4-3
部屋で1人、考えた。
三日ぶりの我が家は相変わらずの殺風景で僕を迎えてくれた。
本を読む気にもならなかった。
カラカラに乾いた洗濯物を取り込む気にもならなかった。
どうにも頭が回らなくて、でも眠れない。
くる、くるる、くる。
きゅるり、きゅり。
「化物ってのはほんとにいるんだな…」
3時間かけて紡いだ言葉はそれだけで
顔を見せた朝日に向かってこだました。
大学は、行けない。
あまりの衝撃に忘れかけていたが僕は人殺しだ。
正直に言ったところで励まされただけだったが、事実僕は人を殺した。
未だに鼻にこびりつく臭い。
「──僕も、か?」
フラッシュバックしたのはカフェに咲く血の花ではなく仮面の大男。
「リビドーとか─タナトスとか──」
残念ながら僕は倫理履修者じゃない。
だから本で読んだ欠片程度の知識しかないが
「リビドーは生への欲求──即ち自分自身の命を守り、その遺伝子を残そうとする性欲求。」
「反してタナトスは破壊欲求。リビドーが個として存続を願う人の身の欲求ならこちらは宇宙の規則。自他問わず存在そのものを朽ちさせようとする概念。」
記憶の断片を集めて唱える。
早くも時計は9時を指す。
腑抜けたまま少し眠ったようで脳は正常に働いていた。
「エス器官──ってのは知らないな」
初めて聞く言葉だった。
恐らくこの世に存在して間もない、詰まれば彼女延いては周辺の人物が作った言葉であろう。
リビドーとタナトスという相反する概念によって形作られると彼女は謳った。
「…わからないな、いつも、世界は。」
本のように結末まで見通せれば。
自分が総覧者として見守る立場にあれば。
そう願わずにはいられない。
幼き日の、惨劇の夜を思い返しながら囁いた。