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ブレイブソウル  作者: 竜王零式
第一部【暗黒の賢者】編
4/8

2.もりのきふじん

1.


 アルドリア暦二○年。

 後世にかような暦で伝えられることになるこの年、歴史上で特筆すべきことは何も起こっていない。

 後に偉大な千年王国の都として栄えるアルドリアの街も、難攻不落のガイラント城も、この時はまだ影も形もなかったし、聖者カピストルの魂は未だ天上で宿命の日を待っていて、後に世界を席巻する大宗教は原型すら生じていない。

 そんな時代の〝お話〟である。

 歴史の上で特筆すべきことはなくとも、当然ながら、人々の営みは粛々と続いている。そして「予兆」めいた何かを感じる人々も、少なからず居た。

「やはり。何らかの魔術アルダーの痕跡がある……」

 封印の地(ラーカセリア)の片隅で瞑想にふける年若い美女も、その一人だった。

 ただの美女ではない。とびきりの美女である。

 小柄で華奢だが女性らしさに溢れた身体つき、肩口で切り揃えられた淡いシルバーブロンドの髪、眉目は秀麗、肌は透き通るほど白い。ひとたびその姿を目にしたなら、男性ならば一目で心を奪われ、女性ならば嫉妬すら忘れて感嘆の息を漏らすだろう。

 しかし、彼女の容姿はなんら特別なものではない。少なくとも「彼ら」の中では。

「この魔力ロトの働きは【使役】――誰かが銀狼ルナーグを操っていた?」

 す、と。目が開く。世にも珍しい金色こんじきの瞳が、あたりの光景を映し出した。つまり、延々と連なる古代都市の残骸、その合間にわずかながらのぞく自然の荒野。

 そして、累々と横たわる銀狼ルナーグの死骸。

「〝誰に〟けしかけたのかも問題だけれど。どちらも只者ただものではなさそうね」

 秀麗な眉目が微かに歪んだ。銀狼ルナーグが5頭ともなれば、ただ腕が立つだけの戦士では太刀打ちできない。

「――っ!?」

 突然、何者かの気配を感じ、美女は思索を打ち切った。すぐさま周囲を探る。

「誰……姿を見せなさい!」

 誰何に応じ、物陰から戦装束の一団が続々と姿を現した。その数およそ二十。全員、暗灰色の肌をしている。

妖魔バヌトゥの防人たちだった。その中に見知った顔を見つけ、呆れ顔で声をかける。

「どういうつもりなの、ヴィシャール。この銀狼ルナーグはあなたたちが?」

「なんのことか分からんな」

 戦士長ヴィシャールは飄々(ひょうひょう)と答え、前に進み出た。

「それよりここで何をしている、黄金の魔女よ。あなたのいおりはもっと西だろう」

「不穏な魔力ロトの働きを感じたから調査に来たの。ここで戦闘があったようだけど、あなたは何も知らないの?」

「あなたがやったのでなければ心当たりはない。それより、うちの娘を見かけなかったか」

「ヴァイユールを? いいえ、知らないわ。家出でもしたの?」

 ヴィシャールはぴくりと眉を釣り上げた。

「本当か、隠すとためにならんぞ」

随分ずいぶんな物言いね。魔術師アルダールブと喧嘩するには、少し兵力が心もとないようだけど?」

 金色こんじきの瞳が殺気を宿して、防人さきもりたちをざっと見渡した。

 もちろん、人知を超えた力を操る魔術師アルダールブと言えど、できないことはある。二十人もの防人さきもりに一斉にかかられては凌ぎきれまい。

 だが当然、全身全霊で対抗する覚悟である。半数は黄泉の道連れとできるだろう。

 美女の気迫に呑まれたのだろうか。幾人かの防人が緊張し、獲物に手をかけた。

「やめろ、おまえたち」

 ヴィシャールが鋭くいさめた。

「非礼を詫びよう、黄金の魔女。すまなかった。だが我々も立て込んでいる。わが娘について、何か情報があれば知らせてくれ」

 戦士長が合図を出すと、防人さきもりたちはまた忽然こつぜんと、物陰に消えていった。

 美女は「ほっ」と息をつき、それから思案した。

「神殿区で何かあったのかしら……」

 もしかしたら、この銀狼ルナーグどもの死骸も、それに関係しているかもしれない。里を訪ねて調査すべきだろうか。

 しかし妖魔バヌトゥたちは、異種族たる彼女が「神殿区」に入り込むことを嫌う。下手に介入し、あらぬ疑いをかけられるのも面倒だ。

 今日のところは仕方がない。

 美女は住処に帰ることにして、銀狼ルナーグむくろに残る魔力ロトを浄化しはじめた。それなりに強力な魔術アルダーの残り香だ。放っておけば、良からぬ輩が良からぬことに使うかも知れない。

「これでよし、と。でも、最初に感じた波動とは異質のものね。結局あれは何だったのかしら」

 首をかしげつつも、黄金の魔女は家路を急ぐのだった。


2.


 暗黒の森は化け物どもの巣窟そうくつだ。

 銀狼ルナーグは、その頂点に君臨する魔獣だと言われている。

 しかし、彼らがそう認識されているのは、高い社会性を持ち、つねに群れで行動するからだ。単体の戦闘力でいうなら、これを上回る化け物が何種類もいる。

 その中でおそらく最強と目される魔獣を「皇牙竜エルドナーグ」という。

 二足歩行の亜竜族ドムナーグである。体高は4メートルほどで、全長は十メートルにもなる。鉄をも切り裂く鋭い鉤爪と、岩をも噛み砕く強靭な顎を持ち、馬よりも速く駆ける捕食者だ。表皮はごつごつとして岩のように固く、人の武器では、表面に小さな傷をつけるのが精一杯だろう。

 まさに怪物。ふつう、遭遇したら死を覚悟するより他ない。

「なんだ? あの皇牙竜エルドナーグ、なぜ襲ってこない?」

 緊張に声が震えるのはヴァイユールだ。通訳を受けたヒコは、彼女の背を軽く叩いてこう答えた。

「【威圧テラー】だよ。【虐殺者スレイヤー】のクラス・スキルだ。あいつ程度のレベルじゃ抵抗レジストできん」

「てら……くらっすきる?」

 リュアスは混乱した。通訳どころではない。この若者はたまに、わけの分からないことを言う。

「ああ、そうだったな。悪い。簡単に言うならおれの迫力にビビって動けなくなってる。襲ってくることはまずないから安心しろ」

「へえ、ヒコってやっぱり凄いんだね!」

 リュアスは無邪気に喜び、通訳のため彼の台詞を復唱する。

 それを聞いたヴァイユールは唖然とした。

「信じられない……あれを1体狩るのに、里の防人(さきもり)が総出でかかって死人が出るんだぞ……」

 ぼそぼそと呟いていると、ヒコがさっさと先に言ってしまったため、慌てて後を追った。

 追手がかかる前に里を脱出し、森の闇にまぎれた三人は、その後、大した危険もなく行軍を続けている。

 妖魔バヌトゥは生まれつき、他の生き物に気配を悟られ難い、という特徴がある。

 防人としての訓練を受けたヴァイユールはもとより、普段から神殿をいとも簡単に抜け出しているリュアスも、一般的な妖魔バヌトゥより隠密行動に長けている。実はふたりだけでも、暗黒の森という人外魔境を駆け抜けるのにさほど危険はない。

