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不思議と、落ち着いていた。
奴の声が、消えたその姿が、幻でないことは何故か確信できた。
しかし、渦巻く感情はそれほど荒ぶることはなく。
疑問も、怒りも、哀しさもあまり無くて。
それよりも、奴の言葉が頭に残る。
「朽梨──」
その言葉の全てを信じた訳では無い。
そもそも何故そんなことまで見通せるというのか。
だが、しかし。
人が死ぬと宣告された上でそのままなどということが出来るであろうか。
ましてや、他人ではない。
彼女自身の因縁に巻き込まれた形ではあるかもしれないが、しかし、あのままであれば間違いなく僕は死んでいた。
ならば、義務がある。
護るなんて出来ない。
それでも、その場に向かう義務がある。
いつの間にか着いていた自室のドア前。
鍵をポケットから取り出す。
ゆっくりと、鍵穴に差し込み、一気に捻り込む。
がちゃり
鈍い音。
その音は、運命の歯車の音だった。