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序章-2

 ガタゴト揺れる馬車の中で、私はリヒトさんと二人、座っています。

 この世界は電気の代わりに魔力を使って、便利なものを作り出しているのですが、まだまだ発展途上のようです。電車やバスのような乗り物は王都くらいにしかなく、都市間を繋ぐゲートは非常に高いうえに使用理由が制限されているため、移動は徒歩や馬車、馬を使うことになります。ものすごく時間がかかります。

 今回の緊急任務はとある田舎の村、エーベネでの調査任務です。そのため、エーベネ村から一番近い都市ルトースまではゲートを使って移動。その後、馬車でエーベネ村に向かっています。本当に緊急の場合は車を使いますが、今回は必要ないと判断されたのでしょう。

 今回の任務は、エーベネ村で観測された現象に、魔道書グリモワールの影響がないか、つまりは魔法災厄ではないかを調査するものです。調査し、魔法災厄であれば原因の対処を要請する。可能であれば調査から引き続き対処を行うこともありますが、今回はそうはならないでしょうね。

 私たちの装備は、まず制服代わりの支給ローブ。それから、リヒトさんは魔法の媒体としてのタクトを所持しています。リヒトさんは動きやすいものが好みだと聞いたので、大ぶりの杖よりも軽いタクトを選んだのでしょう。

 私……マリウスの武器は剣です。ゲームでのマリウスは魔法が使えない・効かない特殊体質なので、魔法以外の攻撃手段が必要なんですよね。この世界では魔法が使えないのはなかなか不便ですが、グリムファクトでの仕事のときは重宝します。

 それから、顔を隠すフードをかぶっています。この世界では黒髪黒目は悪魔の印だと嫌われているので、その対策ですね。

 この世界では闇属性は魔の属性。そして黒は闇を連想させるから……ということらしいのですが。確かにこの世界では濃い色の髪と目を持つ人は少ないですね。加護持ちが属性を象徴する色の髪と目を持つくらいですから、ある程度属性と色に関連はありそうです。

 もっとも、この手の考察は私はあまり得意ではないので当てずっぽうですが。そんなことよりリヒトさんを見ていたかったんです。

「ねえ、マリウス。俺、よく分かってないんだけど、大丈夫かな」

 リヒトさんが不安げに言います。

「大丈夫ですよ。私たちの仕事は魔道書が原因かを調べるだけですから」

「俺、調査とかあまり得意じゃないんだけど……」

「大丈夫、きちんと教えますよ」

「そう? ならいいけど……」

 不安に曇っていた顔が、私の言葉で笑顔に変わるのは気持ちがいいものですね。好きな子を笑わせたい恋する人の気持ちが分かります。

「ところでさ。マリウスは敬語とらないの?」

「ああ、これは癖のようなものです。お気になさらず」

「そう?」

 ちょっと不満そうな顔も可愛いですね。でも癖なのは本当なんですよ。前世でもずっと敬語でしたから。周りに年上が多くて、自然とそうなったんですよね。

「さて、今回の任務について、確認しておきましょうか」

「うん。よろしく」

「では……」

 私は、昨日あったことを思い起こします。


 ベルントさんの執務室に急に鳴り響いたベル。難しい顔で連絡を受けたベルントさんは、私と所在なげに立っているリヒトさんに向けて言った。

「……緊急任務だ。二人とも、北西の村、エーベネに向かえ」

「え? 俺が行っていいんですか?」

「当たり前だ。どうせ覚える仕事だ、いつ覚えても変わらねえよ。とりあえずは調査だ。マリウス、いろいろ教えてやれ」

「わかりました」

「それから、これを渡しておく」

 と、ベルントさんが出したのはブローチ。ウサギと杖の紋章は、グリムファクトの一員である事を示すものです。

「これを受け取るからには、グリムファクトの一員として、自覚と責任ある行動を期待する。……それから、このブローチは魔法具アーティファクトでもあってな。魔法による悪影響を遮断するものだ。なくすなよ」