 なのでヴァイユールの心配はヒコだけだった。異人である彼が森の魔獣に見つかれば、戦闘は避けられないと思っていたのだ。ところが実際はそれ以前の問題だったようだ。

「あなたなら何とかなると思っていたが、期待以上だ。これなら、魔女のいおりまで苦労はなさそうだな」

 頼もしい、どこかとぼけた横顔を見ながら、ヴァイユールは思わず微笑んだ。

 さて、三人の目的地は「黄金の魔女」なる人物のいおりである。

「彼女は稀人レウリィ魔術師アルダールブで、世界の全てを知っている。万が一の時には、あなたとリュアスを連れて彼女のところへ行くようにと、前もってリィンさまから申し付けられていた」

 黄金の魔女の庇護下に入れば、里人もおいそれと手出しできない。

 それに彼女ならば、この異郷の若者について、何か知ってるかも知れない。

 ヴァイユールの説明を聞いたヒコは、やや不満げな顔をした。

 何か気に食わないところがあったのだろうか、と理由を問うと、こんな答えが返ってきた。

「リィンは大丈夫なのか?」

「お祖母ばあちゃんなら心配いらないよ」

 リュアスはすぐさま答えたが、内心は複雑だ。惚れた男が自分の家族を心配してくれている、という嬉しさと、幼い嫉妬心とがせめぎ合っている。

 ともかく、リュアスの言葉も気休めではない。リィンは里の有力者のひとりだ。滅多なことにはなるまい。

「そろそろ着くぞ」

 目的地が近い。ヴァイユールが告げて、しばらくしてからだった。

 シャン。

 唐突に音がした。

 見れば、いつの間にかヒコが長剣を抜き放っている。それは紛れもない異常事態だった。銀狼ルナーグの群れを相手どった時も、防人たちを一網打尽にした時ですら、彼は結局それを抜かなかったのだから。

 切っ先から根本まで、見事に真っ黒な刀身だった。闇に溶け込んでしまいそうなほどだ。

「おまえら、ちょっと離れてろ」

 短く告げると、ヒコはふたりから距離をとって構えた。

「出てこいよ。相手してやる」

 その呼びかけに答えたのだろうか。闇の中から巨大な姿が現れた。

 それは不格好な石細工の戦士、のようなものだった。鎧兜で武装した、高さ4メートルほどはある石像だ。

 それが動いている。

「リビングスタチュー? いや、ゴーレムか……レベル50だって!?」

 ヒコが意味不明な叫びを発する。その直前、彼の瞳が不気味な色に明滅したのを、リュアスは確かに見た。

「いけない、守護者グレーガーだ!」

 ヴァイユールが叫んだ。

「ヒコ、退いてくれ! そいつはただの門番で、侵入者の敵意に反応するんだ!」

 通訳のためリュアスが復唱すると、ヒコはにやりと笑った。

「悪いがそいつは聞けないな。久しぶりにまともな経験値エサにありつけそうなんだ」

 ヒコの行動は素早かった。止める間もなく突進し、石像の足元を駆け抜ける。

 ぐらり、と石像が巨体が揺らいだ。いつ剣を振るったのか、片足が膝元から綺麗に切断されている。「ずぅん」と音を立てて石像が地面に崩れ落ちると、ヒコは石像の背中を駆け上がり、その首を跳ね飛ばした。

「……!」

 戦慄でも驚愕でもない。ヴァイユールはひたすら唖然とし、その光景を見守っていた。

「危ない!」

 叫んだのはリュアスだった。首を失った石像はまるで怯むことなく、豪腕を振るって攻撃してきたのだ。

 だが、ヒコも動じない。その攻撃を身を軽くひねってかわした――かと思えば、石像の腕が「ぽーん」と跳ね飛んでいる。肘から綺麗に切断されていた。

「圧倒的じゃないか」

 ヴァイユールはうめいた。この男の強さはどうやら、銀狼ルナーグやら皇牙竜エルドナーグやらを基準とする次元をはるかに超越しているらしい。

 その間にも、蹂躙は続いている。ヒコの剣はさらに石像の銅を真っ二つに切断した。切り離された部位が次々に崩壊し、灰燼に帰っていく。

 その中で唯一、崩れずに残った部位があった。

「心臓か。まあ人型ならそこだよな」

 ヒコが不敵につぶやくと同時に、石像の胸部が見る見るうちに膨らみ、再生を開始した。やがて完全な人型を取り戻すと、今度は両の手に大鎚を構えている。

「そんな、不死身なの!?」

「こういう奴らだ。いちいち驚いてたら身が持たねえぞ」

 リュアスの悲鳴に笑顔で答え、ヒコは再び石像に突進する。が、石像はその巨体に似合わぬ俊敏さで手にした大鎚を振るう。今度は簡単に懐に入れてくれないようだ。

「いいねえ、さすがレベル50。再生後は敵の強さに応じた装備になんのか」

 見れば、大鎚だけではなく、鎧もより重厚なものに着替えている。再び、ヒコの両眼が不気味な光に明滅した。一瞬のことだったが、これはリュアスだけでなく、ヴァイユールも目撃した。

「防御力が倍になりやがった。今度は簡単に切り刻めそうにないな」

 ヒコは胡乱につぶやき、おもむろに剣を鞘に収めた。

「ま、関係ねーけどな」

「危ないっ!」

 ヴァイユールの悲鳴。石像の大鎚が、恐るべき速さで振り下ろされた。

 どぉん!

 地面が揺れ、土砂が爆砕した。とてつもない一撃だった。人の身など簡単にすり潰されただろう。食らっていれば。

「惜しかったな」

 ヒコは石像の一撃を軽々と回避した。それだけではなく、一瞬で間合いを詰め、石像の左胸、心臓の位置に両掌を押し当てていた。

「じゃあな」

 次の瞬間、「ばこん」と間抜けな音を立て、石像の胸がひび割れた。かと思えば、即座にその巨体が崩壊を始めた。

 ほんの数秒の後には、そこにはただ土くれの山だけが残った。

「やれやれ、こんなもんか。レベル60は遠いな」

 ヒコはまた意味不明につぶやき、土くれの山から何かを拾い上げた。それは鈍く赤い光を放つ宝石……のようなものだった。表面に細かく無数の亀裂が入っている。

 しばらくそれをしげしげと見つめ、興味なさげに放り投げると、ヒコは何事もなかったかのように少女たちのもとに帰ってきた。

「よう、片付いたぜ……どうした?」

 怪訝に眉をひそめる。ヴァイユールが険しい表情でこちらを睨んでいたのだ。

「なんてことをしてくれたんだ。あの守護者クレーガーは魔女の庵を守る騎士だったんだぞ。こちらに敵意がないことを示せば、戦闘は回避できた」

「――って言ってるよ」

 リュアスがいまにも泣き出しそうな顔で通訳した。

 ヒコは肩をすくめ、何かを言いかけた。

 だが、その口が何か音を発する間もなく、彼の身体はいきなりその場に崩れ落ちた。リュアスの悲鳴。それにかぶさるように、何者かの凛とした声が轟いた。

「その男から離れなさい、ヴァイユール、リュアス! 早く!」

 ヴァイユールは振り向いた。そこに居たのはよく見知った女性だ。まばゆいばかりの美貌が警戒の色に染まりきり、こちらを鋭く伺っている。

「はあ……」

 また、しなくても良い苦労を抱え込んだと悟り、ヴァイユールは頭を抱えた。


3.


