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1  旅立ちの日

黄色くてデカい鳥がダンジョンをひたすら下層下層ひたすら下層に潜っていくゲーム、知ってますか?


はい、そうです。




「○○○○の不思議な○○○○○」




そこで出てきた〝がまんの爪〟の快感をふと思い出して書いた物語。






 遂に今日、〝あの日〟が来た。あの日が。


 あーやだやだ、家から出たくねぇ。

 面倒くせぇ、家にいてぇ。

 畑作業でいいのに俺。

 腹減ったらキュウリ抜いて塩かけて食うのが幸せなのに。



「マーヴェル、迎えに来たぞ」



 げ、長老ついに来ちゃったよ。もう逃げらんねぇじゃん……。


〈旅立ちの儀〉=16歳になったら俺の住む村で行われる習わし。

 村から出て、2年間各地を旅して来いという習わし。


 俺はそっこうで死ねる自信しかない。だって村の周りはモンスターだらけ。武術訓練をサボりにサボった俺のパラメータで勝てるモンスターなんて、マジで野ウサギくらいだろう。

 今日、その日が来てしまった。



「は……い」



 としか言えません。

 だって逆らったら村から永久追放だもん。

 

* * *


 長老についていくと例の場所に向かう──そう〈石板の丘〉。

 この石板のせいで、このくそ面倒な習わしができたのだ。


 なんでも1000年ほど前に起きた地震の後に突然、村一番のドでかい木の下に地面から石板がわいて出てきて、文字が浮かび上がったんだと。



/////////////////////////////////////////////////////////////////

〈齢16を迎えた少年少女を旅に出せ。さすらば奇跡は起こらん〉

/////////////////////////////////////////////////////////////////



 だったかな。

 奇跡=〝ユニークスキル〟のことだ。

 この村でしか手に入らない、この村唯一の特産品と言ってもいい。

 各人の大切にしてきたモノを石板の前にある台座に奉げることで、ユニークスキルが手に入る。


 まったくこんなん信じんじゃねぇよ。誰だよ最初に信じた奴は。

 とはいっても本当に奇跡は起こってしまうから困る。



 そんなこんなで石板の丘が見えてきた。

 

  

 あ~。やっぱいるよね、あいつ。

 気分が乗らないのは、〝奴〟もいるからだ。

 ──村の女にモテモテの〈ヴァンロット〉、俺よりも頭がいいうえに顔もイケメン。

 そのうえ自信満々の口調がいい味添えてる素晴らしくウザいやつ。

 

 そんなヴァンロットが石板の丘に向かう俺を見て、ニヤッとしたもんだからもう大変。

 聖人のごとき無感情を極めんとする俺の表情は、きっと今、あっという間にチンパンレベルにまで堕落して歯ぎしりしていることだろう。というかしている。


 石板の前には村のみんなが大体50人ほど集まっていた。


「それでは旅立ちの儀を始めるぞよ。まずはヴァンロット、前に出て貢物を置くがよい」


 長老が仰々しくそう言うと、ヴァンロットは「はい!」と好青年丸出しのはきはきとした返事をしてみせた。


 ヴァンロットは、台座に金の杯を置いた。

 すぐに石板全体が光、優しくあたりを包んでいく。

 

「まったく、いちいち癇に障る野郎だ」


 俺は思わずつぶやいてしまったが、幸い誰も聞いてない。

 石板の発光が次第に収まり、文字が浮かび上がった。




///////////////////////////////////////////////////

〈汝に、《ファイア・ダウンバースト》を与える〉

///////////////////////////////////////////////////




「オオオオオオオォォォォォォォォ」


 石板の文字をみんなが目にとらえた直後、周囲から感嘆の声が漏れた。

 いつも目をつむってるような状態の長老が珍しく目を開けた。


「ヴァンロット。これは相当のレアスキルじゃ。炎の下降気流をつくり出し、広範囲を焼き尽くすことができる大技じゃぜ」


 ヴァンロットは俺をニヤッと見て、長老に向き直した。

 そして声高にスキルを読み上げる。


------------------------------------------

《ファイア・ダウンバースト》

 ・火属性魔法

 ・魔法攻撃力:129

 ・命中率:82.1%

 ・攻撃範囲:指定ポイントを中心に半径20m、高さ10mの円柱

 ・消費マナ:62

------------------------------------------


「ハハハッ! これはいい! 最高のスキルが手に入った。これも日頃のみなさんの応援のおかげです。ありがとうございます!」


 ヴァンロットに対して盛大な拍手が起こる。



 ヴァンロットを皮切りに、次々と他のやつらが台座に形見の腕輪やら指輪やらを置いてスキルを受けとっていく。

 しょぼいものをあれば、ヴァンロットほどでないにしろ、それなりに使えそうなのも結構ある。

 俺は何がもらえんだろう?



「最後はお前じゃな、マーヴェルや。おぬしが大切にしているものを置くがよい」


 俺はナップサックから迷わずキュウリを取り出して台座に置いた。

 だってこれ、マジで旨いから。

 貢物ってんなら、もらって嬉しいもんをほしいだろう。

 

 ヴァンロットの馬鹿がププッと噴き出したのが聞こえたが大事な儀式だ、こらえよう。


 台座が光り出してすぐに収まった。

 えー文字にはこう書いてある。




///////////////////////////////////////////////////

〈汝に、《デス・パンチ》を与える〉

///////////////////////////////////////////////////




 周囲は静まり返る。

 なんだこれ、だっせぇ名前。こんなもんすぐ売り払ってやる。ぐぇ。


「ククククッ」


 ヴァンロットの馬鹿がこらえ切れずに声を出して笑ってやがる。うん、まぁこれはしょうがない。


「これは……なんじゃろな。知らんスキルじゃの。マーヴェルや、読み上げてみい」


「は……い。────あぁん!?」


------------------------------------------

《デス・パンチ》


 ◆HP=1になったとき、発動可能

  ・物理攻撃力:99999

  ・命中率:99.9%

  ・攻撃範囲:発動ポイントから1m×1m×∞m

  ・消費マナ:ALL

------------------------------------------

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」


 俺が読み上げた直後、周囲はドッと沸き返った。


「それは……1000年の中で、初めて授かったスキルじゃ。こんな無茶苦茶なスキルは間違いなくおぬしが初めてじゃぞ。これはとてつもないスキルじゃ。……おぬし天下をもとれるぞい」


 ヴァンロットがあからさまに悔しそうな表情を浮かべている。


 家から出たくないと思ってたけど、あれ? これなら最強じゃね?

 だって、常にHP=1にしとけばいいんだもん。どんな敵でも一撃だ、たとえ魔王だろうとだ。

 どうせなら、倒しちゃう? 魔王。──いけるだろ、このスキルさえあれば。楽勝楽勝。


 よし決めた! 習わし通り旅に出よう。

 そんでもってささっと魔王討伐して英雄になって、ここオルダム村でキュウリ食い放題でウハウハしよう。


「これで全員スキルを受け取ったな。それでは皆の衆、しばしここで別れじゃ。二年でお前たちがどれだけ成長するのか、村の皆で楽しみにしておるぞ。──行け! 若人よ! 走れ! 若人よ!」


 長老は杖を天に掲げて、俺たちをそう鼓舞した。

 俺を含め若干10名は石板に背を向け、走り出す。


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