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タクトの壊れゆく非日常

視点は勝手に切り替わります。


「タークトっ! 今日は一緒に帰ろっ」


 タクトの幼馴染、ハナ・ロリカ。細い赤髪をおさげにして、小さな体に見合わない大きな胸を揺らす。


「あーハナか。おまえ、単に駅前のアイスを奢ってもらいたいだけだろ」


 毎度のことだ。

 タクトが、はあ、と大げさにため息をつけば、ハナは可愛い小顔をプクリと膨らます。


 かわいいと思ってやっているのだろうな、そして実際にかわいいのだから、男としては憎めない。と、それまでタクトと話していたカイは冷静に考察する。


「じゃあ、カイ、そういうことだから、オレはハナと帰るよ。じゃあな」

「ああ、気をつけてな。ハナさんもたまにはタクトに奢ってやってくれ」

「ム…………ムゥぅ。カイくんがそういうなら、今日だけはわたしの奢りだ。タクトよ、わたしを敬いたまえぃ」

「ははーっ、ありがたきあしあわせー。カイさまありがとうございますぅ」

「いや、俺じゃなくてハナさんに感謝しろよ」


 馬鹿な会話を交わす。

 そんな時のタクトの顔が好きだとハナは思う。

 タクトと駅に向かって歩く。

 ハナは知っている、タクトがカイのおかげで変わったことを。昔から隣に住んでいたから、タクトとは交流があった。けれども、タクトの家はお金持ちで、豪邸で、親は忙しくてタクトはあまり構ってもらえなかったし、祖父母が大変厳しい人たちで、タクトは遊ぶ暇がほとんどなかった。

 タクトは才能もあって努力家であった。しかしそれ以上に、タクト家はタクトを跡取りとして期待を寄せていた。ひとつ何か出来るようになったら、もっと、もっとと、求められるレベルは際限がなかった。

 その頃のタクトは無口な子で、ときどき遊ぶわたしとも最低限しか話をしてくれなかった。それでもわたしはその頃にはすでにタクトが好きで、友だちであることを疑っていなかった。

 厳しいご家庭だったが、期待を一身に受けるタクトに対しては、過分な愛情を持っていたようだった。残念ながらその愛情はわかりづらいものであった。日々ノルマを要求されたが、それをこなせた日には褒められて、ご褒美や好物を作ってくれたという。

 わたしが根気強く少しずつ聞き出せば、お忙しいお母様やお父様からプレゼントをもらった話や、滅多に褒めないお祖父様が認めてくれた話、厳格なお祖母様に頭を撫でてもらった話など、宝物を見せてくれるようにこっそりと教えてくれた。

 一人息子がかわくないわけではなかった。日常で愛することを忘れて、優秀な跡取りを教育せねばという考えのほうが優先されてしまっていたのだろう。けれどもそれは、肝心の息子には届いていなかった。かなしいことに。

 あの頃のタクトはとてもかわいかった。

 わたしたちは遊べる日には泥んこになってかけずり回った。いや、わたしがタクトを引っ張ってかけずり回させていた。

 タクトは無口だが、よく泣く子でもあった。家族みんなが忙しくてさみしいのだと。そして自分が悪い子だからノルマがこなせないのだと。わたしの前でだけこぼしていた。

 オトナでもこなせない訓練や課題を課されていたことを、今ではわかる。でも当時の自分たちにはわからなかった。泣きじゃくるタクトを助けたくて、一緒に課題を手伝ったこともあったが、頭の出来がタクトよりも悪いわたしが逆立ちしても特に何の助けにもならなかったろう。それでもタクトはありがとうと言ってくれる優しい子だった。

