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傭兵ギルドにて

 一階に降りるとすでに聴取を終えていたらしいヨシアがイートインスペースで軽食を取っていた。俠龍に気がつくとコップをテーブルに戻し、笑顔で手を振る。

 

「よう、早かったんだな」

「うん、すぐ終わったよ。僕のあとにシャロンに聞くような口振りだったから、そのせいかな。ジンレンって人じゃなかった?」

「ああ、そう名乗ってたな。顔だけイタチで、ギルドの支部長だっていってたけど」


「うん、間違いないね」

「へえ、本当に支部長だったのか。新顔に適当に権威をちらつかせてるのかと思ったよ。なんとなく敬語使ってたけど、じゃあ正解か。つかこっちにも敬語表現ってあるんでございますですの?」

「敬語はあるけど、聞く限りシャロンたちの敬語と僕たちの敬語は違うものみたいだね」

 

 雑談を振りながらテーブルのコップを見やる。黒い液体が入っていた。

 

「なに飲んでたんだ?」

「これ? コーラっていうんだ」

「コーラ!? コーラあんの!?」

「うわっ!」

 

 予期せぬ単語の登場に思わず興奮してしまう俠龍。いきなりの大声に周囲からも視線を集めていた。

 

「びっくりした……。どうしたのいきなり」

「すまんすまん」

 

 周囲に愛想笑いを撒いて声量を戻す。

 

「仕事がギルドに管理されてて私刑が裁量で許される世界にコーラがあるとは思わなくって。いや元のとこでコーラが生まれたのが何時代なのか知らんけど」

「へぇ、シャロンの世界にもコーラあるんだ。もしかして過去の異世界人が伝えてくれたのかな」

 

「どうだろうな。自然発生してもおかしくないんじゃね? あ、でも名前も一致してるのは偶然にしては……? コーラの名前の由来ってなんだろう」

「由来は知らないけど、名前も一緒なら同じものかもしれないね。どちらの世界から渡ったものかはわからないけれどね」

「確かにな。コーラ作った人がこっちの出身だとしたら、その人はめっちゃ成功してるぜ。百年以上たっても世界中に愛されるスーパードリンクだ。一口ちょうだい」

 

 俠龍の要求を受け、ヨシアはにこやかに手でコップを示した。

 

「俺んとこじゃそのボディランゲージは『どうぞ』ってことなんだけど、そう取ってもいいかな」

「うん、いいよ」

 

 木を整形したらしいコップを手に取り唇を寄せる。シュワシュワと弾ける炭酸の感触と薫る清涼感。俠龍の知るコーラで間違いなかった。

 

「コーラだわ。俺が知るのと同じコーラだわ。ちょっと炭酸が弱い気がするけど、もしかして結構待たせた?」

「いや、それは来たばかりだよ」

「じゃあ俺が知ってる方が炭酸キツいのか。こっちの方が俺の好みだなぁ。俺いつもちょっと放置してから飲むし。俺も飲みたくなってきた。ちょっと立て替えてもらえない?」

 

 長い服役生活で久しく口にしていない甘い炸裂に、俠龍はすっかり虜になってしまった。ヨシアの了承を得ていざ注文しようとしたその時、背後から声がかけられる。

 

「コーラならオレたちがおごってやるよ」

 

 凛とした響きに振り返る。聞き覚えのある声だ。

 肥の主は森のなかでヨシアに食って掛かっていた三人組、金髪の男、白髭の男、赤肌の男だった。

 

「マジで? じゃあお言葉に甘えようかないやぁ悪いね。ほんとは遠慮しとくとこなんだけど人の好意は黙って受けとる性質なもんで。店員さーん、コーラひとつお願いしまーす」

 

