3-2
3話
こんばんは、人を殺しました。
耐えられなくて、首を差し出す。
いっその事、そのまま刎ねてくれたならいくら楽だろうか。
しかし、返されるのは当惑の表情と無愛想な言葉だけ。
愛のない、作業。
しかし、マシだ。
逃げ出した、先の光景を思い返しながら
「──助けてください。」
───
彼女の首が、空を舞う。
「朽梨──ッ」
声が掠れる。
飛び散る彼女の血しぶきに月光が反射して、煌めく。
見開かれた眼は胴と離れてなおいきいきとして。
「断頭台へ──ようこそ。」
やけにはっきりと、響いて。
その言葉があの仮面に向けてのものか、僕に向けてのものかも分からないけれど。
飛んだはずの彼女の首がはっきりとそう囁いて。
彼女の、既にあたまと断たれたからだが動き出す。
そっと、優しく手を差し出して。
まるで舞踏会での誘いのように、仮面に向かって差し出して。
おどりましょう?
が、無慈悲。
その誘いを断るにしては余りに横暴。
仮面が不意に動き出し彼女の差し出した手を掴む。
瞬間、ばらばら。
崩れ落ちる肉体を掴んで、掴んで、その度に肉片へと変わって。
嘔吐感すら通り越す、人の原型を失った朽梨を執拗に仮面は漁り続け──
「──何を遊んでいるの?」
仮面が振り返る。
唐突な声、その月光に照らされた姿は間違いなく朽梨沙羅ソノモノだった。
「亜──?」
振り返ったその顔面を捉える脚。
めり込んだその蹴りは仮面を凹ませる。
よろける、が、更に。
蹴る、蹴り上げる、スリーステップターンを挟んで蹴り捨てる。
「…夕方の分、まだ終わらないから。」
吐き捨てる彼女が、大地を蹴る。
砂埃が微かに散って、次の一歩が地を掴む。
風がこめかみを撫でて、髪を少し巻き上げる。
一歩、一歩、一歩。
やけにはっきり見えたその足取りはほんの刹那で。
間合い5間。それを三歩一秒で詰める。
どッ──鈍い、肉と肉がぶつかる音。
彼女の膝は、正確に顎を捉えていた。
「まだ。」
勢いに乗って空で回旋する彼女が腰に手を添える。
その腰に光る漆黒。
大地を染める月光を映す牙。
滑るように、捻りに任せて手を振り抜く。
すれば、そう、その手に二丁の拳銃があった。
「──Ciao:クロユリ」
放たれた凶は、空を貫く。