歌のように聴こえる。けれどそのなかには嘆きが、それからたゆまぬ深い感情、未来を見い出す祈りが込められているのだ。
その日のことを、あたしもよく憶えていた――。
月がとてもきれいな夜だった。翌日には王宮にあがってはじめて歌姫として歌を披露することになっていて、ひどく緊張した覚えがある。
だから夜風を受けながら歌った。当時はあまり歌の意味にこだわらず、ただ好きな心に響く音の歌を歌っていた。
なぜそのときその歌を唄ったのかわからないけれど、たしかそのときはとても悲しい気配がしたのだ。
切なく胸をしめつける、絶望と落胆の念が……風を伝ってきたように感じた。
どうか、楽になればいい――そう思って歌ったのだ。
まさか、本当にだれかが――フィリィップ王子が聞いていたなんて。
「……その翌日、広間で君の歌声を聴いて、すぐに同じ歌声だとわかったよ……声をかけたかった。話をしたかった。お礼を言いたかったんだ」
唄い終わって息をつくと、フィリィップ王子が静かな声でそう言った。
俯くと、長い前髪に隠れて緑の瞳は見えなかった。けれどなぜかあたしは泣いている気がした。
「でも、勇気がなくて――父にせがんで、君をしばしば城に呼んでもらったんだ……」
声をたてて笑い、いまだ目を伏せたまま彼はつづける。
「僕は君に救われたんだよ、リア。君の歌は、なぜかとても心地いい……」
顔をあげた。まっすぐに。
その深い眼があたしを射る。
「リア」
魔法にかけられたみたいだ。動けない。
思考が感情についていかない。身体はただ彼の命に従って動かない。
歌うために立っていたあたしの目の前までツカツカ歩いてくる。武器を失ったあたしはただその瞳に射られて行き場をなくす。
見上げる形になって、あたしはまだ目をそらせずにいた。
そしてその表情が、強い決意に満ちるのを見た気がした。
「だからね、次は僕が君を救う番だよ」
なにをしてくれると言うのだろう?
ばかだ、この人は。
もう、殺せなくなってしまったじゃない……。
「帰るといい。梯かロープをもってこよう。君ならこの高さからでも降りられるだろう」
「な、なにを……」
「兵士が待機しているなんて嘘だよ。ああ、だけどたしかに下階の部屋の前では衛兵がいるからこの部屋にきたのだけどね。歌の邪魔をされたくなかったし」
わけがわからない。淡々と話すフィリィップ王子を見つめ、言葉を失った。
「大丈夫さ。今宵は歌姫と過ごすと言ってある……たとえ歌声が聴こえたって平気だよ」
「そうじゃないわ!」
にっこりと言う彼に眉をひそめ、声を荒げる。するとフィリィップ王子はやや怪訝そうに小首を傾げた。
この人はばかよ。あたしを騙して……助けたんだ。
聞こえてはまずい会話をするからわざわざ上の階まできたんだわ。暗殺者があたしだと確認して――。
「……あなたは王にむいてないわ」
半ばあきれて彼を見つめる。
「きっと国は滅びてしまうもの」
「どうして」
フィリィップ王子はすこし首を傾けたが、いまだ変わらず穏やかな表情だった。なにもおかしいことはしていないと、自信を持っているのだ。
「だってあなた、やさしすぎる。罪人を罰することができない国王なんて、国を滅ぼすだけよ」
おかしなことだけれど、あたしは本当に心配になった。この人が国王になれば、世の中の罪人すべてを見逃してしまうような気がする。お人好しにもほどがある。
フィリィップ王子はくすりと声をたてて笑った。目を細め、やはり柔く微笑する。
「本当の罪人かそうでないかくらい、わかるよ」
「それじゃあ、なんであたしを――」
「君は極悪人じゃないだろ?」
どうしてこの人はこんなにあたたかいのだろう。ぽかぽかのひだまりに包まれているようで、なかなか離れることができない。
殺そうとしたあたしを、悪人ではないと言う。
愚かなのか慈悲深いのか、わからない。
「……やっぱりアンタは、王さまにはむいてないよ」
「僕もそう思うよ」
にっこりして彼は頷いた。
あきれる。けれどどこか圧倒される。
器が大きい人間、とでも言うのだろうか。とにかく、彼はあたしとはちがう世界の生き物のような気がする。
見方がちがう。世界の広さが。
暗殺は失敗――あたしに帰るところはないのに。どうしてくれるのよ、ばか王子。
頭ではわかっているのに、心はあたたかい。
心臓をぎゅっとつかむように、胸をおさえた。
「また僕を殺しにくるといい」
にっと口の端だけをあげて彼は言った。
あまりに穏やかすぎる表情で。
「僕はいつでもここにいるよ……だから、ここまでおいで」
王子さま。
アンタはあまいよ。愚かでお人好しな人間。
けれどそうね。たしかにアンタは噂通りの王子さま。
わかった気がする――フィリィップ王子の人気の高さが。
暗殺はまだ失敗していない。ならば再び機会はある――フィリィップ王子に会う機会が。
ならばあたしはまた来よう。
あなたの待つ、ここへ。
☆雑談☆
そういえば・・・で思い出したのですが、前書きで「史記」の刺客の話を読んで暗殺者×王子様を思いついた…といった私ですが。。
それに拍車をかけたのは、ポール・ボードリーの描いた一枚の絵。
シャルロット・コルデーという女性が、マラーという男性を暗殺した絵でした。(フランス革命あたりですかね?)
マラーは浴槽に入っていて、ナイフで心臓を――。
とても怖い、けれどどこか美しい絵でした。
マラーは兄弟の長男らしいです(笑
で、シャルロットはその美貌から暗殺の天使と呼ばれたそうな……
人間って怖いです。絶対暗殺しなさそうな人が、国のためにと自らの命すら冒して行動しちゃうのですね。
どちらがいいか悪いかわからないけれど。。
ポール・ボードリーの絵は教科書にのっているかもしれませんよ^^
★余談★
こちらも前書きで「韓非子」について述べましたが。
今回出てきたセリフです><
魏の恵王が卜皮に尋ねるんですよ、自分の評判を。で、彼は「慈愛に満ちた人間はむごいことができず、国は滅びる〜」とかなんとか言うわけです^^
それをまぁ、今回使わせていただきました笑
長々と書いちゃいました!
それでは引き続き、どうぞ!