 俠龍はニコニコと笑いながら席を立ち、三人組に向き直った。先頭に金髪の男が立ち、背後に白髭の男と赤肌の男が控える形だ。

 改めて三人を観察すると、いずれも俠龍の知る人類とは違う生き物だとわかる。

 金髪の男はおよそ日光に当たったことがないかの白く、それでいて病的な印象は受けない。慎重に慎重に磨かれた真珠のようだ。碧玉の瞳はそれ単体で美術品として取引されてもおかしくない。なにより顔の両側の耳。俠龍の耳と比べてずいぶんと長く、尖っている。

 白髭の男は対照的だ。浅黒く日焼けした肌にはぽつぽつとした火傷の跡が目立つ。筋肉と相まって天然の巨石を思わせる力強さ。大人としてはその身長が低すぎる。小人症という疾患を俠龍は知識として知っているが、あの疾患ではこんなに筋肉をつけることはできないはずだ。

 赤肌の男はもう身長が異常だ。近くで見るとなおさら大きく見える。二メートル半ば、いや後半だろうか。

 

「さっきぶりじゃないの。髪切った?」

「ふざけた野郎だな」

「気が合うね、俺もそう思う」

 

 へらへら笑う俠龍を睨むように見る。侮蔑を隠そうともしていない。

 

「よう、ヨシア」

「お疲れ、ゴルド。シャロン、紹介するよ。こちらナシノ村のゴルドとシルバ。それからツブテ村のカッパ」

 

 ヨシアが金髪の男、白髭の男、赤肌の男を順に示した。

 

「ゴルドにシルバにカッパね。俺は日本の俠龍。よろしく」

 

 俠龍の差し出した手を無視し、金髪の男……ゴルドは言った。その顔には隠しきれない優越が色濃く浮かんでいる。

 

「邪教徒じゃなかったにせよ、ひとりでずいぶんな大立回りをしたらしいな」

 

 前半に語気を強め強調する。顔は俠龍を向いているが、ヨシアに、ショコラティエに向けて言っているようだった。

 

「ああ、違ったらしいな。俺はよく知らないんだけど、邪教徒かどうかってどうやってみわけるんだ? それは確実なもんなのか?」

「なんだ。そんなことも知らないのか」

 

 ゴルドはため息を吐き、口元に笑みを浮かべた。小馬鹿にしたような笑みだ。

 

「邪教徒には体にシンボルの入れ墨が入ってる。これはひとりも例外がない。入っていれば邪教徒だし、入っていなければ邪教徒じゃない」

「へー」

 

 頷きながら横目でヨシアを見る。視線に気づいたヨシアは無言で頷いた。それが共通認識であるらしい。

 

「でも俺なら、そういう話を広めた上で、あえて入れ墨を入れずに活動するけどな。その方が撹乱なりなんなり融通が利きそうじゃないか?」

 

 俠龍の言葉を聞いたゴルドは今度は笑わなかった。眉間に皺を寄せ、ずいと身を乗り出して深刻そうに言う。

 

「……正気の発言とは思えないな。今まで邪教徒の話を聞いたことがないのか? 連中は合理とか倫理とか常識とか、とにかくそういうものとは違う次元に存在してるんだ」

「急に顔近づけてどうしたよ。キスしてほしいのか?」

「おいヨシア! なんなんだこいつは!」

「僕に聞かれても……」


 苛立たしげなゴルドに怒鳴られ、ヨシアも苦笑を返す。知り合って間もない人間なのだ、人となりなど知るよしもない。

 ちょうどその時、ひとり飄々としている俠龍のもとへコーラが運ばれてきた。


「お、来た来たやったねありがとうございまーす!」


 手早く礼を言い一気にコップを傾ける。懐かしい色と香りが口腔を抜け喉を通り胃に落ちる。その過程で舌を、喉を炭酸が焼く。やや味わいが違うような気がするが、十分な味だ。よく冷えてもいる。


