4-2
「」
「なぜ逃げたの?」
「それは──」
君が、と告げかけて口を噤む。
「あの仮面の…化物は…アレは──何なんだ。」
咄嗟に嘘をつく。
僕が怖いのは、アレもそうだけど、君なんだ。
なんて、言えないまま。
「……外に出ましょう、お巡りさんお時間取らせてしまってごめんなさい」
彼女の後ろに突っ立って欠伸をしていた巡査に一礼をして朽梨が出ていく。
「あの、すいませんでした、ご迷惑おかけしました。」
「ああうん、何があったのか知らないけどまあ頑張れよ」
背中をバンバンと叩かれる。
きっと無責任な激励だ。
彼の記憶にはもうしばらくすれば僕はいまい。
しかし、その乱暴な励ましが、少しだけあたたかかった。
夜道、丑三つも遠に回った傾く月の元で2人。
途切れ途切れの街灯を跨ぎながら歩く。
扉をくぐって10分程、先に口火を切ったのは朽梨だった。
「あれはペルソナと呼ばれるモノ。アーキタイプがその身に宿した運命に耐えきれなくなった結果リビドーとタナトスがせめぎ合う〝エス器官〟を以てその肉体の牢獄を打ち壊しイデアを掴むべく仮面を被った姿。」
──え?
思考停止、続いて、歩調停止。
並べられた単語をひとつひとつ解きほぐす。
つまりは、
「人がストレスに耐えきれなくなって進化した姿、と言えばわかりやすい?」
そうなるか。
内容の理解はできないが、文章の理解には至った。
「なら、なんだ。あいつらが人間の進化なのは分かった。突然消えたりするし。けどじゃあなんで朽梨を襲ってきたんだ。わざわざ家までつけてきてたんだろう。」
「昼間に私がヤツの抹消に失敗したから。」
「あいつらも人なんだろ?じゃあ殺さなくてもいいんじゃないのか?進化ってならそれこそ──」
「進化、しきれないから始末するの。」
「人は愚かだから、人の枠を超えた途端に寂しくなるの。だから人を襲う。そうじゃないと癒されないから。」
彼女がそう呟いたのはちょうど彼女のマンションへ辿り着いた時だった。
──悲しい存在。
ポソッと囁いて歩を進めた彼女の、背中を
僕は追えなかった。