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第三章 仮面舞踏会






†△▲△▲△▲†



三章 仮面舞踏会






‡・†・‡・†・‡・†・‡




 ずっと、このまま追いかけていたい――。

 あたしは暗殺者で、彼は逃げていく。あたしはそれを追って、いつまでも捕まえられずに、生きていく。

 彼を追うことを、自分の生きる理由にして。





「馬鹿ねぇ」

 語尾をやけに長く伸ばして、デジルは大袈裟にため息をつく。

「まだ失敗したわけじゃないもの。いいじゃない。別に」

「どうせ恐くなって逃げ出したんでしょう。だから練習しておけばよかったのに」

 ムッとして言い返してはみたものの、すぐにデジルは小馬鹿にしたように笑った。口で彼女に勝てるわけがない。

「なんなら、今からでも付き合ってもらえば。ボスはあんたのこと、それなりに気に入っているし」

 くりくりした目をぱちぱちさせて、彼女はなんでもないように言う。

 だけどあたしは、だれとでも寝れるわけじゃない。

「いいよ。あたし、身体使わなくても、殺れるもん」

 意地を張っただけだと言われたらそうだけれど。でもあたしは、あたしを安くしたくなかった。

 ひとつくらい、組織に背いたっていいでしょう?



「本当に馬鹿ね。男なんて、みんな一緒よ。簡単に殺せちゃう……笑えるくらい」

 デジルはそっと目を細め、遠くを見やる。

 恐くなかったと言えば、嘘になる。今目の前にいるこの人間は、国王を殺したのだ。誘惑し、油断させ、あっけなく。

 それも躊躇なく、いつも通りだとでも言うように。

 空恐ろしい。

 あたしも同じことをしなくちゃいけないのだと思うと、背筋が凍る思いだった。無意識に肩を抱きしめる。


 フィリップ王子は、あたしが命を狙っているって気づいたのだろうか。それとも、疑いは晴れたのだろうか。

 けれどもし気づいていたなら、わたしをあの場で取り押さえたはずだし、尋問したはずだ。もし情けで見逃したならば、それはただの愚か者。まだチャンスはある。

 次こそは――。






‡・†・‡・†・‡・†・‡




「仮面舞踏会?」

「ああ。これなら顔を見られずに殺せる。好都合なパーティーさ」

 ボスは不精髭をぼりぼりかきながらそう言った。

 今、あたしははやく王子を殺せと催促を受けている真っ最中である。そもそも、組織に依頼してきた人間はとても巧妙らしく、凄まじい計画をしているらしい。

「はやく第一王子を殺せなきゃ、第二王子も殺せない……最悪、デジルにやらせるぞ」

 依頼主は苛々している、だからはやく仕留めろと、そういうことだ。

 人に任せてしまえば、いっそ楽なのかもしれない。けれど、せめてもう一度、あたしが……。

 ただ彼の顔が見たかったからなのかもしれないけれど。


「あたしが殺りますよ、ボス。仮面舞踏会に紛れ込めばいいんでしょ」

 変装は得意なのよ。

 にっと笑みを浮かべ、あたしはその場をあとにした。





 仮面舞踏会が開かれるのは、今夜。ドレスや化粧道具はデジルから借りることにして、さっそく準備をはじめる。

 髪は黒く染めて、軽くウェーブをかける。肌はいつもより白めに粉を塗り、唇に紅をひいて、仮面で隠れない口元にホクロをつけた。

 真っ赤なルビーのイヤリングに、サファイアのネックレスをつけ、純白のドレスを着る。宝石はすべてよくできた偽物だけれど、本物との区別なんてわからない。

「よし、よし」

 鏡の前で思わずにんまりとする。仮面には、紺色で目がつり目ぎみの、あまり派手ではないものを選んだ。

 どこからどう見ても、妖艶な魅力的な女性のできあがりだ。純情な歌姫ではない。

 自分の変装力にうっとりする。完璧だ。

 ――今度こそ、仕留めてあげる。赤く染めて、死なせてあげる。




「今宵、王子さまはいらっしゃらないみたいよ」

 びっくりして、思わず震えあがった。

 唐突に話しかけてきたのは、顔を銀の仮面で隠した、スタイルのいい女性だった。


 きらびやかなシャンデリアや、純白のレースに黄金の柱、真紅の絨毯。肉汁たっぷりのステーキに山盛りされた果物……城では盛大なパーティーが催されていた。