 始まりは、よく憶えていない。

 もう十年以上前の話だ。気がついたら見知らぬ土地に立っていた。

 見渡す限りの荒野だ。

 見上げれば、真っ暗な空である。しかし、再び視線を落とせば、荒れ果てた大地が地平の果てまで見渡せた。光源など何処にもない。しかし、ヒコは不思議と、あたりを見渡すのに不自由はなかった。

 ――夢か?

 そう思ったのと、何者かの声がしたのは、どちらが先だったか。なにせ十年以上も前のことだから、事実は靄がかかった記憶の遥か彼方で、もはや確認するすべもない。

「ようやく目覚めたか、勇者よ」

 だが「これ」のことはよく憶えている。

「勇者だあ? おれに言ってんのかクソガキ」

 ヒコはことさらに顔面を歪めて「それ」をにらんだ。

 彼の常識からして、あまりにも馬鹿馬鹿しい存在だった。見た目は十三、四ごろの少女だ。それが下着同然の薄衣うすぎぬをまとい、膨らみかけの小さな胸をせいいっぱい反らし、尊大にこちらを見下ろしている。

 そう、「それ」は宙に浮かんでいた。

 背中にたくましく生えた猛禽の如き翼が、浮遊の動力でないのは明らかだった。なにせそれはぴくりとも羽ばたいていなかったのだから。もうひとつ奇妙な点を挙げると、頭頂部に獣のように「ピン」と立った大きな耳がある。

「おぬしの他に誰がいるか。余計な問答をさせるでない。時間は限られておる」

 その少女――つまり、歳の頃十三、四で、痴女めいた服装に、背中に飾り物の翼を生やし、頭に獣の耳を付けた少女は、威厳のかけらもないカン高い声で喋った。

「わしにできることは少ない。だが、おぬしなら必ずやこの使命を果たすだろう。勇者よ、魔王を倒せ」

「はあ?」

「これは手向けである。受け取るがいい」

 少女がさっと手を振ると、一振りの剣が忽然と現れた。無骨な長剣だ。思わずそれを掴み取ると、純白の刀身が鈍く光を放ち、かと思えば、いつの間にか鞘に収まっていた。

 少女は満足気に頷いた。

「うむ。わが目に狂いはなかったようじゃ。剣もおぬしを認めたようだの」

「だから、さっきから何わけの分からんこと言ってんだ。勇者? 魔王? 夢にしたってもうちょっとまともな単語出しやがれ」

「悪いがおぬしの疑問に答えてやる時間はない。これなるは幻。じきに消える。奴等の目を欺くためじゃ。されど、おぬしが正しく歩を進めれば、再びまみえる時も来よう。その時には誓って、おぬしに全てを明かし、できるだけの援助をしよう」

 言いながら、少女の姿はすでに闇に溶け込むように消えていく。

「おい待てよ。いくらなんでもこんな剣一本で何をしろって――」

「魔王じゃ。勇者よ、魔王を倒せ。おぬしが元の世界に帰るすべは、それしかない」

「フザけろって!」

 ヒコは力の限り叫んだ。馬鹿げた少女の姿はすでに掻き消え、跡形も無くなっていた。

 途方に暮れた。

 ただその場に座り込み、再び何かしらの存在が現れるのを待った。あんな馬鹿げた少女でなくても構わない。ただ、この馬鹿げた光景を夢だと言ってくれる誰か。

 明晰夢、というものがあるらしい。夢の中で夢だと気付ける夢。これがそうならどれほど良かったか。ヒコの五感の全ては、眼前の光景が現実だと告げている。

 そのまま二時間ほどが経った。

 なぜ時間が正確にわかったかと言えば、その時、ヒコの左手首には小さな時計が巻かれていたからだ。彼の世界の装飾品である。時間だけでなく、日付まで分かる優れものだ。もし地上に出るまで所持していれば、妖魔バヌトゥたちがさぞ珍しがっただろう。

 さて、ただ待つのに飽きたヒコは歩くことにした。

 見渡すかぎりの荒野だ。ひび割れた乾いた地面は平坦で、地平の果てまで同じ光景が続いている。目印になるようなものは何も見えない。方角も分からない。だから、なるべく真っ直ぐ歩くよう心がけた。後ろを振り返れば己の付けた足あとがある。それを指標とした。

 それから、半日――つまり十時間以上歩き続けた。

 たったそれだけで、もう足は鉛のように重かった。景色は変わらない。のども乾いていたし、疲労も極限まで溜まっていた。ヒコは崩れ落ちるようにその場に倒れ、そのまま寝入った。目が覚めると四時間ほどが経過していた。もちろん、あたりの景色は変わらなかった。

 その後もヒコは根気強く歩き続けた。休眠を幾度かはさみ、真っ直ぐにまっすぐに、実に一週間、歩き続けた。人は飢餓状態から、意外と長持ちすると思ったのをよく憶えている。

 「それ」に気付いたのは、ついに力尽き、地面に這いつくばる直前だった。

(……あれってもしかして)

 視界がとらえたものを否定したくて、ヒコは力を振り絞った。立ち上がってもう一度そちらを見やる。百メートルほど離れた場所に、一筋の線が見える。

 そちらに向かって、歩く。最後の力を振り絞って。そして、線の正体に辿り着いた。

「はは、冗談だろ」

 ヒコは笑った。それは彼の足あとに他ならなかった。それが何を意味するのか吟味する前に、彼の意識は唐突に途切れた。

 第一層【無限地獄】。

 のちにヒコがそう名付け、何度も彷徨い続けた地獄の最下層。その記念すべき第一回目は、そうして終わった――。


「――っ!」

 ヒコは跳ね起きた。心臓が驚くほど大きく早い鼓動を打っている。

 呼吸も荒い。久々に嫌なことを思い出した。かの地下迷宮では、色んなことがあった。その中でも5指に入るほどむかっ腹の立つ記憶だ。

「で。ここはどこだ?」

 辺りを見渡す。

 彼が寝入っていたのは、意外にも柔らかな寝台である。ほのかに良い香りもする。

 小さな部屋には余計な装飾や小物はなく、小奇麗に片付いていて、どこかあるじの性格が伺えた。ただ寝るだけの部屋、なのだろう。ただただ、安らかに眠るだけの部屋。そのための香りと、静謐な空間、そして寝心地の良い寝台。それ以外に、必要なものは何もない。

