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序章-3

 昼前だというのに、村には誰の姿も見えません。普通なら、仕事をするなり昼食を取るなりしている頃です。家の中にいるとしても、声のひとつも聞こえないのは異常です。

「……誰もいないね」

「そうですね」

「何とかしないとね」

「ええ。その為にも、調査を始めましょう」

「うん! えーと、何したらいいのかな?」

「ふむ……」

 ゲームの話とは言え、これはリヒトさんのチュートリアル。私もそれに倣うべき、ですかね。

「何から始めましょうかね、リヒトさん」

「ええっ!?」

「どこから調べたらいいと思いますか?」

 確かゲームでは、ここで選択肢が出るんですよね。村長の家を訪ねるか、宿屋に向かうか、その辺の家に入るか。最初の選択肢なので、どれを選んでも特に変わりはありませんが。

「ど、どこから調べたらいいの?」

「まずは、ベルントさんが言っていたことを思い出しましょうか」

「ベルントさん……。ええと、ブローチはなくさない!」

「……そうですね。この事件について、なんて言っていましたか?」

「あ、そっか。事件だよね。えへへ」

 照れ笑いするリヒトさん。顔が赤くなっています。これ、本気で言ってるんですよ。可愛くないですか。可愛いですよね。早くいい人を見つけて幸せになるんですよ。その為にも早いところこの事件を解決しないといけませんね。

「えっと、だったら宿屋さんはどうかな? 食堂があるところも多いし、入りやすいし」

「ええ、いいと思います。では、そちらから向かいましょうか」

 確かに、その辺の家に勝手に入るのは気が引けますし、村長の家はなおさらです。ゲームならともかく、現実ではそうそうできませんよね。

「さて、宿屋を探しましょうか」

「うん! ここの宿屋はどういう感じなんだろうね」

 場所にも寄りますが、宿屋は外の人でもわかりやすいような目印があることがほとんどです。そう大きくない村ですし、すぐに見つかるでしょう。


 程なくして、リヒトさんがベッドと食器が描かれた看板を発見しました。これが宿屋ですね。リヒトさんが言ったとおり、食堂が併設されているのでしょう。

「じゃあ、入ろうか? みんな大丈夫かな……」

「私が先に入りましょう。扉を開けたらトラップ型の魔法が発動する可能性もありますし」

「ええ! でもそれだと、マリウスも危ないよ」

「魔法なら問題ありませんよ」

 そういえば、リヒトさんはまだ知らないんでしたっけ。

「きちんと話していませんでしたね。私に魔法は効果がないんです。だから、心配しないで下さい」

「効果がない?」

「はい。特殊属性ということになっています。私は魔法が使えませんが、代わりに魔法でダメージを受けることもありません」

「そ、そうなんだ……すごいね」

「すごさで言えば、あなたの方がよほどですけどね。光の御子殿」

「そ、その呼び方はやめてってば!」

 地水風火、そして光。これら五属性の加護を受ける人のことを御子と呼ぶのはこの世界の人にはわりと当たり前のことなんですけど、加護を受ける当人は嫌がっていることが多いんですよね。何ででしょうか。

「とにかく、私には魔法は効きませんから。こういうのは私が先行します」

「で、でも……」

「それに、トラップ関係はそれこそ経験が物を言う場面です。あなたはこれが初任務ですから、従って下さいね」

「……わかった、けど。気をつけてね」

「大丈夫です」

 さて、扉を開けましょう。一応、物理トラップの可能性も考慮して、剣を構えます。

 ……開きました。問題ありません。トラップはないようですね。

「うわ……」

 リヒトさんが、驚きの声を漏らしました。

「何これ……すごい魔力が濃い。これが、魔法災厄ってこと……?」

「魔力が濃い、ですか。まだ被害者も見ていない内からそれなら、その可能性は高いですね」

「急がないと!」

「落ち着いて下さい。まだ、魔法災厄らしいってことしか分かってませんよ」

「う……そうだよね。えっと、何すればいいんだろう?」

 ああ、懐かしいですね。チュートリアルはこんな感じでした。二回目からはほぼスキップだったので、記憶が曖昧ですけど。

 まずはグリムファクトの一員として、基本的なことを教えて差し上げねばなりませんね。仕事の出来も、好感度には直結しますから。リヒトさんが意中の相手と一緒になるためにも、手を抜くわけにはいきません。

「まずは地道な調査から、です。最初は被害者の確認を。可能なら話を聞きましょう。あなたなら魔力を辿っていけば原因に辿り着くことも可能でしょうが、情報もなしに原因を対処するのも大変ですから」

「う、うん、そうだね。魔道書の回収とか、よく分からないし……」

「たいていは、回収は回収担当がすることになりますね。ですから、原因が魔道書なのか魔法具なのか。属性はなんなのか。戦闘が必要になるのかならないのか。回収に特殊な手段が必要になるのか。……できれば、そもそもどういう魔法が使われて、魔法災厄が発生したのか、あたりまで調査できるといいですね」

「ど、どうしよう。できる気がしない」

「そうですね。これ全部調べられることはそうそうないですよ。ですから最低限、魔法災厄なのかそうでないのか。魔法災厄なら、原因を自分で回収できるのか、人の手が必要なのか。これだけ押さえておくといいです」

「それでも大変そう……。俺、そういう細かい作業苦手だ……」

 ええ、知ってます。ゲームでも、調査パートに入る度に泣き言を言っていましたね。本の整理が苦手で、助けを求めていたこともありました。

「でしたら、回収担当になるかもしれませんね。でも回収担当でもこういうことは必要になりますから、ちゃんと覚えて下さいね」

「はーい……」

 あああ可愛い! 可愛いです! しょぼーんとした顔も、不安そうな顔も、可愛い! さすがリヒトさんです! ああもう、どうしてここに私しかいないんですか! 他の人はまだですか! こんな可愛い子を独り占めなんてできません!

「さて、いつまでも入り口でぐだぐだしているわけにはいきませんし。まずは被害者を探しましょう」

「うん。どこにいるかな? ベッドかな?」

「おそらくはそうでしょうね。ここは宿ですし、従業員は一階でしょうか」

「行ってみよう!」


 予想通り、一階に従業員の居住スペースがありました。

 恐らく夫婦で切り盛りしているのでしょう。二人部屋で男女が眠っています。

「みんな、ベッドで寝てるね。良かった、床とかに頭ぶつけてなくて」

「見た感じ、夜眠りについて、そのまま起きてこない、という風ですね。……魔力の気配はどうですか?」

「うん、結構濃いけど……入り口と同じくらいかな」

「となると、ここに原因があるとは思えませんね。追跡できます?」

「うーん、どうだろ。やってみないと分からないな」

「分かりました。できそうなら言って下さい」

 僕は魔力のことはさっぱりなので、そちら方面は教えて差し上げられないんですよね。ぜひ他の方々に教わって下さい。攻略対象とか、攻略対象とか!

「では、手がかりがないか探しましょうか。リヒトさんは、被害者を調べてくれますか」

「う、うん。頑張る」

 光属性は、回復や浄化が得意な聖なる属性です。被害者の状態を確認したりするのも得意だと聞いています。今回みたいな状況にはうってつけでしょう。

 リヒトさんが被害者について調べている間に、こちらは部屋を調べます。本とか、日記とか、そういうものが見つかるといいんですが。

 ……え、ゲームをクリアしたのなら答えを知ってるんじゃないかって?

 知ってますけど、知ってるからって何も調べず進んで何かあったら困りますし。それにこれはリヒトさんのチュートリアルですからね。

2018.9.13 序章2話を修正したため、こちらも多少手直ししました。

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