 次第に成長していくタクトはだんだん外面を良くすることを極めていった。とりわけ、身内に見せる外面が分厚くなった。

 ああ、彼なりの処世術は、身内に向くモノなのか。と。

 弱みをみせようとしなくなった姿は、格好良いのに、わたしにはひとりで泣くのを我慢しているように見えた。

 でも、それが変わった。

 タクトが、カイに出逢ってからだ。高一の春。

 タクトは良くトラブルに見舞われるのだが、それに関係することなく、出逢ったのが青い髪が印象的なカイ・エトランジェ。

 分け隔てなく人に好かれ、無差別に愛想を振りまくタクトが。愛想笑いではない笑顔で楽しそうに話している姿を、わたしはそのとき初めて見た。

 人間的に相性が良かったのだろう。うらやましいと思った。


「でもね、親友の地位はあなたにゆずるけれども、恋人の座はわたしのモノよ。カイ・エトランジェ」

「ん? ハナ、何か言ったか?」

「ううん。なんでもないよ。ほら、今日はわたしのおごりだからタクトの好きなモノを頼んでいいよ」


 わたしがわたしの力でタクトを変えられなかったことは、悔しい。

 悔しいけれども、わたしはどこまでもタクトのしあわせを願っているから、彼がよりしあわせになったのなら、祝福する。

 カイという親友を得たタクトは、そこから精神が安定するようになった。外のモノに興味を持つようになった。今まで年に数回しかなかった特殊なトラブルも、回数や規模が格段に多く大きくなった。積極的に、知らない他人の日常を守ることをするようになった。

 それもこれも、親友のおかげだ。カイという存在がタクトの原動力となっているのだ。

 前を向いて光の中を歩むタクトは、さらにモテるようになった。これだけはちょっと残念。小さい頃はそれこそわたしだけのモノだったのに、他の厄介なハイエナたちにもタクトの魅力を知られてしまった。

 まあそれは置いといて。だからわたしは、カイ・エトランジェという存在をゆるしているし、感謝もしている。わたしのタクトの親友として。少しばかりわたしも仲良くなった。


「ハナ!!! あぶない! 避けろ!」


 突然、肩を抱かれて地に伏せる。

 地面を揺らす爆音が響き渡る。

 咄嗟に目をつむって、タクトの腕の中で耐える。

 土煙がなくなって、体を起こしてみれば。わたしたちの立っていた背後には大きな穴が開いていた。周りにいた通行人たちは悲鳴をあげながら逃げていく。


「冗談でしょ」

「どうやら、冗談じゃなさそうだ」


 わたしを庇うように、タクトは一歩前に出る。


「誰だ!!!!」


 タクトが問えば、そこには見るのもおぞましい姿のナニかがいた。

 腐臭に鼻が痛くなり、耳鳴りがする。五感すべてが汚染されるような錯覚。

 黒……おそらく黒色のどろどろで、不定形で、形容しがたいナニか。目はどこにあるのだろう。手は。鼻は。子どもがふざけて作った福笑いのようにパーツがちぐはぐだ。足のようなモノが大量についているのは見るのもおぞましい。あんなバケモノがわたしたちに攻撃をしてきたというのか。

 吐き気を気合いで耐える。

 そのバケモノが動いた。同時に、ムチのような鋭いモノを、タクト目がけて振るう。


「くそっっ! 『守護壁』!」


 タクトの魔術により、それは防がれる。


「問答無用かよ!」

「わたしが援護するから、タクトは攻撃に集中して! 『守護陣展開―わたしたちを守って―』」


 地面に赤い陣が広がる。それはわたしたちを見えない膜で攻撃から身を守る。


「次、『魔術威力・身体能力向上―タクトをお願い―』」


 補助魔術のエフェクトがタクトにかかる。


「ありがとうハナ。今度はオレのターンだぜ。バケモノよお」


 タクトは飛躍して、形状記憶させてペンダントにしている剣を取り出しつつ、一撃をくらわす。

 敵に当たった……鈍い音がして、タクトが離れる。だが相手は痛がる様子もない。


 タクトの剣が効かないなんて!


「意外と硬いみたいだな。じゃあこれはどうかな」


 剣に炎を纏わせる。手で印を切って、威力をさらにあげ、真っ白な炎にする。攻撃魔術は決して一般の学生は習わないし、発動させることはできない。さすがの魔学創始者の家系出だ。


