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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ3
96/161

エピローグ




「コレは親父が言っていた……そして、いつだか俺が言った言葉でもあるんだが……」


「……あん?」


「例え百回障害にぶつかって、百回悔しくてミジメで情けない思いをしても、百一回目でソレを乗り越えられれば、今までの苦しみはこの時の為にあったんだ、って報われるんだよ」


「……はぁ」


「あの時苦しくて、悔しくてよかったって思えるんだ。その瞬間まで大っ嫌いだった情けない自分を大好きになったって、誇れるんだよ!」


「ソレで?」


「つまり……一番悲しくて悔しいのは、乗り越えられるかもしれないのにそうしようとしないことだ。自分に期待するのをやめて、ずっと自分を諦めて、嫌いなままでいることなんだ……」


「だから?」


「……だから、金貸してくれ賢~! もう一万もありゃ当たるから~!」


「……アホらし」


「ウチには腹を空かせた子供が待ってるんだ~! このまま帰ったら殺されちまう!」


 俺は隣に座った賢に泣きつく、が、賢はこちらに視線すら送ってくれない。


「だから秋にゃギャンブルの才能ないって。地味な不運グランプリがあったら優勝候補、ってくらいのアンラッキーマンなんだから」


 後ろで携帯をいじっている宗二が、呆れたような声を上げる。


「宗二!」


「やだね。俺は博打は嫌いなんだよ。秋もコレに懲りて足を洗え」


「…………」


 翌日。


 俺は久しぶりに現代、つまり、こちら側の宗二と賢と遊んでいる。


 リライも来たがって駄々をこねまくっていたが、遊びの内容が内容だ。リライを連れてくるワケにもいかなかった。


 豪華なおみやげを約束した俺は、何とかリライをなだめすかして今ここにいる。


 俺の目の前にあるのはパチンコ台。ちなみに機種名は『CR IRIA』だ。


 いつの間にか、こんなモンが出てしまうくらいの有名人になってしまった後輩に、どんな上書きが成されたのか確かめる術を持たなかった俺は、タイミングよく掛かってきた悪友のお誘い電話を渡りに船と勘違いし、コレぞと応じてしまったのだ。


 ……で、この体たらくである。


 ……コレも、上書きの内容を教えてくれないアホ上司のせいだ。


 刺されて死ぬのは嫌だけど、餓死なんてするのはもっと嫌だぞ!


「やべえぞコレ……マジでやべえ……給料日までたまごかけご飯でイケるだろうか……」


「いや無理だろ。フツー飽きるって」


「……いや、多分イケるな。めんつゆと醤油を交互にすれば。あいつアホだし」


「……はぁ。秋……野菜食えよ? いつかマジで死ぬぞ」


「野菜食っててもいつかは死ぬよ……しっかし当たんねーな」


「俺はすでに九連チャンだがな!」


 賢が見よ、と言わんばかりに自分の後ろに積まれたドル箱を指す。うぜぇ。


「死ね! 金貸せ!」


「何か十連目で新曲のPVが見れるらしいぞ」


「知ってる……てか俺はソレが見たくて、今日来たんだからな……」


 ……まだ一回も当たらないまま撃沈しそうだけどな!