「……くぅー! この一杯のために生きてる! いやどうもゴルドさん。ごちそうさま!」

「………………ほんとになんなんだてめえは。とぼけた野郎にしか見えねえが、本当に液体の悪魔と戦えたのか?」

「それに関しては間違いないよ。私が保証するし、ヨシアも見ている」


 ギシ、と音がするかのようにゴルドたちが硬直する。動くなと命じられたかのように。動く権利を奪われたかのように。

 ショコラティエが喋った。ただそれだけで、彼らは極度の緊張を強いられていた。


「私の保証があてにならないというのも分かるがね。なにせ邪教徒だと言った輩がそうでなかったのだから。間違えたという実績ができてしまったのだから。だが安心してくれ。この男の実力に関してはすぐに知れることだろう。傭兵になるようだからね」


 ショコラティエはパタパタと羽ばたいてヨシアから俠龍の肩へと移り、俠龍を示すように片翼を広げた。


「私も戦いのすべてを見ていたわけじゃあないが、悪魔の気配が産まれてから私たちが合流するまでの間、この男が生きていたのは間違いがない。これに関しては私の推測じゃない。私の関知能力に基づく事実だ」

「俺傭兵になるのかよ。初耳なんだけど」


「そんなことはないだろう。道中もそうだし、ジンレンにも話していたじゃないか」

「あれ、聞こえてた?」

「この建物内なら、壁に阻まれても聞こえるし、挙動もわかるよ」

「すげえな。耳たぶがイヤホンジャックになってたりする? もしくは円の範囲が太刀の間合いより大きいとか」


 感心したようにショコラティエの姿を見やる俠龍とは対照的に、ゴルドは苦虫を噛み潰したように顔を歪めていた。

 ポケットから硬貨を取りだしテーブルに叩きつけるように置くと、そのまま無言で(きびす)を返し、外に出ていってしまう。シルバとカッパのふたりも、それに続いて出ていった。俠龍はその背中を見ながらコーラを煽り、呟く。


「森ん中でもそうだったけどさ、ショコラティエもずいぶんな嫌われぶりじゃないの。なにやったの?」


 自分のコーラを飲み終えたヨシアが硬貨をテーブルの端に寄せながら答える。


「ヨシアはなにもやってないよ。悪魔としては破格なことに、人間に好意的だ。ただ、他の悪魔がね」

「他の?」

「うん。他の。基本的に悪魔は、人間を害するものだから」


 悪魔が棲むのは魔界だが、多くの悪魔は人間界で発生する。はじめは意思のない、ただ浮遊するだけの存在だが、たまたま人の味を覚えた動物に憑き、さらに人を襲わせるようになる。

 そうして人を害し続けた悪魔は強固な自我、強力な魔法を備えるようになり、それから魔界へと移り棲むのだ。


「私は例外的に魔界で産まれた悪魔だがね。野蛮な連中は人間を苦しめることを娯楽とし、趣味の悪い契約を結ばせ徒に苦しめるのさ」

「他人に憑いてる悪魔が勝手に魔法を使って通り魔じみたことをするのも、決して珍しいことじゃないんだ。お陰で悪魔憑きの周りからは自然と人が減るし、悪魔の意識が自分に向くのを嫌うんだよ」

「へー……。にしちゃゴルドさんはショコラティエを挑発してたように見えるけどね」

「彼もまた特別というか、例外的だね。どういう意図があるのかはわからないが」


 小さく羽ばたきヨシアの肩に戻るショコラティエ。そこから俠龍を横目で見やる。そして、どこか攻めるような口調で言った。


「しかしシャロンよ。君はヨシアは呼び捨てにするというのに、あのなんとかには敬称をつけるんだね」

「え?」


 ぽかん、と口を開ける俠龍。その一拍の間を開け、今度はハッと口を大きくした。


「そういやそうだ! 助けてもらっといてなんで俺は呼び捨てして雑に話してんだ!」


 俠龍にとってあの血の悪魔は得体の知れない相手だった。打っても効いているようには見えず、表情がないので疲弊もうかがえない。体力はどこまで続くかわからないうえに、向こうの攻撃は俠龍に効くのだ。時間稼ぎか足止めくらいは出来たかもしれないが、ヨシアが仕留めていなければどうなっていたか。