「ハァアアっっ!」


 超高熱が敵に当た……るかと思いきや、敵の目前ではじかれる。


「どういうことなの?!」


 そのとき、パチパチと、手を叩く音がした。余裕のある拍手。こんな緊急時に誰が拍手をしているというのか。


「いやはやいやはや。噂には聞いていたが、なかなかの威力だな。数値にすると……ふむふむこのくらいか、なるほど悪くない。やあ勇者くん、今宵はごきげんよう」

「まだ夕方だが?」

「タクト! 今はそんなことどうでもいいことだから! とっとと話を進めて!」

「あ、すまん」

「謝らなくていいから! 早く!」


 バケモノへの攻撃を止めたのは、目を青い仮面で隠した男のような人物。

 なぜかふりふりの全身タイツを着ていて、細身の体型に似合っていた。

 で、その男の抱えているモノが問題だった。


「うそ……タマサキ先輩……?」


 ぐったりとした様子のタマサキ・ピンクハートが腕に抱えられていた。


「おまえ!! タマサキさんに何をしたんだ! 今すぐ解放しろ!」


 タクトが吼える。


「おっと。一歩でもそこを動いてみろ。この子の首が胴体とさよならしてしまうよ」


 仮面の男がにやりと笑ったのがわかった。


「この子はねえ、きみが大好きで大好きでだ~いすきでたまらないみたいでねえ」

 だから、おいしそうだなあって。これは使えるなあって。


「勇者と呼ばれる、正義ごっこをしている子がいるって聞いて、僕はぜひとも会ってみたくなったんだ。ぜひ、僕の実験体となってほしくてね。僕は裏の世界を牛耳るチアシードのしがない一研究員なんだ」


 ねっとりとした声音で男はゆっくりと話す。


「そんなきみと平和的に話し合うには、人質が必要だと思ってね。きみのことを大事に大事に想って想い焦がれている美しい少女とかね」

 どうだい、うってつけだったろう。


「きみに想いを寄せる子は他にもた~くさんいてね。きみはとても果報者で、そして残酷だ。その女の子の中でも頭がおかしくなっちゃうほど、恋焦がれている子は、何人かにしぼれたよ。ああ、きみの隣にいる子もたしかその一人だね。で、その中のもうひとり、たしか、タマサキといったかな。この子がちょうど僕の目の前を通ったんだ。まあ、僕がきみの学校を見に行ったからだけどね」

 この子は、単に気絶しているだけだよ。安心してね。なあんて、言葉を続けた。


 悪役というモノは、いつもこうやって理不尽だ。己たちの都合でしか考えていない。


「おまえの望みは何だ」

「僕? だから、きみ、タクトくんが欲しいだけさ」

「そうか。なら、オレがおまえのところにいけば、タマサキさんを離して、他のやつにも危害を加えないんだな」

「タクト?!?!?!?!」


 悲鳴に近い声が出た。何を言って??


「おや? 素直におとなしくこちらに来てくれるのかい?」


 タクトが男に向かって歩みを進める。あと数歩というところまで来たとき、

「と、思ったか? バーカ」

 目にも止まらぬ速さで、タクトが剣を振るう。


 男はタマサキを放り投げ、右の素手でタクトの剣を受け止める。


「ふふふ。きみは愚か者だったんだねえ。もっと賢いと思っていたよ」

 所詮は子どもか。


「その腕?!」


 感触がありえないほど硬い。


「ああ、これかい? 昔ちょっとね、派手な夫婦喧嘩をしたときに右半身をやってしまってね。その際いい機会だとサイボーグ化してみたんだ」

 どうだい。カッコいいだろう。神経との繋ぎには最新の禁術魔術式を応用してみたんだ。おかげで生身のニンゲンよりも良く動くんだ。こんな風にね。


 タクトの剣は握りつぶされた。


「そんなバカな!!」


 あのアダマンタイト製の魔法剣だというのに!