「えーと。もしなくしたら……?」

「再発行はする。が、なくした分と再発行の分でかなりの金が飛ぶぞ?」

「き、気をつけます!」

「気をつけろ」

 リヒトさんは神妙な面持ちでブローチを受け取ると、怖々とポケットにしまいます。

「だ、大丈夫かな。落とさないかな……」

「でしたら、せっかくピンになっているのですから留めておいたらいいですよ。もしくは、紐を通せるようになっていますから、首から提げるなり、ベルトに結ぶなりしておくとか」

「あ、そっか!」

 名案を得た! というように、いそいそとシャツにブローチを留めるリヒトさん。はにかんだ笑みも最高です。

 確かゲームではネックレスみたいにしていましたね。機会があれば勧めておきましょうか。なんならプレゼントしてもいいですね。推しに直接貢げるなんて本当に素晴らしい!

「それから、これも渡しておく」

 次にベルントさんがリヒトさんに渡したのは、四角い魔法具です。

「この通信機は、番号を登録した魔法具と通信することができる魔法具だ。グリムファクト本部、つまり俺の魔法具はすでに登録されているから、報告はそこに上げるように」

 要はスマホのようなものですね。スマホと違って電話しかできませんが、遠距離通信が難しいこの世界では珍しい道具です。

「一緒に任務をこなすメンバーとも、番号を登録しておくといいだろう」

「ええと……マリウス、いい?」

「ええ、もちろん」

 さっそく、リヒトさんと通信機の番号の交換をします。これで、いつでも連絡がとれますね。

「さて、エーベネ村についてだが。どうやら人が眠ったまま起きないらしい。病が出たのなら医者を派遣する必要があるし、魔法災厄ならこちらで対処しなければならない。調査を頼む」

「報告はこちらでいいですか?」

「ああ、構わない。」

「わかりました」

「リヒトは、とりあえず仕事の段取りを掴め。マリウスは調査のプロだからな、得られるものは多いぞ」

「は、はい!」


 はい、確かこんな感じでしたね。

 ゲームしているときは、うつる病気だったらどうするんだろうとか思ってたんですけど、グリムファクトで支給されるローブには毒やら何やらをある程度カットする性能がついてるんですよね。病気もそれで防げると。さすがゲームの世界。

 まあ、ある程度だから油断はするなとは言われましたけど。

「それにしても、ゲートってすごいですね! 王都からルトースまで一瞬で移動できるなんて」

「私たちの任務は急を要することも多いですから、これからも何度も使うことになりますよ」

「でもゲートの後は馬車なんだね」

「王都と違って電車やバスは通ってないですからね。緊急用の車はあるみたいですけど、あれは扱いが難しい上お金もかかるのでなかなか許可が下りないんですよね」

「緊急任務なのに?」

「緊急任務の中でも特に緊急のもの……人の命が関わっているとか、そういう類いのものですね。調査ではそういうのは分からないのが大半なので、使うとしたら回収任務でしょう」

「マリウスは乗ったことある?」

「ありませんね」

「そっかあ……俺もいつか乗れるかな。あ、でも乗るって事は大変なことになってるって事だから、乗らない方がいいのか!」

「ふふ、そうですね」

 でも、普段乗れない乗り物に乗りたい気持ちはすごく分かりますよ。大丈夫、確かゲーム内で車に乗ってましたから、いつか乗れますよ。本人には言えませんけどね。


「もうすぐ、エーベネに着きますよ」

 御者の方が言いました。

 やはり馬車となると結構時間がかかりますね。早朝に出発して、到着は昼前です。

「ほんと? わかった、ありがとう!」

「いえいえ、村をよろしくお願いします」

「うん、頑張ります!」

 しばらくして、馬車が止まりました。

 馬車を降りた私たちが目にした村の姿。

 昼前だというのに人一人歩いていない、活動の気配もない、寂しい村が、そこにはありました。

2018.9.13 説明が足りないところがあったため追記。

『グリムファクト』の世界では、属性は地水風火+光の五属性。

闇属性は魔の属性とされ、人間が持つことはないとされています。

……というのを、本文に書くべきなんですが。技量不足ですね。

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