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2  デス・パンチ

「ふう。休憩」


 しばらくまともに走ってなかったんだから、一分も走ればもう限界だ。

 まだ村が全然近くに見える。


 水滴が俺の鼻に当たった。


 雨がパラパラと降ってきやがった。

 ところで今日の宿ってどうすればいいんだ?

 野宿とかマジで勘弁なんだけど。

 てか長老に無理やり石板の丘に連れてかれたから、食料持ってきてねぇ。持ってるのはポケットの旨キュウリだけ。

 今日中に隣町のバイブリーまで行かないと……。


 そんなこんなでゆっくりながらも街道を歩いていると、突然、横の森から体長1メートルほどのウルフが道を塞いだ。



「ゥガルゥルゥウゥルゥゥゥゥゥ」



「あん? やんのかこいつ」


 俺超強気。だって、デスパンチあれば魔王だって倒せんだもん。こんな犬もどき楽勝楽勝。

 普段の俺なら泣いて逃げ出すレベルの相手だが。


「おら、こいよワンコ」


 俺がそう言った瞬間、ウルフは俺の言葉を理解したかのように突進し、左手に噛みついてきた。


「イッ! テテテェ!」


 服を貫通して俺の腕に牙が立った。

 まぁ落ち着け落ち着け。HPを1にすれば俺の勝ちなんだ。

 えーっと、このワンコのパラメータは……俺は真実の鏡をマジックフードから取り出してワンコに向けた。


------------------------------------------

《ウルフ》


  ・HP:67

  ・マナ:0

  ----------------

  ・筋力:13

  ・知力:0

  ・回避率:4.8%

  ----------------

  ・物理防御力:8

  ・火耐性:0

  ・水耐性:1

  ・風耐性:1

  ・地耐性:3

------------------------------------------


 ふぅん。

 俺のHP:51、物理防御力:12だから、…………えーっと、えーっと、あと何回食らっても大丈夫なんだ?



「…………あれ。そういえば俺、ダメージ計算の仕方、……村で全然習ってなかったわ」



 途端に俺は異常なまでの不安に襲われた。

 だって何回食らっても大丈夫かわかんねぇから、HP=1になんてできねぇもん。


「ヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇ」


 そんなこんなつぶやいてるうちにワンコ野郎がまた噛みついてきやがった!

 ──HP:34。HP=0=死と連想しちまった瞬間、手がガクついてくる。



「ど、どうすりゃいいんだ?」



 ──げ! HP:17になってる。 

 ──えっとえっとえっとえっとえっと! HP:34から17になったんだ。別にダメージ計算知らなくてもわかるわかる。

 ワンコ一が一噛みで、俺のHPが34から17になった。だから、引けばいいんだよな?

 えー……。え……。え……。え……。24になって、24から7ひく?



「──でたぜぇ! 17だ! 17だ! 絶対合ってるだろう!」



 ダメージ計算ができたことで思わず叫んだが、その瞬間俺は凍り付いた。



「──え? 俺のHP、今17なんだけど」



 ちょうど死ぬじゃねぇか! 余りなくキレイに0になって死んじまう!

 


「どうすりゃいいんだ?」



 誰かマジで助けてくれ。村から1キロもない地点で俺死んじまう。ダサすぎるだろこれ。まだ死にたくねぇよ俺16なのに。

 途端に視界が涙で霞んだ。


「ゥゥルゥルゥゥゥルゥゥゥゥゥ」


 ワンコは俺を殺す気満々に吠えてる。

 ダメだ。終わった。死んだなこれ。死ぬのってこんなあっさりなわけ?

 俺の人生、キュウリの思い出しかないんだけど。いや、いいんだけどさそれでも。


 ワンコが向かってくる。

 ──ダメだ、よくねぇ! まだ死にたくねぇ! 



「あぁ。キュウリもっと食いたかったな」



 俺の断末魔これかよ、笑っちまう。はぁ。 あれ──ポケットにキュウリあるじゃん……

 てか、キュウリって、HP+1の微回復アイテムだったっけか。


「────ウォオォオオオオオオオオオオオオオオ!」


 即座に俺はキュウリを取り出し口に入れてステータスを確認する。


------------------------------------------

《マーヴェル》


  ・HP:18

  ・マナ:35

  ----------------

  ・筋力:3

  ・知力:8

  ・回避率:1.2%

  ----------------

  ・物理防御力:12

  ・火耐性:0

  ・水耐性:2

  ・風耐性:4

  ・地耐性:3

------------------------------------------


「ヨシ! ヨシ! ヨシ! ヨシ! ヨシ! ヨシ! ヨシ! 一発、一発食らっても大丈夫だ!」


 次の瞬間、ワンコが俺の腕に噛みついた。

 腕を払って一旦距離をとって再度ステータスを確認すると、HPは1に変化していた。

 

 ワンコはすぐさま体勢を整えて、高く数メートル飛び上がり、剥き出しの牙を俺に向けたまま突進してくる。

 やってやる。食らえワンコ。




「──デス・パンチ──」




 俺がそう暗唱して飛び上がるワンコに右拳を繰り出した瞬間、ワンコは一瞬にして音もなく消え去った。

 同時に、右拳の直線上にある灰色の雲に小さな穴が開いたかと思うと、すぐさま穴は大きく広がっていき、覗いた青空から光がパッと差し込む。

 すぐに雨は止み、雲一つない青空になった。

 

「おい、天候すら変えれちまうのかよ……このスキル」


 俺は死の危機から脱した安堵感と共に、このスキルの力におののかざるとを得なかった。

 しかし、同時に再確信した。

 このスキルを使いこなせば──魔王すら倒せると。


 マジックフードは、キュウリとポーションで全て満たそう。

 戦いに必要なのはそれだけだ。

 あとはどうにか被ダメージの計算ができるようにならないと……今日みたいに死にかけることになっちまう。



 俺は足早に隣町、バイブリーに歩を進める。



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