 なんとかなったはずだ、と思えるほど俠龍は楽観的ではなかった。


 そうやって慌てる俠龍を見て、ヨシアは親しげな笑みを返した。


「そんなこと気にしなくていいよ。シャロンがあの悪魔を引き受けてくれていなかったら悪魔は都市に向かっていたかもしれないし、その前に盗賊は今回も逃げおおせていたかもしれない。もしかしたら探索中の僕たちが不意打ちを受けていたかもしれないんだ。お互い様だよ」

「そういってもらえるのは嬉しいけどよ……」

「それに、シャロンって呼ぶのも、ヨシアって呼ばれるのも、なんというか、収まりがいいんだ。こうするのが当たり前っていうか……。だから、どうか祖のまま、今まで通りの接し方をしてくれないかな」


 柔らかく微笑むヨシア。逆立つ銀髪からは攻撃的な印象を受けていたシャロンだが、短い時間ながらも行動をともにし、話しているうちに、ヨシアはとても優しい青年なのだと気付かされていた。


「まぁ……他でもない本人がそういうんなら、お言葉に甘える形でよろしく頼むよ」

「うん、よろしく」

 

 □


「失礼。あなたがシャロンさんで?」


 なんとなくはにかみ合っていた俠龍とヨシアに声をかけるものがあった。白髪混じりの髪を一部の隙もないオールバックに整え、右目にモノクルを着けている厳めしい顔の男だ。首が太く、胸が厚い男だ。


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「はい、そうです」

「でしょうな。聞いていた通りの風体ですし」

「わかってんなら聞かないで欲しいね」

「シャロン。こちら傭兵ギルド副ギルド長のボクシアードさんだよ」

「わかっていても確認は大切ですよね。はじめまして、俠龍です」


 コーラのコップを傾けていた俠龍は急いで立ち上がり、爽やかな笑顔でオールバックの男、ボクシアードに手を差し出した。ボクシアードは厳めしい顔を微かに笑わせ、握手に応じた。袖から露出する手はゴツゴツと角質化しており、握る力はとても強い。


「はじめまして。ボクシアード・アンといいます。親しみを込めてアド、とお呼びください」

「それ略称アドでいいんですか? いやまぁそう呼びますけど。俺のことはシャロちゃんって呼んでいいですよ」

「シャロンさんの討った盗賊の報償と、邪教徒の被害の補償です。十五万と十五万で、しめて三十万ギル」

「わ、大金だ」

 

 ピンとこない俠龍の代わりにヨシアが驚いて見せた。道すがらの世間話で金の単位がギルだとは聞いていた。ドルやセント、円や銭のように金額で単位が変わることもなく、一律でギルだという。

 ボクシアードが卓上に布袋を置く。重い音を立てた袋には金や銀のコインが詰まっているはずだ。ヨシアの知る限り紙幣の流通はないらしい。


「身分証が出来ればギルドで預かることもできますが、ひとまずご自分でお持ちください。身分証は出来しだいお渡ししますので、何日かしたら当ギルドまで。宿が決まっているのでしたらそちらに届けることもできますが?」

「宿はまだ決まってないので、取りに来ますよ。ヨシアの仕事もあるでしょうし」

「承知しました。では、これで。当ギルドへの加入をお待ちしております」


 ゴツゴツと重い足音を鳴らしながら、ボクシアードは去っていった。


「もう日も落ちるし、僕たちも行こうか」

「そうだな。大金持ってうろつくってのも落ち着かねえし。どっかにGPS付きのジュラルミンケースって売ってないかな」

 