「趣向を変えたやり直しか……?」

 胡乱に呟き、腕を組んで考え込んでいると「きぃ」と音がした。

「ヒコ!」

 扉が開いて、駆け込んできたのはリュアスである。ヒコの胸に飛び込むようにすがりつき、彼を一瞬だけ困惑させたが、ヒコもすぐ彼女を抱き締めて、愛おしげに頭を撫でた。

「そっかそっか。マジで良かった……!」

 嗚咽混じりの声だった。今度はリュアスが困惑したが、どちらにせよ彼の抱擁は心地良かったので、余計なことを考えずに思う存分味わった。

「いきなり走り出したからびっくりしたわ」

「リュアス、もしかしてヒコが起きたのが分かったのか?」

 続いて、ふたりの人影が入ってくる。

 ひとりは見知った妖魔バヌトゥの少女。ヴァイユールだ。弾む息で揺れる胸部が艶めかしい。

 そしてもうひとりは――。

「おいリュアス。そこの美人は誰だ。女神か?」

 問われたリュアスは、陶然とするヒコの頬を思い切りつねってやった。

 どうやら、ここが目指していた魔女の庵らしい。

 そしてヒコが見惚れた美女こそが、黄金の魔女その人であった。

「初めまして、異郷の剣士よ。わが姓はレンジィ、名はシュリーン。あざなはエルナリーフ。わが種族の慣わしで、エルナリーフと呼んでくださいな」

 まさしく絶世の美貌である。眉目は秀麗、肌は透き通るほど白く、淡いシルバーブロンドの髪はさらさらと艷やかだ。華奢な身体を包むのは質素なローブだが、それにも関わらず、凛とした立ち姿は気品に満ちあふれている。

 それもそのはず、彼女は稀人レウリィという種族である。世にも珍しい金色の瞳がその証だ。彼らは彼らであるというだけで美の化身であり、しかもその美を死ぬまで保ち続ける。ゆえに「無限の時を旅する種族」とも言われる。

「事情は聞いたわ。わが弟子ヴァイユールと、その友リュアスを救っていただき感謝します」

 また声が涼やかで、まるで音色を奏でているようだった。

「いや。面倒をかけてすまない。世話になるな」

 ヒコは極めて真剣な態度で返事をした。必要以上に「きりっ」とした、どこか嘘くさい顔だった。

「あら。あなたの面倒まで見る気はないけれど」

 エルナリーフは冷たい声で告げた。通訳を受けたヒコが思わず少女たちを見やると、リュアスもヴァイユールも、それぞれ申し訳なさそうに表情を曇らせた。

 実は先ほどまで、ヒコもこの庵に置いてくれるよう、ふたりでエルナリーフを説得していたのだが、成果は好ましくなかった。エルナリーフにしてみれば、リュアスやヴァイユールはともかく、どこの馬の骨とも知れない異郷の男を、女所帯に預かる義理も理由もない。当然と言えば当然だった。

「それはともかく。どうだ、エルナリーフ。彼の言葉は?」

 ヴァイユールに問われ、エルナリーフは首を横に振った。

「お手上げね。世界中の言語を修めたつもりだったけれど」

「ではやはり、彼が別の世界からやってきたというのは……」

「それだけで判断するのは早計ね」

 不意に、エルナリーフがヒコの前で手をかざした。咄嗟に割って入ったのはリュアスである。険しい目つきでエルナリーフを睨みつけ、かばうように両手を広げる。

「やめないかリュアス」

 ヴァイユールが制止の声を上げた。呆れるというより、困惑した様子である。

 同じく、エルナリーフも少し動揺していた。

 彼女らが知るリュアスという少女は、良く言えば大らかで、悪く言えば適当だ。これほどまでに他人を敵視する様を見るのは、初めてだった。祈祷師グリドラの特性が発揮されているかも知れない。「担い手」を害する者は許さない、というところか。

 ――などというエルナリーフの見立ては、実は間違っている。原因はヒコがしきりに「声まで美人!」とか「やばい惚れる」とかほざくからで、つまりただの嫉妬であった。むろんリュアスは、絶対に通訳してやるものかと心に決めていた。

 そうとも知らず、エルナリーフは真摯な態度でリュアスの説得にかかった。

「彼が誰とでもお話できるようになる、そんな魔術をかけようと思うの。協力して、リュアス」

 異郷の男と直接会話できるのが、リュアスのような少女だけ、というのは、あまり良い状況ではない。リュアスにとっても負担であろうと、そんな気持ちもあっての提案であった。

 だが実のところ、リュアスはまさにそれを危惧していた。

 ――自分だけが、ヒコの言葉を理解できる。

 その特別性を失ってしまえば、リュアスはヒコにとって、邪魔な小娘でしかない。考えるだに恐ろしい事態であった。

「リュアス、通訳」

 とは言え、想い人に手を引かれて催促されれば、リュアスは答えざるを得ない。根っからが素直な少女である。

「ヒコに魔法を掛けるんだって。ヒコが、誰とでもお話できるようになる魔法」

 リュアスが沈んだ声色と表情とで告げると、ヒコは「ふっ」と笑って、リュアスの頭をわしわしと撫でる。

「別におまえと話せなくなるわけじゃないんだろ? どうなってもおまえは特別だよ。おれの命の恩人なんだからな。違うか?」

 途端にリュアスは機嫌を直し、ヒコの胸に顔を埋めて「すりすり」とし、それから笑顔でエルナリーフに道をあけた。

「やってくれ、って」

「……そう、ありがとうリュアス」

 言葉を失うほどの変わり様であった。何を言ったかは知らないが、この男はおそらく女の敵だと、エルナリーフは認識した。

 警戒しつつ、ヒコの額に軽く触れる。これから行うのは下準備である。魔力を練って、彼の表層記憶から、必要な情報を読み解く。

 心や思考を読むわけではない。それにはもっと複雑で危険な魔術アルダーを組む必要がある。そうではなく、大抵の人間が最も強く記憶に刻みつけている言葉――真名を知るためだ。

 しかし、常ならばすぐに読み解けるはずの名前が、いつまでも浮かんでこない。

(おかしい。この男には名がないというの?)

