6-4
「何が怖いの?」
ベンチに座って俯いていた僕の正面。
顔をあげればそこに彼女がいた。
「なぜ泣いているの?」
僕の答えを待たず矢継ぎ早に彼女は問う。
泣いてなんかいない、そう言おうとしたが。
僕の頬は確かに濡れていた。
「君こそ──こんな所で何してるのさ。」
誤魔化し。
「……1時間後、ここにあの時のペルソナが出現する。」
今は21:30。
つまり、なるほど。
22:30に奴が現れ、戦闘が開始される。
そして23:00──辻褄は合う。
本当は、あんな言葉は妄言で良かった。
僕のこの時間はただの徒労でよかった。
でも、きっとそうじゃない。
きっと仮面はここに現れるし、そして彼女の結末も。
「座標がここで確認された。出現は間違いないわ。」
「あなたは逃げなさい。前みたいなの、見たくないんでしょ。」
彼女はそう言い、僕の横を通り過ぎようとする。
くちなし。
そう呼びかけるだけ。
声が掠れる。
でも、
今日は、
「──朽梨。」
そうはいかないんだ。
「──なに?」
君に、僕は、消えて欲しくないんだ。
だから、
「逃げ───」
よう。
あと、2文字だった。
時間にすれば、1秒にも満たないだろう。
しかし、その刹那が僕には足りなかった。
「……後で聞くわ、逃げなさい。」
公園の中央。
滑り台の影。
そこに突如として舞散った黒い霧。
紅い電光が迸るその霧は、きっと、そうなのだろうと予感した。
僕は何をしにしたんだろう。
弱い僕は、無力で。
果てには彼女に逃げなさい、なんて言わせて。
僕は、僕は。
──僕は、結局、弱かった。