「僕の定宿が近くにあるんだ。そこで本格的な食事を摂ろうよ。肉料理が美味しいよ」

「そいつはいい。部屋が空いてれば俺もそこに泊まろうかな。あ、ちょっと買いたいものがあるんだけど近くにイオンないかな」

「通りを歩けば露店があるけど、何を買うんだい?」

「何を買おうかね。何が売ってるかもわかんねえし。俺の目的に使えそうなものがあれば、それを買うさ」

「そう、わかった」


 テーブルに硬貨を置いて立ち上がろうとするヨシアだが、俠龍が素早くその手を制した。


「買い物で金を使っちまう前に、ヨシア。君に謝礼を出したい」

「謝礼?」

「ああ。悪魔から助けてくれた礼。言葉をわかるようにしてくれた礼。常識、非常識なんかの知識をくれた礼。信用のおけるらしい宿を教えてくれる礼。エトセトラ。適正な金額はわからないけど、きっとこの三十万じゃ足りないだろうから、そこはローンでなんとかして欲しいって希望はあるが……」


 ぐいと布袋の口を広げ、中身をヨシアへと向ける。


「どうか、好きなだけ持ってってくれ。それで飯が食えなくなっても恨み言なんか言わねえからよ」

「そんな、もらえないよ。これはシャロンの生命線じゃないか! 僕だってギルドから悪魔討伐の特別ボーナス貰ってるし……」


 真剣な目の俠龍を前に、ヨシアが慌てて謝礼を断ろうしたとき、


「ヨシア」


 静かに、ショコラティエが名前を呼んだ。それでヨシアはハッとし、視線を俠龍から天上にあげる。なにかを考えているような、苦いものを飲み下そうとしているような表情だ。


「ヨシア」


 もう一度ショコラティエが名前を呼ぶと、ヨシアは俠龍に視線を戻した。


「そう、だね……。これだけ、いただこうかな」


 そういって無造作に手を入れ、一掴みの金貨を取り出した。


「それだけでいいのか? そんなんじゃ支払いとして不当じゃないか?」

「ううん、僕はこれで十分だよ。もともと僕がしたくてやったことだしね」

「ってことはやっぱ足りないんじゃねえか。ヨシアがやりたかったってのと報酬が払われるかは別の問題だろ。やりたかろうとやりたくなかろうと、働きには正当な報いがあるべきだ。労働で対価を得る以上、それはこっちでもかわらないだろう?」

「それはそうだけど……」


 固辞しようとするヨシアと受け取ろうとする俠龍。どちらも言い分や思いがあるようだったが、この話に決着はつかないだろう。それを見越したようにショコラティエが、今度は俠龍の名を呼んだ。


「そこまでにしてやってくれシャロン。ここでギルドの定める適正な報酬を受け取ってしまっては、ヨシアはギルドを通さない闇仕事を請け負ったことになってしまう。それではヨシアの立つ瀬がないじゃないか」


 それはどこか諭すような、今までの賢しらで厭世的だったこの小鳥らしくもない、優しげな口調だった。

 しかし俠龍には関係ない。


「そんなもん、適正以下だったら以下だったで、結局ギルドの仲介料をハネる闇仕事じゃないか。つーか突発的で個人単位の人助けまで全部ギルドが管理してるとは思えねえぞ」

「それはそうなんだがね……」


 今度は困ったようにショコラティエが苦笑する。どこか超然とした雰囲気はそこにはなく、幼子のだだに手を焼く大人のような雰囲気だった。

 これが風習の違いによる行き違いだったなら、ヨシアかショコラティエのどちらかがそう言っているはずだ。それが言葉を濁すというのはなぜなのだろう。


「……でもまぁ、仕方ねえ。ここは煙に巻かれてやる」


 頭を振ってため息を吐く。布袋の口を閉じながら、俠龍は言った。


「なんかしら事情か信条があるのはわかったよ。それを知らねえから今回は折れてやる」

「シャロン……」


 その言葉にほっとした様子のヨシアに、俠龍はビシッと指を突きつけた。


「ただし、今夜は俺のおごりで限界まで飲み食いするぞ」

「……あはは。そういうことなら、ご相伴にあずかろうかな」


 朗らかに笑うヨシアを見ながら、現金じゃなきゃ受けとるならこの方向でいこう、と内心舌を出していた。

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