 しばらく粘った結果、これ以上は無駄だと判断し、エルナリーフは直接たずねることにした。

「あなたの本名を教えていただけないかしら。ヒコ、という仮名ではなく」

 請われて、ヒコは名乗った。もちろん異語である。発音を追うことも難しい。これが、最初から記憶を探ろうとした理由だ。

「どうだ、エルナリーフ。私たちにはちっとも聞き取れないのだが……」

 ヴァイユールが申し訳なさそうに言った。

 だが、それどころの事態ではない。ヒコは何度も名乗ってみせたが、それは少しもエルナリーフの記憶に残らなかったのだ。

 何か不思議な力の働きを、エルナリーフは感じた。それも、百年の時を生き、魔術師アルダールブとしても高位にある彼女の知識が及ばない力だ。

 説明を受け、ヒコはどこか得心がいった、というふうに告げる。

「なるほど。ま、別に名前なんてどうだっていいだろ?」

「そうもいかないの」

 なにせこれからヒコにかけようと思っていた魔術アルダーには、彼の名が必要なのだ。彼が認め、世界が認める、彼だけの名前が。

 ヒコ、という仮の名は、そうではない。あるいは長い年月をかけ、そうなることがあるかもしれないが、今はそうではない。

 よって今、「ヒコ」という名を用いて魔術アルダーをかけることはできない。

 説明しながら、エルナリーフは認識を改めている。この男がこの世のものではないというのは、おそらく事実であろう、と。

「ふーん。文字で書く、ってのはどうだ?」

「あなた、文字が書けるの?」

 エルナリーフは驚嘆した。世の常識で、文字が書けるということは、それなりに学のある証拠なのだ。少しだけヒコを見直し、さっそく筆記用具を用意したが、彼が記した文字は初めて目にするもので、しかも画数が多く複雑だった。

「見知らぬ文字でも、正確に記憶できれば術に使えるのだけれど……」

 エルナリーフは項垂れた。象形文字の一種だろうか。一つ一つの線の長さも形状も様々で、それらが複雑に絡み合っている。これを正確に記憶し、術に組み込むのは骨が折れそうだった。

「仕方がない、最後の手段よ。ヒコ、あなたに新しい名を贈ります」

 ふつう、人はいくつ名をつけられようが、たったひとつしか真名として意識できないのだという。それは通常、時間をかけてゆっくりと定着し、無意識下で自分自身が定めるものだ。

 だが、稀人レウリィに伝わる名付けの儀式で、それを強制的に書き換える。もちろん、最後の手段というだけあって、不安もある。それをすれば、ヒコは最悪、自分の本名を忘れてしまう恐れもあった。

「いいぜ。格好いいのを頼む」

 その説明と提案は、通訳がリュアスという少女であったため、困難を極めたが、結果、ヒコは二つ返事で了承した。

 エルナリーフはかえって困惑した。確かに提案したのは自分だが、ヒコの返事は「潔い」などという次元ではない。

「本当に分かってるの? 本名を忘れてしまうかも知れないのよ?」

 稀人レウリィは確かに、他種族より名を大切にする人々ではあった。だが、彼にとってそれほど軽んじていいものなのか。それはふつう、氏族の繋がりを示し、様々な思い出が宿やどる、大切なものではなかろうか。

 事実、通訳するリュアスの面持ちも不安げである。

 しかし、ヒコは再び即答した。

「名乗れもしない名前なんて必要ないだろ。構わねーよ」

「……わかったわ」

 苦渋の表情で、エルナリーフは返事を絞り出した。ヒコの気持ちは、彼女には理解し難かったが、いつまでも余計な問答をしているわけにもいかない。

 せめて、彼の本来の名と繋がりを持たせることにした。さすれば、彼が元の世界へ帰った時、思い出す手がかりとなるはずだ。

 そういうわけで、ふたりはリュアスを通じて話し合いつつ、名前を決めた。

 形式は稀人レウリィの慣習にのっとることにし、ヒコの元々の名前の、意味だけを抽出し、稀人レウリィの言葉に変換する。

「姓は……うーん。武と花っていうか。強さと美しさみたいな感じかな」

 ここからヴィシュナスという、荒野に根付く凛と美しい花の名を姓とし。

「名前はそうだな。最初の文字は信じる心? 信頼に足る何か? 最後の文字は男を意味するらしいけど」

 ここからジャークノート――「気高き偉丈夫」という名を定めた。

「ヒコ、という名前は、あざなとして引き続き名乗るといいわ。でもその名前、もし森の外で名乗ると恥ずかしい思いをすることになるから、気を付けてね」

「なんで?」

 ヒコ。古き言葉で善なる魂という意味がある。森の外――人の世の言葉では「正義感が強くうっとおしい人」を指すらしい。どちらかというと蔑称べっしょうの類だ。

 もちろん名付け親のヴァイユールは不知の事実だったので、慌てて別のあざなをつけることを提案したが、ヒコは笑って拒否した。むしろ気に入ったようである。

「不都合があれば自分で考え直して。あざなは、魔術アルダーには必要ないから」

 ともかく、こうして異郷の若者の名が定まった。

 姓はヴィシュナス。名はジャークノート。字はヒコ。

 名付けの儀式は厳かに、そこそこの時間をいて行われた。

 エルナリーフによると、魔術アルダーとはまた違った技術――というより、信仰による儀式だという。

 不思議な感覚だった。終わった後、ヒコの胸中に、ヴィシュナス・ジャークノートという名が、確かに自分の名前として刻み込まれた。

「さて、ここからが本番ね」

 エルナリーフは大きく深呼吸してから、「とん」とヒコの胸に手を置いた。

「少し違和感を感じるかもしれないわ。そうね。頭に靄がかかるような感じよ。でも抵抗しないで。気を張ったり頭を振ったりせず、心を楽にして受け入れて……」

 リュアスが通訳し、ヒコが頷いたのを確認してから、エルナリーフは朗々と何事かを詠唱し始めた。もともとの美声が、さらに妖しい抑揚をもって響く。

「む……」

 ヒコが顔をしかめた。先の忠告通り、急に思考が霞がかった。そればかりか、周囲の音が徐々に小さくなっていき、やがて完全な静寂が訪れる。

 そうしてしばらくすると、俯いていたエルナリーフが顔を上げた。

(何だ?)

 そう、問いかけたつもりだった。しかし声に出来たかどうかは自信がない。相変わらず一切の音が聞こえない中、エルナリーフが両手を伸ばしてヒコの頭を包み、抱き寄せた。

(は?)

 霞がかった意識の中、圧倒的な美貌が目前に迫る。そしてなんの逡巡も抵抗もできないうちに「こつん」と、二人の額が合わさった。

 パン!

 途端、何かが弾けたような衝撃があって、ヒコは思わず後ずさった。

「どう? 上手くいったかしら」

 エルナリーフの声が、確かな意味を伴ってヒコの耳に届いた。ヒコは「ふー」と長い溜息を吐く。安堵のためなのかどうかは、自分でもよくわからない。

 どちらにせよ、エルナリーフの魔術は上手くいったようだ。

「ああ、よく聞こえるぜ。そっちはどうだ?」

 さっきよりも格段に明瞭となった意識で周囲を見渡しながら、ヒコは答えた。

「すごいぞ! 私にもヒコの言っていることが分かる!」

 ヴァイユールが興奮気味に言った。

「成功ね」

 エルナリーフは満足げに頷いた後、労わるようにヒコの顔を覗き込んだ。

「調子はどう? どこかおかしなところはない?」

 ヒコは軽く頭を振って答える。

「そうだな……妙に頭がはっきりする。血の巡りがよすぎる感じだ」

「そう。特に問題はないと考えてよさそうね」

 エルナリーフは自身の胸に手を当て「ふう」と息を吐いた。

「今の魔術アルダーは【天開煌(メフィ・クレス)】。あなたは今、意味を持つ音なら何でも――言語でも合図でも暗号でも、なんだったら鳥獣の鳴き声でも理解できるようになっている。相手がそれなりの知能を持つなら、逆に理解させることもできる。一時的なものだけれどね」

