深夜の水上ワルツ
ハルバードと別れて私はドラゴン訓練場から徒歩5分ほどにある、湖の側にある一軒屋へと入る
私の家は、2LDKと以外と広い家だ。
スケルトンキーと言われる鍵穴が、日本の古墳みたいな形をした鍵穴に鍵を差し込み、
解錠してドアを開ける。
私の部屋のほとんどは本で埋め尽くされている、リビングも4割本で埋め尽くされている。
何故ならドラゴンブリーダーとして覚える事は多い。
お弁当などを入れたバックをテーブルへと置いて、ドラゴン騎乗用の分厚い
レザージャケットを脱ぎポール式ハンガーへとひっかけて、
ジーパンの繊維と似た分厚いズボンを脱ぎパンツとブラジャーのみの姿になると
リビングの中央にあるソファへと腰をかけて、白色度が低い古紙に羽ペンを動かして、
ドラゴン達の記録を書き上げる。
メライア:訓練課程、11隊列飛行訓練中
詳細:成績も優秀、自主訓練のおかげで第二段階の訓練にも十分耐えられると思われる
個人的感情も出さず立派なドラゴンになると思われる
ハルバス:訓練課程、11隊列飛行訓練中
詳細:反応速度や注意についてやや不備あり。長距離飛行においては持久力も高い。
問題としてドラゴン同士の関係が悪い、相性によっては暴言や暴力行為も度々見れる。
単独行動であれば問題は特になし
アルタイル:訓練課程、11隊列飛行訓練中 :追記、訓練No.10と7においては基準値ギリギリ
詳細:訓練においても適正が低く、訓練もすべて合格基準ギリギリ。転職を促し彼の得意分野を見つけるのが最善かと思われる・・・
私は頭を手で覆い、ため息を吐いてアルタイルの報告書だけクシャクシャにしてごみ箱に捨てる。
「これじゃダメ・・・報告書には嘘はかけないけど・・・ありのままの報告をすれば彼は・・・」
適正無しの捺印を押され、どこかへと飛ばされてしまう。
この世界でそれはダメな奴の印として悪印象のため就職困難となってしまう
私はそれを避けるためにアルタイルには頑張ってもらいたかった
私は困った末にこう書いてしまった
アルタイル:訓練課程、11隊列飛行訓練中
詳細:訓練教官の判断で再度、訓練適正の見直しをする
これでしばらくは誤魔化せる、でも・・・時間はあまりない。
私はキッチンへと歩いて料理を始める、今日の晩御飯はウサギ肉のシチューと焦がしパンに決めた
コンロはレンガで、できていて網の下に炭を入れて火をつけるタイプだ
火は私は魔法で出せるので指パッチンして人差し指に火をつけ、燃えやすい葉っぱに引火させ炭の側へと置く「これでよし」そうすると外からドラゴンの気配が
ハルバードがお腹すかせて来たのかな?
そう思いドアを開けると黒い鱗ではなく、青いウロコのアルタイルだった。
アルタイルは意を決した表情をしていて、強い眼差しだった。
「エメラルダ教官、僕を強くしてください!」
ドラゴン達の訓練課程は朝から夕方までいっぱいいっぱい、私も疲れているがドラゴン達の疲労のほうが多いはず。私はアルタイルの強い眼差しを見て笑い
「分かったわ、アルタイルを私の家の反対側の湖の場所に居てね」
アルタイルは頷きドアから離れ湖へと向かう。
私は生地が薄いジーパンと似た服と白いシャツ着て、さっきのレンガコンロの火を消して湖へと歩く。
湖にはホタルと似た光る虫が湖からふわふわ飛んでいてアルタイルはそれを見て座っていた
私はアルタイルの側に座り、アルタイルに語り掛けた
「アルタイルは頑張っていると思うわ、ただ・・・どうやって仲間達に接していいかわからない・・・周りの事を意識して自分が保てない・・・そうでしょ?」
アルタイルは静かにうなずいた
私は心配するなという顔で笑って「気にすることないわ・・・ハルバスもメライアも・・・自分に正直になるの、私もそれで昔は散々苦労したわ・・・」
アルタイルは私の言葉を聞き「昔?エメラルダ教官の昔って・・・どんな事が?」
