3 女魔法士
「ふぃいい。はぁ、はぁ、はぁあ……着いた」
何とかバイブリーに着いたぜ……。
疲れたし腹も減った、夕飯の時間だ。どっか飯屋はないかなー。
えーっと、これがバイブリーのマップか。
ふと視線に気づき俺は後ろに振り返ると、魔法士の格好をした若い同い年くらいの女が俺を見ていた。
おっ、この子スッゲェ可愛いな。紅色のロングヘア―に、パッチリ二重、細くてちっちゃい鼻と口、肌は白くて柔らかそうで赤ちゃんみたいな感じだ。
「な、なんか用?」
「あなた、HPが残り1になってるわよ。回復してあげる」
「ちょ、や、やめろ!」
「何言ってんの、死んじゃう手前じゃない。はい、《ケアルガ》」
魔法士の女は背丈ほどの杖を振った。
「ぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁああああぁあああああ」
俺は思わず変な声を出してしまった。だって、こいつのいらん善意のせいで俺の世界最強状態が解除されてしまったんだから。
「なに変な声出してるの……あなた」
「よ、よ、よよよよ、余計なことを」
「へっ!? よ、余計なこと!? ケアルガしてもらって大怪我直してもらって、出てくる言葉がそれなの? し、し、信じられない」
「ちょ、いやそんなつもりじゃなかったんだけど、色々事情があってだな」
「フンッ! ケアルガして損したわよ!」
魔法士の女はそう言うと俺を頬を杖でバコッと殴り、その場を立ち去った。
俺が久しぶりの運動で疲弊していたのとは無関係に、その打撃は俺の脳を激しくシェイクした。
うぅ、うう、うぅ、やべ、あ、あ、意識が……。
* * *
目を覚ますと俺は地面に突っ伏した体勢で目を覚ました。
心なしかマップの目の前にいたはずが少し脇にずれているような……。
俺は異変に気付く。
──マジックフードがない。
──マジかよ!
と言っても、まともなもんは入ってない。
でも今日明日泊まるくらいの金は入ってたんだ……。
「……今日は野宿か」
あのクソ女のせいだ。許さん……将来の英雄にこんな仕打ちをするとは。
しかし仮にHP=1だったら、俺確実にあの打撃で死んでたぞ。なんて暴力的な女だ。
可愛くて華奢な魔法士かと思ったら、絶対ありゃ筋力ステも上げてるゴリラ魔法士だ。
クソ……イテェ。
とにかく今は金をどうにか工面しないと餓死しちまう。
……冒険者協会の案内所で今日やれる仕事でも受けよう、それしかない。
そこには冒険者がたくさんいるだろうから、ついでに魔王討伐の仲間も募るか。
ヘイスト、スロウ、デスペル、ヒールとかを使える魔法士を優先的に集めるべきかな。
ヘイストがあれば移動速度も早まるし、スロウを敵にかければ被ダメージの計算がゆっくりできるようになるだろうし。……おお、俺って賢いかも。
そんなこんなで冒険者協会に到着した。
「ここがバイブリーの協会か」
木造2階吹き抜けのログハウス、広さは100平米くらい。
カウンターには5人の協会関係者、その前に冒険者が列をなして並んでいる。
俺もすぐに列に加わった。
「あっ!」
突然左の方から声が聞こえた──あの女の声だ!
俺がバッと首を振ると、そこにはやはりあのクソ魔法士の女が立っていた。
「よぉ……さっきはど・う・も。お前のおかげで、マジックフードごと盗まれて無一文になったぞ」
「ふんッ!」
この女、マジでちょっと可愛いからって調子のってんじゃねぇのか。
「あなた、冒険者だったの?」
「そうだけど?」
「ふっ」
「はぁ?」
「あなたのステータスひどいわね。一般市民より能力値低いじゃない」
「う、う、うるさい!」
「今日はね、バーサクドラゴンの討伐戦があって、どんな冒険者でも歓迎なのよ。ただ、あなただと100%死んじゃうから、くれぐれもその仕事は受けない方がいいわ」
「報酬は?」
「さてね? 冒険者のレベルによって当然違うわよ。あなただと、そうね10000ゴールドくらいかしら」
「い、10000ゴールド? そんなにもらえんのか」
「10000よ? 命懸けて10000よ?」
「あ! 俺の番が来た。情報サンキュー!」
俺はすぐに協会の案内人が今日のお勧めとして紹介してきた【バーサクドラゴン討伐】の仕事を受けた。
* * *
「……あ、あなた。ば、馬鹿なの? 本当にそのステータスでここに来るなんて」
魔法士の女が俺に呆れた顔を見せたが、気にしない。
俺にはデスパンチがあるのだから絶対無敵。
「……うるさい、俺は強いから」
「フンッ! よく言えるわねそんなこと。 あなた自分を客観的に見れないの? もしあなたがドラゴンにかすり傷一つでもつけれたら、それこそ何でも言うこと聞いてあげるわよ」
「じゃあ、お前はどうなんだ。あぁ? ステータス見てやるよ」
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《セシリア》
・HP:209
・マナ:277
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・筋力:5
・知力:71
・回避率:2.6%
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・物理防御力:13
・火耐性:93
・水耐性:11
・風耐性:9
・地耐性:5
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「……」
「どうかしら?」
つ、つえええ。なんだこの女。
村にこんな奴いなかったぞ……。村で一番強かったバンロットでも全く歯が立たないだろうな。
……しかも何気に筋力まで俺よりあるじゃねぇか。
『討伐隊! 全員進めぇ!』