「へえ。効果はどれくらい持つ?」

「あまり。長くて半日、かしら」

 リュアスがあからさまにほっとした。自分の特別性が脅かされずに済んだと思っているのかもしれない。

「……それで、元の名前はどうかしら?」

 ひどく言いにくそうに、エルナリーフが尋ねる。ヒコは微笑んで答えた。

「しっかり憶えてるよ。でも確かに、自分の名前って気はしねーな。時間が経てば忘れちまいそうだ」

「……そう。ならせめて、忘れる前にこれに書いて、肌身離さず持っていなさい」

 と、獣皮の切れ端を差し出し、小さな「焼きごて」で、元々の本名を刻ませた。そうさせつつ、エルナリーフの手元には、さきほど書かせた記述版があった。

 それを気付かれないように見比べる。そうしてエルナリーフは、この男が嘘を吐く時、どんな顔をするのか知ったのだった。


4.


 エルナリーフの庵は、暗黒の森の真っ只中に位置する。

 周囲は魔獣どもの領域である。エルナリーフは魔術アルダーで結界を張り、守護者グレーガーを守衛とすることで、ここが彼女の「縄張り」だと森の魔獣どもに示してきた。

 その守護者グレーガーが倒されてしまった。

 長年の研究で改良を重ねてきた、虎の子の守衛である。代わりはすぐに用意できない。

 もちろん、居なくなったからと言って、すぐに魔獣どもが大挙して押し寄せてくるわけでもない。それにしても頭の痛い問題である。

「責任はとってもらうわ」

「ああ、任せとけ」

 こんな事態を引き起こした張本人――ヒコ・ヴィシュナス・ジャークノートは軽々と即答した。

 あまりにも軽々しすぎて、本当に事態を把握しているかは疑わしい。

「ヒコ、セキニン取るってどういう意味?」

 リュアスが眉を吊り上げて詰問する。ヒコは事も無げに答えた。

「おれに用心棒代わりをしろってことだろ?」

「全然違うわ、そんなのお断りよ。しれっと居着こうとしないで頂戴」

「それじゃ、どうすればいい?」

「新しい守護者グレーガーを用意するのに、少し危険な場所へ行かないといけないの。それを手伝ってもらいたいのだけれど」

「もちろん。壊したのはおれだしな。どこへだってついていくぜ」

 この返事も呆れるほど逡巡がない。エルナリーフは正直、この男を測りかねていた。

 本当はもっと腰を据え、一対一で語り合い、為人ひととなりを把握したかったが、彼の傍からはリュアスが片時も離れようとしない。彼女は祈祷師グリドラとしての特性があるから良いとして、ヒコの方も特に邪険に扱ってないから、引き離すのは難しそうだった。

(この男、もしかして幼児性愛者なのかしら)

 エルナリーフは失礼極まりない懐疑をかけたが、それもなさそうだ。ヒコがリュアスを見る目は、せいぜい妹か、ともすれば娘を見るようなものだった。

 何か、守るべき対象として認識しているのだろうか。そんな気配は感じる。

(悪人ではない、と思うけれど……)

 ともかく、新しい守護者グレーガーを用意してからだ。彼を保護するにせよ、里へ引き渡すにせよ、その後に改めて判断することにして、ひとまず食事を取ることになった。

 食卓に並ぶのは、もちろん、全てエルナリーフが用意したものだ。ほとんどが野菜か野草、もしくはキノコや果物である。

「肉が少ないな?」

「嫌なら食べなくても結構よ」

 不躾なヒコにそっけない言葉を返したが、エルナリーフは別に菜食主義に偏っているわけではない。ただ単に肉の貯蔵が少なかったというだけである。ふだんはひとりで生活しているので、急な来客を満足させる蓄えなど、元々ないのだ。

「ま、明日からはおれに任せろ。狩りと精肉は得意なんだ」

「そう。勝手にすればいいわ。私の知らないところでね」

 妙に張り切って告げるヒコに、冷たく応じる。まだ彼をここに置いておくと決めたわけではない。

「ぼくも手伝うよ!」

 元気に告げるリュアスは、あまり食が進んでいない。育ち盛りの少女である。食欲がないわけでも無かろう。

「まず目の前の食べ物を片付けてから言え。このお子様舌め」

 お目付け役たるヴァイユールが、リュアスの好き嫌いを目ざとく非難した。それを皮切りに、食卓は騒がしくなったが、しばらくすると一斉にみなが静まり返った。

「何か聞こえない?」

 真っ先に口を開いたのはリュアスである。だが、ほぼ同時にみな気付いている。種族柄であれ経験上であれ、もしくは何か特別な手段であれ。食卓を囲んだ4人が4人とも、敵の気配に敏感だった。

皇牙竜エルドナーグね。まっすぐここに向かっている」

 最も精度が高かったのは稀人レウリィ魔術師アルダールブだった。すぐさま席を立って外に出る。みな後に続いた。

「おい、おまえらは中にいろよ。危ないだろ」

「ヒコがいるから危なくないよ?」

皇牙竜エルドナーグならあなたの敵じゃないだろう?」

 妖魔バヌトゥの少女たちがそろって呆れ声を出したので、ヒコは早々に説得を諦めた。

 外はすでに日も沈み、真っ暗闇である。

 その中、確かに巨大な生き物が近付いてくる気配がある。

「どうする?」

「追い払うわ。お任せできるかしら?」

皇牙竜エルドナーグ、ってやつなら仕留めようぜ。あいつの肉は旨いからな」

「あんな巨大なものをここで殺されたら、死骸を片付けきれないでしょう。腐ったら臭うじゃない」

「焼けばいいじゃねーか」

「焼いたら焼いたですごい臭いがするの。あなた、私の住処すみかにそんなに悪臭をつけたいの?」

「了解、了解。追い払うよ」

 ヒコは肩をすくめ、闇の中に目を向けた。長い迷宮暮らしで夜目は利くので、視界に不自由はない。ほどなく、そこに巨大な影が浮かび上がった。体高4メートル以上の獣脚類。エルナリーフの見立て通り、皇牙竜エルドナーグの姿だった。ここへ来る途中に見かけたものより大型である。

「まずは威圧、と」

 ヒコはぼそりと呟き、皇牙竜エルドナーグの前に立ちふさがった。しかし、魔獣の歩みは止まらず、それどころかヒコめがけて突進してきた。

「ん? おかしいな」

 瞳を妖しく明滅させつつ、ヒコは首を傾げた。だが、迫り来る皇牙竜エルドナーグを前に剣も抜かず棒立ちになり、その場を動こうとしない。

「何をしてるのっ!」

 怒号と悲鳴が上がる。続いて、眼前に突然、強い閃光が走った。

「うげっ!」

 ヒコは強光をまともに浴びて、激しく目を焼いた。だが、皇牙竜エルドナーグも同じである。のけぞるようにして歩みを止め、忌々しく咆哮する。

 エルナリーフが唱えた【精霊煌ギドナ】の光であった。初級の魔術アルダーで、目眩ましに使う術である。だがその規模も強さも、ヴァイユールがラーカセリアで用いたものとは比較にならない。