私はフフッと笑い「教えてあげてもいいかな、私は昔アルタイルと同じように失敗ばかりだったわ、何をやって裏目に出て、良かれと思ってやった事ですべて駄目になっていく、そんな時に友達が教えてくれたの、周りを気にせずお前のやりたい事をやれって、私のやってきた事はすべて他人のためにやった事だったの、だから今度は自分のために何かしろって」
私は湖の上で光のダンスをするホタル達を見ながら
「私は自分のために頑張ったわ、それから皆が認めてくれるようになったの、他人ばかり見ていてはダメ・・・まず自分を信じられるようにならないと」
アルタイルは小声で「自分を信じる・・・」
私は立ち上がり服を脱ぎ捨て下着になると
「さてと、それじゃ、アルタイル君、私とダンスしましょうか」
アルタイルは慌てて目を隠して「うわわわ、教官、破廉恥ですよ!」
私はアルタイルの恥ずかしそうな顔に笑って「そのまま目を隠していてね」
私は深呼吸して大気のマナを吸い取る、そして森がザワザワと音を立てて
風と共に私の体は大きく変わっていく
美しい白い尻尾が生え、足や手には純白の鱗、そしてブロンズ色の角と美しい金髪の鬣
「目を開けていいわよ」
アルタイルが目を開けると驚いて尻もちをつく「うわわわ、誰!?」
私は手を振り「私よ私」
アルタイルは信じられないような声をあげて「教官!?」
私は頷いて「そうよ!、さてとそれじゃダンスしましょうか」
アルタイルの手を握り力強く引っ張る
アルタイルは戸惑いつつも私に体を任せる。
水上へと翼を小刻みに動かして私は水上へと出る
風を翼でつかみ、強く動かさず水上にホバリングするよううに動く。
アルタイルは信じられないような顔をして「すごい・・・」
私はアルタイルに手を引っ張り水上へと引っ張る
「うわわわ!」アルタイルは戸惑うが、私は構わず引っ張り
「自分を信じてみて、無駄な感情を捨てて、私と踊りましょう」
アルタイルは深呼吸して、私と波長を合わせる
そうするとアルタイルの翼は風をつかみ、私は同じように動く
水上スレスレでホバリングしながら、左、右へと回りながら美しく動く
手と手を握り、水上でスケートをして踊るように
回り、ジャンプし、アルタイルとリズムよく動く
アルタイルは楽しそうに笑い、私も笑う
ホタルの光の中でダンスする二匹のドラゴン
月明りが、ドラゴン達を照らし
二人は水上をジャンプして高く飛び上がる
今度は空中ダンスへと変わり
ドラゴンではありえない挙動をしながらまるで地上にいるかのようなダンスを踊る
アルタイルは難しい事を忘れ、ただ楽しく、自分のために踊る
私は確信した、この子はできる子だと
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疲れて地上へと戻ると、アルタイルの顔つきは今まで一番良い顔になった
アルタイルは私の手を握り「教官!!本当にありがとうございました!」
私は笑顔で「それじゃ、明日の訓練、頑張ってね!」
私は人型に戻り脱ぎ捨てた服を着て、自分の家へと向かう
家の角の裏にハルバードが目を瞑って待っていて
「優しいな、お前は。あんな子のためにダンスをするなんて」
私は髪を靡いて「そんなカッコ良く決め台詞言ってるけど、本当は私のドラゴン姿と、シチューが食べたいだけでしょ」
ハルバードはグッと図星を言われて思わず声を出してしまった。
ハルバードに顔を合わせ人差し指を口に当てて内緒のポーズを取り
「アルタイルに個人特別教習した事内緒にする代わりにね」
ハルバードはガッツポーズを取り「ヨッシャ」と喜ぶ
氏名:ハルバード
性別:雄
種族:ブラックドラゴン
年齢:10歳
詳細:すべてが謎に包まれたエメラルダのパートナー。エメラルダの事を一番理解していて、エメラルダの厳しい操縦テクニックにも耐えるドラゴン。本当の力はドラゴン達にも人間たちにも分からない。
エメラルダの過去を知る数少ない人物