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第一章 歌姫と暗殺者

―沈黙、祈り―

あなたの瞳に溺れて死にたい。


サイレント・プレア〜溺唄の人魚〜



●こんにちは!

今回は王道にいかに私らしさを組み込むかということに挑戦してみました(笑)

あまり達成できませんでしたが……(-_-;)



詳しくはあとがきでたっぷり語りたいと思います♪

ですので、あとがきまで読んでくださればとても嬉しいです。




★漢文のお話になるのですが、むかし戦国の七雄(秦・魏・楚・趙・韓・燕・斉)というのがありまして、司馬遷の書いた『史記』というものに、秦の始皇帝の刺客となった荊軻という男の話があります。

そこから暗殺者×王子様というシチュエーションをもらいました(笑

史記はまったく恋愛ものではないのですが、すごく切ない話です。。

他にも、『韓非子』からもちょいと頂戴しましたセリフもあります。(*^^*)


中身は漢文とは真逆な世界です、洋風です。




それではどうぞ、王国らぶストーリー(たぶん)をお楽しみください。




*このお話の約六年後が舞台となる、『王国の花名』もどうぞよろしくお願いします!






†△▲△▲△▲†





一章 歌姫と暗殺者











‡・†・‡・†・‡・†・‡





 「殺してあげる」

 冷たく言い放ち、じっとその緑の瞳を見つめる。

「ねぇ。そのきれいな瞳を、濁らせてあげるよ」

 不敵に笑った――すくなくとも、あたしは笑ったつもりだった。


「紅い血で、染めてあげる。きっと今より、アンタはハンサムになるよ」

 銀にきらめくナイフを振り上げる。そのまま、まっすぐに彼の心臓を目指して振り下ろす。

 頭のなかで何度も描いたシチュエーション。

 ズタズタにしてやるつもりだった。なにか果てしない感情をぶつけるように、壊してやりたかった。

 あたしをこんな立場にしたのは、彼のせいだ。こいつがいたから、あたしは暗殺者にならなくちゃいけなかったんだ。


 ねぇ、でも大丈夫よ。

 きっと今すぐに――殺してあげるからね。





‡・†・‡・†・‡・†・‡



 はじめてその人に会ったのは、まだ裏の仕事を知らなかったとき。あたしは歌姫として、王宮に呼び寄せられた。

 そのときボスから、「王子の顔をよく覚えておけ」なんて言われたけれど、気にしなかった。王子さまになんて興味はなかったし。

 歌は好きだ。うまく唄えば褒められるし、生きていける。歌があたしの生活手段――そう思ってた。





「暗殺?」

 この、あたしが?


 歌姫としてはじめて城に呼ばれた日の夜、暗殺計画を告げられた。

 冗談でしょう、と笑ってみたけれど、ボスは真剣な目で、薄気味悪い笑みを口元に浮かべたまま言った。

「冗談なものか。このためにおまえを歌姫として王城に送り込んだようなものなのに」

 雷にうたれたように、愕然とした。目の前がまっくらになる。

 あたしは、暗殺者にされるために、生かされてきたのか。すべて、それだけのために。

 歌がうまいだとか、そんなんじゃなくて。

 ただ、彼を殺すために――。


「どう、やって殺せばいいの……わ、あ、あたし、わからない!」

 ぼろぼろと言葉を落として言ってはみるけれど、その声は頼りない。ダダをこねる子供のように、逆らえない使命にうなだれる。

 ボスはにやりと下品な笑みを浮かべ、まばらに生えた髭をぼりぼりとかく。その目に嫌悪を覚え、思わず自身の肩を抱きしめた。

「リア、おまえならできるさ。殺し方なんて、慣れればできる。まぁ、もし不安なら、テジルにでも聞きゃあいい。ヤリ方くらいは、教えてくれるだろうよ」

 直感とか、あまり信じるほうではない。だけどこのときばかりは、強く本能で、いやな予感を感じたんだ。

 ――捨てゴマ?いや、もしくは……

「なんなら、練習を見てやってもいい。まぁ、幸運を、祈るよ」

 ニタニタしながら、ボスはあたしを残してその場を去っていった。





「暗殺のやり方ぁ?」

 テジルは組織のなかの姉さんみたいな存在。表向きは猛獣使い――うちの組織はサーカスや楽団として国を渡り歩くから――で、裏の仕事はやっぱり殺し。

「眉間の間を力強く殴りとばす!」

 ケラケラ笑いながらテジルは言う。絶対からかっていると気づくほど、ニタニタ笑みを隠そうともしていない。

「あとは、拳銃を獲物の口に入れてズドン。絶対しとまるわよ」

 くすくす笑いながら、彼女は説明しはじめる。さも楽しいというように、口を三日月型に歪めて。

「頭を狙ったって、だめ。殺せない場合もあるもの。ちゃーんと急所を狙わなきゃ」

「わかってるわ。あたしが聞きたいのは、どうやって暗殺までもっていくかよ――つまり、相手への近づき方……それを知りたいの」


 ふふんと鼻で笑うと、テジルは髪を無造作にはらう。香りがぶわりと散って、色っぽさが出た。

 思わず見とれてしまうと、彼女は満足そうに目を細め、声を落とす。

「獲物は、男よね?」

 こくりと頷く。テジルは顔を近づけ、さらに声をひそめた。

「なら簡単よ。あんたは女、相手は男――力じゃなかなか勝てっこない……なら、どうやって相手を油断させる?」

 首を傾げ、色っぽい唇を横に引いて、テジルはあたしを見つめた。

 あたしは鈍いほうじゃない。だいたい、彼女の言わんとしていることがわかってしまう。

 顔をしかめたあたしを見て、テジルは満足そうにあたしの亜麻色の髪をなでる。

「賢い子は好きよ」


 もう、引けない。

 やるしか、ない。


「失敗はしちゃだめよ」

 見上げた彼女の瞳は、冷たかった。まるで脅されているよう。

「そうしたら、その始末はわたしがつけなきゃならなくなるから」

 目を見開く。震え出す身体を抑えることができない。

 始末?それじゃあ、あたしはどうなるの?

「殺るか殺られるか……あんたの選択は、それだけ。だから、使えるもんは使ってでも、先に殺りな」


 彼女は……こういう仕事を、何度こなしてきたのだろう?

 あたしは……



 この組織には、入りたくて入ったわけじゃない。親が幼いときに死んで、叔母さんに売られ、そうして生きてきたんだ。

 それでも、あたしの仕事は歌だと思ってた……まさか、自分が暗殺の仕事に回されるなんて。

 裏の仕事に関わってわかったことは、ほとんどみんなが裏と表を兼業しているということ。あたしもその一旦に加わったにすぎないのだ。



 殺して、やる。

 殺してやるよ、王子さま。



 あたしは死なない。身体を使ったって、どんなことをしたって、生きてやる。失敗して、それであたしの人生がおわりだなんて、そんなの絶対にいやだ。

 そう、あたしが殺すのは、王子さま。なんの権威もないあたしが、彼をこの手にかける。


 ――カスパルニア王国第一王子・フィリップさま。















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