 サイボーグといえども、おかしいほどに高性能のものであることが今のでわかってしまった。おそらく違法魔物質も使っている。

 剣以上の武器は今は持っていない。それに、先ほど魔法は容易に防がれてしまったことから考えれば、生半可な攻撃はこいつに通じないと見える。


「くそ……! どうしたら!」


 硬直状態だ。

 タクトとハナは出方を検討し、仮面タイツ研究員サイボーグの男は不意打ちに機嫌が悪くなっている。


 緊張がピークに達するそのとき、

「うわっ! あっぶないなーこんなところにゴミ……! 人? え、しかもタマサキ・ピンクハートさん……? どうして道端に寝転んでいるんだ?」

 タマサキが投げられたほうから聞いたことのある声が聞こえてきた。


「え……?! カイ?!!! どうしてこんなところに!」

「はあ? タクト? それにハナさんまで? こんなところって、ふつうに通学路なんだけど? んん? あれ、この状況、俺は出てきちゃダメなやつでは」


 それはカイであった。

 状況を把握しておらず、周りの惨劇な光景に驚いている。

 タクトがこのような危ないことに関わっているのは薄々気がついていたが、自分がそれに関わるつもりは一切なかった。

 そしてそれは、タクトにとっても、カイを関わらせる気は絶対になかった。


「タクト……? しっかりして戦いの途中よ」


 タクトは絶望の表情をしていた。

 親友をこのような戦場に巻き込みたくはなかった。それだけは避けたかった。だから毎回どんなに不自然であっても親友だけには誤魔化しに誤魔化しを重ねていた。嘘をついてでもアリバイを作って、危ない場には絶対に来させないように小細工をしていた。

 それなのに、今回はこのように、一番ダメな場面で親友を関わらせてしまった。

 どうしよう。取り返しのつかない。なあ、どうしたらいいんだ。

 呆然とし続けるタクトを、ハナは見つめることしかできなかった。


 タクトがピンチなことをカイは見て取ると、

「あー、お邪魔しました、よね。それでは俺はこれで、その、見なかったことにしますので」

 と、腰を低くしながら刺激を与えないように、背を向けずに退散しようとする。


 しかしそれがゆるされるはずもなかった。


「はて。人避けの結界を張っていたにも関わらず、この場に乱入できるとは、何奴だ?」


 仮面タイツ……はカイをにらみつける。

 ジッと見る。

 そして、何かに気がついたように、目を見開いた。


「そ、そんなバカな……?! その青髪は……シイシャ? いや、そんなはずは。だって。そんな……」


 シイシャという名前に、カイは男を見上げる。


「俺の母さんの名前をなぜ、変態が、」


 その瞬間、辺りは闇に包まれ、轟音が響き渡った。


「次から次へと、今度は何なのよ?!」

 ハナは悲鳴をあげる。


「フアーハッハッハ! 何なのよと訊かれたら、答えてあげ「あなたは! 宇宙ハーレム軍団の総長若作りのシャーシン! それに、周りにいるのは団員の痴女たちね!」……あの、ハナさん? 毎度毎度最後まで名乗らせてくれないのはなぜかしら?」


 闇が飛散すると、目の前には嫌な光景が広がっていた。

 奇妙な円盤型の虹色をした目に悪い……まるで典型的な未確認飛行物体(UFO)のような形の物体があり。その上には、これからサンバ大会でも始まるのかと勘違いしてしまうくらいの破廉恥な恰好をした美女たちが十数人ほどいて、それぞれが一番美しく見える角度とポージングでキメている。

 そのど真ん中には、先ほど名乗りを上げ損なった一際派手でそして一番年増な女性がいる。

 とにかく目と頭がチカチカする光景であった。


「さあて! 今日こそは、そこのモテ男を私たちがおいしくハーレムの一員に入れてやるわよ! 言うこと聞かないと、そこらのダサダサぶ女を全身成形&適度な運動&適度な食事&自信に溢れた精神に洗脳させて、宇宙一の美女に仕立て上げ、我々の一員に加えてやるんだからね! 一般人に手を出されたくなかったら、おとなしくうちで可愛がられなさい聖男タクト」


 シャーシンさんは、トドメにウインクをした。


「「うっっ」」


 そのウインクに心を打たれたのは、この場ではふたりだけであった。

 そう、タイツ仮面変態研究員男と、カイ・エトランジェ。


「え?」

「「え?」」

「「「え?」」」

 シャーシンとタクトとハナと痴女たちとバケモノの困惑した声が上がった。


 そこでシャーシンはタイツ男とカイの存在に、やっと気がついたようだった。


「え、うそ……でしょ」


 多大なるショックを受ける、破廉恥な青いビキニを着たシャーシンと名乗った彼女。


「お、俺、今からでも帰ろうか?」

「ま、待ちなさい……その、初めての家族会議でも……」

「そ、そうね、そこの変態はどうでもいいから、私の話だけでも……カイくん」



 思わぬところで出会ってしまった、カイと父と母。

この後怒涛の展開のまま終わると……いいなあ。今から書きます。

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