 そんな広間にやってきたあたしは、人々のダンスの誘いを断り、フィリィップ王子を捜していたのだ。しかし彼はなかなか見つからず、半ば苛々していた。

 人のいないバルコニーで頭を冷やそうとやってきたそんなとき、突然なんの前ぶれもなく、見ず知らずの女性が声をかけてきたのだ。

「あっ、あたしは別に……王子を捜してなんか――」

「動揺を表に出しちゃいけないわよ、リア」

 ふふっと小馬鹿にするように笑うと、その女性は片手に持っていたグラスをあたしに渡した。

「もしかして――デジル?」

 声をひそめて仮面の下から尋ねると、彼女は満足そうに笑った。

 単純にすごいと思う。今彼女はショートの金髪で、背が高めな女性だった。デジルの面影などみじんもない。

「あんたもよく化けたけどね」

 慰めるように彼女は言った。

「いいわよ、別に。それより、フィリィップ王子は参加しないの?」

「ええ。風邪をひいたらしいわ。確かな情報よ」

 落胆と焦燥が一気に押し寄せてくる。またもや暗殺が未遂のうちに終わってしまうではないか。

 はやく片付けてしまいたい。中途半端な自分が顔を出してなにか言いそうで、気持ちが悪い。悶々として落ち着かない気分を、はやく抜け出したかった。


「ボスから言われているのよ。今週中に片付けろって」

 おもむろに、デジルが話しはじめた。なんだろうと耳を傾ける。

「あんたが暗殺できなかったときは、わたしがやることになっているのよ。でね、きっともう、こんなチャンスはないわ」

「今夜片をつけるってこと」

「そう。王子暗殺に失敗は許されないから」

 それじゃあ、あたしの立場は?デジルが彼を殺すなら、あたしはやはり用なしではないか。

「ボスもおかしいわよね。あんたをこんな重要な仕事につけるなんてね……失敗なんて、目に見えてるのに」

 ムッとして顔をしかめる。思わず仮面を引き剥がして反論してやろうかと思ったくらいだ。

 しかしなんとか堪えた。たしかに、はじめての仕事が王子暗殺なんて、おかしなことだったから。


 なぜ、あたしに?


「だから、今夜わたしがやるわ。あんたはさっさと帰りなさい」

 わがままな子供をさとすように彼女は言う。

 ああ、けれど。むかむかとする。譲りたくない、そう思った。

「あたしが、やるわ」

 ぽつりと落とした言葉は、思いの外強かった。

「あたしにやらせて。あたしだって、王子の部屋の場所くらい、知ってる」



 仮面をはずす。人はあたしたち以外にいなかった。

 強く彼女を見つめる。絶対に引き下がりたくなかったから。

 夜風が頬をうつ。冷たいそれは、ナイフのように刺さった。



「任務失敗はなにを意味すると思う?」

 仮面の下で、彼女が笑ったような気がした。たぶん、気のせいだ。

 あたしが黙っていると、彼女は声を低め、言った。

「それは、死なんだよ……あんた、死にたいの?」










★雑談★


サイレント・プレア〜溺唄の人魚姫〜の、

サイレント=沈黙、沈黙の/プレア=祈り〜なのですが、これはおわかりでしょう。

人魚にも問題はありませんね?


では、いきなりですが、ここで質問!

みなさん、『溺唄』って読めますか?

読めなくてもなんら心配はありません!

私がつくりましたから!(ぁ


いろいろ考えました…溺愛だとか惑溺だとか。

葬るとか溺れるとか、シリアスな、それでいてどこかファンタジックな感じの出る言葉を使いたかったので。

それでまぁ、悩んだすえ、もういいや!となりまして…(苦笑)

作品に関係ある、好きな雰囲気の漢字を選んでくっつけ、『溺唄』となりました\(^^)/

『できばい』と読みます(笑)



意味は……そうですね〜(-.-)y-~

唄に溺れる?

溺れた唄?

うーん???(ぉぃ

とにかくそれっぽい感じですorz


ど、どなたかいい案ありますか〜?

あったら教えてくださーい(爆)



それでは引き続き、どうぞ!




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