「そこを退きなさい、邪魔よ!」

 エルナリーフはヒコを役立たずと断定し、自ら前に進み出た。そのしなやかな指先と、艶やかな口唇が、印と呪文で魔術アルダーを紡ぎ始める。

天星劔エルン・クルス!」

 発動とともに、エルナリーフの左手に図太い光の束が現れた。長さ5メートルはある巨大な剣のようなものだ。

 それを、皇牙竜エルドナーグにぶつける。魔獣は殴り付けられたかのように強い衝撃をうけ、地面を転がった。

「このっ、さっさとここから去りなさい!」

 同じようにして、何度も皇牙竜エルドナーグを打ち据える。一方的であった。だが、これでも加減はしている。彼女が手にした「光の剣」は、その気になればこの魔獣を一刀両断にすることも可能なのだ。

 今やっているのは、いわばみねうちである。もちろん情けでも何でもなく、ここで死なれると困るからだった。

 だが、皇牙竜エルドナーグはすきを見て素早く起き上がり、エルナリーフに突進した。

「くっ!」

 何とか地面を転がって難を逃れる。おかしい。いつもなら、とっくに尻尾を巻いて逃げ出しているのに、この皇牙竜エルドナーグはまるで戦意を失っていない!

「くそっ、どうなってる? 何も見えねえ!」

 ヒコは未だ、潰された視界が回復していない。かわりに、ヴァイユールが状況を説明する。

 一度立ち上がってから、皇牙竜エルドナーグの動きが明らかに変わった。エルナリーフをただの獲物ではなく、恐るべき敵だと認識したのだ。エルナリーフの思惑通りであれば、ここで逃走を図るのが獣の本能なのだが、皇牙竜エルドナーグは注意深く様子を伺いながら、スキを突いて攻撃をしかけてくる。

 エルナリーフは素早い動きで立ち回り、巨大な光の剣を上手く使って牽制しているが、相手が注意深くなった分、こちらの攻撃を当てるのも難しくなった。

 だが、そんな状態に陥ってもなお、エルナリーフには殺意がない。亜竜族ドムナーグの腐敗臭は、本当に鼻をくり抜いて捨てたくなるほど不快なのだ。そんな事態だけは避けたかった。

「ちっ。エルナリーフ、そいつは【闘争ウォークライ】状態だ。逃げるなんてありえねーぞ、できるんならさっさと仕留めろ!」

「何なのそれは!?」

 エルナリーフは叫び返した。全く理解できない。今のヒコの言葉は、彼女の魔術アルダーによって、聞く者に強制的な理解を植え付けるはずだ。初めて聞く言葉、知らない概念であっても、聞くだけで分かるはずなのだ。だというのに、内容が少しも頭に入ってこない。彼が本名を名乗った時のような、不思議な力の働きを感じる。

「あーもう、面倒臭え制限ルールだな!」

 ヒコは胡乱に叫び、頭をかきむしった。

「何かに操られてるか、それとも脳のタガが外れちまったか。とにかく極度の興奮状態なんだよ! もう殺すしかねーんだ!」

(なるほど、ね)

 エルナリーフは大きく飛び退いて、「光の剣」を解除した。空いた手で、別の魔術アルダーを紡ぎ始める。

 ヒコの言葉通りならば、逆にこちらが操ってしまえばよい。あの魔獣の精神を侵食して支配下に置き、強制的に興奮を抑えつけるのだ。支配系魔術は得意ではないから、紡ぐのに少々時間がかかるが――。

「あぶねえ!」

「くっ!」

 魔術の完成を待たず、皇牙竜エルドナーグの大顎が迫る。エルナリーフは間一髪のところでかわした。再び距離をとって詠唱を再開する。だが、皇牙竜エルドナーグはすぐさま、それを阻止せんが如く突進してきた。

 ところが、今度の魔術の発動は速やかだった。

暴撃陣オン・デュロン!」

 ガツン!

 と、見えない何かが巨獣を横殴りに弾き飛ばした。それは高密度の空気で瞬間的に衝撃を生む魔術で、まともに食らった皇牙竜エルドナーグは為す術もなく、地面をごろごろと転がった。

 そのスキを逃さず、エルナリーフは再び詠唱に入る。今度こそ【使役】の魔術だ。

 それは、皇牙竜エルドナーグが起き上がると同時に完成した。

「喰らいなさい、月惑煌リュナリス!」

 淡い青色の光が、「ぽう」と皇牙竜エルドナーグの巨体を包んだ。

 しかし。

 皇牙竜エルドナーグはそれをもろともせず、凶暴に咆哮しながらエルナリーフに向かってきたのである。

「私の魔術アルダーを耐えたというの!?」

 驚愕のあまり棒立ちになる。魔獣ごときにそんな能力があるとは信じ難い。可能性があるとすれば、エルナリーフの魔術よりも強力な【使役】が、もとからかかっていたか――。

「エルナリーフ!」

 悲鳴があがった。失策だ。気づいた時には、すでに皇牙竜エルドナーグが大口をあけて眼前に迫っていて――。

 バコンっ!

 いきなり、魔獣は間抜けな音とともに横倒しになった。「ずざあ」と己の突進の勢いのまま地面に擦られる皇牙竜エルドナーグの姿を、エルナリーフは呆然と見つめていた。

 何があった?

 いや、しっかりこの目で見ていた。だが、脳が理解することを拒んでいたのだ。

「治った、あとは任せろ」

 つまり、眼前に悠然と立つこの男が、こともあろうに素手で、皇牙竜エルドナーグの横っ面を殴り飛ばしたのだ。

 呆けるエルナリーフをさておき、ヒコはこきこきと首を鳴らした。

「さて。来いよクソトカゲ、叩きのめしてやる」

 その啖呵に答えたのか、皇牙竜エルドナーグは激しく咆哮し、そして全身全霊をもって、己に比べてあまりにも小さい敵に襲いかかった。

 尾を振るう。森のどんな獣も薙ぎ払う一撃だ。あるいは鉤爪を払う。巨木すら切り裂く斬撃だ。あるいは己の巨体をぶつける。相手は小さい。ひとたまりもないはずだ。

 だが、当たらない。小さな敵はこともなげに身をかわして逃げる。おかしい。己も全力で走っているはずだ。だが、半身でぴょんぴょんと飛び跳ねる敵に追いつけない。

 気がつけば、皇牙竜エルドナーグは先ほどの場所よりも、随分離れた場所に移動していた。

「女神さんは不殺生がお好みらしいが」

 不意に、小さな敵が立ち止まった。

「ま。ここまで来れば臭わないだろうし」

 シャン、と音がした。

 とてつもなく耳障りで、不吉な音色であった。


5.


 それからは別段、特筆することもなかった。

 ヒコは仕留めた皇牙竜エルドナーグの肉を適量、切り分けて持ち帰った。魔女は呆れながらもリクエストに答え、客人たちに肉料理を振る舞った。これは思った以上に好評だったので、エルナリーフも少し気を良くした。

 しかし夜もふけると、やはり死臭が漂ってきたので、ヒコに文句を言った。

「全然臭わねーよ。神経質なのか?」

「失礼ね。あなたが鈍感過ぎるだけよ」

 そんなやり取りの後、ふたりで皇牙竜エルドナーグの死骸の前へ行き、魔術の炎でこれでもかというくらい消し炭にした。その後、エルナリーフは更に魔術を駆使して付近の風の流れを変え、悪臭を庵から遠ざけた。ヒコが呆れを通り越して関心するほど、徹底した手際だった。

 処理が一通り終わると、ヒコが唐突にこう切り出した。

「で? おれに何か話があるんだろ?」

 エルナリーフは内心で舌打ちをした。思ったよりもカンの鋭い男だ。獣の死臭が気になったのは本当だが、いまは少女たちの姿もなく、この男の腹を探るいい機会だと、そう思ったのも事実だった。

 こほん、と誤魔化すように咳払いし、エルナリーフは告げた。

「この皇牙竜エルドナーグ魔術アルダーで操られていた可能性が高いわ」

「何のために?」

「意図はわからないけれど。封印の地(ラーカセリア)銀狼ルナーグをけしかけた輩と同じでしょうね」

「里の連中か?」

「どうかしら」

 里は15年もの間、祈祷師グリドラの不在ため、魔獣被害に苦しんでいる。昨年も、まさに皇牙竜エルドナーグの被害によって数人の死者を出したばかりだ。

 ゆえに、今回の皇牙竜エルドナーグを操っていたのが神殿区の関係者だというのは、目的が何であれ不自然である。

「ヒコ。あなた、何か知ってるのではなくて?」

 世にも珍しい金睛きんせいが鋭く射抜く。この男に魔術アルダーの心得がないことくらい分かる。推察ではなく結論だ。エルナリーフほどの魔術師アルダーともなれば、魔力の流れを読み取って、そのくらいのことは分かるのだった。

 しかし、どうもこの男はただの剣士ではなく、エルナリーフも知らない不思議な力を持っているらしい。皇牙竜エルドナーグが尋常でないと見破ったのも、その力の一端だろう。

 あるいは、最初からそれを知っていたか。

「おれを疑ってるわけか」

「そうなるわね」

 ヒコは気分を害したふうもなく、腕を組んで何事か考え始めた。

「どうしたの。何か言ったらどう?」

「いや。あんたの気持ちは分かるよ。ようやくまともな反応されて嬉しいくらいだ。ガキどもにしてもリィンにしても、何でかおれを疑おうとしない」

 エルナリーフは身を固めて、魔術を編む用意をした。

「まあ待てよ。仮に犯人がおれだとして、どうしてそんなことをしなきゃいけない?」

「さあね。ピンチを演出して救ってやることで、みなの信頼でも得ようとしているのかしら?」

「頭の悪い方法だな。ま、あんたから見れば、おれはそんなことをやりかねないわけか」

「いいから答えなさい」

「もちろん違うし何も知らんが、あんたはおれが信じられないわけだろ?」

 エルナリーフは黙り込んだ。ヒコはそれを一瞥し、再び何事か考え込むように、目を閉じた。

 しばらくして紡ぎ出した台詞はこんなものだった。

「質問なんだが。あんた、魔術アルダーとやらでおれの記憶とか心を読むことができるか?」

 エルナリーフは一瞬答えに窮した。真名などの簡単な情報を読み解くならともかく、意図的に隠している記憶や感情などを読み解く魔術アルダーは、どれも対象の人格を破壊しかねない、危険なものなのだ。

「……あなたの命を考慮しなければ可能よ」

 絞り出すように、エルナリーフは答えた。

 ヒコはにやりと笑った。

「いいね。それをやってくれ」

 即答であった。エルナリーフは絶句し、彼の目を見た。少し赤みがかった黒い瞳。

 そこには一点の曇りもない。

 この男は何を言っているのだろう、と思った。そして、なぜそんな笑顔でいられるのだろうか、と。まったく理解できない。とても正気とは思えない。

 エルナリーフは深呼吸し、何とか自分の心を落ち着けてから、説明した。

「他人の記憶を探る魔術アルダーはいくつかあるけれど、どれも危険なものなの。対象はよくて白痴化するか、最悪、命を落とす。脅しではないのよ」

「でも、おれの無実は証明できるわけだろ?」

「その場合、私は無実の人間を殺すことになるわ。冗談じゃない!」

 最後は悲鳴に近かった。ヒコは困ったような顔で、ぼそりとこう呟いた。

「それじゃあもう、こうするしかないな」

 そして、深々と頭を下げた。

「頼むエルナリーフ。おれを信じてくれ」

「なっ……」

「おれはリュアスを託された。正直、娶るだの何だのは考えられないけど、それでもこの森にいる間はあいつを守ってやるつもりだ。だからあんたがリュアスの味方である限り、誓ってあんたを傷付けない。信じてくれ」

 エルナリーフはしばし、黙ってヒコを見つめた。姿勢を正して両脇を締め、こちらに向かって丁寧に腰を折り、深々と頭を下げている。見慣れぬ所作であったが、無防備な姿勢だ。エルナリーフに殺意があれば、すぐにでもこの男の命を奪えるだろう。

 だが、ヒコはその姿勢のまま微動だにしない。そこからはただ、真摯な想いだけが伝わってくる。

 稀人レウリィの美女は不意に「ふう」吐息した。

「……分かったわ、顔を上げなさい」

「信じてくれるのか?」

「そこまでされては、ね」

「ありがとう」

 諦観と共に告げると、ヒコは嬉しそうに笑った。エルナリーフは不覚にも「どきり」としてしまった。 

 それから、色々と話をした。

 主にお互いの身の上話のようなものだ。エルナリーフは森に来る以前、世界中を旅して回っていて、その知識はまさにヴァイユールをして「何でも知っている」と言わしめるのに充分なものだった。

 だが、ヒコの話――かの地獄の地下迷宮での冒険譚はそれ以上だった。エルナリーフは世界中を旅して回っただけあって、好奇心が旺盛であり、そういった類の話に目がなかった。

 そうやって話し込み、気がつけばうっすらと空が白ずんでいる。

「戻りましょうか。仕方がないから、リュアスが居る間はあなたの滞在を認めてあげるわ」

「まだ認めてなかったのかよ。でもま、感謝するぜ」

「妙な真似をしたらすぐに追い出しますからね」

「妙な真似ってどんな真似だよ」

「あなたがいつも女性に対して妄想しているようなことよ」

「人聞き悪いな! 何言ってんの!?」

「もちろん、リュアスにも手出しはさせませんからね」

「ねーよ! おれを何だと思ってんだ!」

 ぎゃあぎゃあと騒がしく、早朝のまだ薄暗い森を歩く。

 完全に日が登るには、まだまだ時間がかかりそうだった。




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