「何だよぉ今更興味持っちまったのか~? フったくせに」


「うるせ」


 俺はニヤニヤとからかうような賢の視線を無視して、短く返した。


「いや~、あん時の秋はカッコよかったな~。ハリウッドスターも真っ青だった」


 後ろで宗二がうんうんと頷く。


「しかしこんなエロい身体した女を振ってしまうとはマジ勿体ねー。マジ童貞。マジインポ」


「殺す!」


「落ち着けインポ、俺がお望みの新曲PVを見せてやる」


「……あぁ、もはやソレしか道はねぇ。何せ俺自身当たる気がしねぇからな」


「今回の新曲、愛理ちゃんが自分で作詞したらしいぜ」


 ネット検索でもしたのだろう。後ろで携帯をいじってる宗二が言う。


「……そうか」


 何となくそんな気がしていたのだ。


 ソレで、その曲の歌詞で彼女の現状、と言うか今の心情が知れれば、と思って俺は今ここでこんな無謀な勝負で地獄を見ているのだから。


 ……また、どこかに病んでるようなメッセージが秘められていたら、どうしよう。


 ……あの時の、リトライ前の彼女の詞を見た時のあの何とも言えない恐怖は、できれば味わいたくないな。


 いや、まさか、な。て……だから何故俺はフラグをたててしまう!?


「キター!」


 隣のアホウのウザいくらいのドヤ顔を合図に、例のPVが流れ出す。俺はその液晶と歌詞のテロップに視線を送った。


 さてさて、どうなっていることやら。




   マイヒーロー


ありがとう ありがとう こんな言葉じゃ伝えきれないくらい あなたへの想い抱えています


最初は噂であなたを知りました 第一印象最悪でした 初対面で生意気な態度とりました


あなたが怒り悔しがるのが最高でした 今思い出しても笑えます 


思えばこの時もう何かが芽生えてたのかも


二回目で本当のあなたを知りました わたしの態度最悪でした それでもあなた優しくて


あなたの笑顔 態度 誠実でした 今思い出してもヘコみます


思えばこの時 坂を転がり始めたのかも


愛してる 愛してる こんな言葉じゃ伝えきれないくらい あなたへの想い抱えています


こんなそこらへんに転がってるような言葉じゃなくて わたしだけからの あなただけへの言葉があったらいいのに


ありがとう ありがとう 愛してる 愛してる


あなたが忘れていった伊達メガネ 今ではわたしのお守りになってます


いつかあなたが取りに来るその時まで わたしを守ってくれるんです


ありがとう ありがとう 愛してる 愛してる


いつかわたしが泣きたくなったその時に 取りに来てください





「…………」


「……秋、コレ」


「……うん」


 耳に届いたのは、リトライ前に見た彼女が作ったあの歌詞とは比べるまでもない。

 

 秘められた縦書きのメッセージなど必要ない、彼女の気持ちがそのまま綴られたモノだった。


 見れば、PVで歌う愛理の顔にあったのは、あの時、車に飛びついた俺が落として、彼女が拾っていた赤い伊達メガネと、あの日彼女がステージの上で浮かべていたそのまま笑顔だった。


 取り出した煙草に火を点け、俺はボソ、と呟いた。


「……任務、完了」


 ……よかった。本当によかった。


 今もお前は笑っていられるんだな。あの時手に入れた気持ちを、今も持っていてくれてるんだな。


「コレ、どーーーー見てもお前に送った歌だな」


 賢が俺にからかうような視線を送ってくる。


「……そうか?」


「そうだろ、どう考えても」


 後ろにいた宗二も、微笑みながら俺の肩に手を置いた。


「……あんなメガネ、まだ持ってたんだな」


 俺がそう言うと、二人が肩やら頭やらをビシバシ小突いてくる。


「何カッコつけてんだよ! 今をときめくアーティストにこんなラブメッセージ送られて!」


「この笑顔は、ゼッテーまだお前のこと好きだな!」


「あーうるせぃ。まぁ俺様ほどの男はソーソー忘れられんだろうて」


 ふ、と笑みを浮かべ、俺はプカプカと紫煙を燻らせる。


「チョーシこいてんじゃねー! フリーターの童貞インポのくせに!」


「いっそ『養ってください』って土下座してこい!」


 二人はなおもガスガス俺の頭をドツき続けた。


「いてーよ! もう財布も頭も痛すぎだよ!」


「まぁいーじゃねーか! こんなアッツ~いメッセージもらえちゃったんだからよ!」


「……ふん。まぁ、確かにな。百万ドルとまではいかんが……俺の有り金ほどの価値はありそうな笑顔ではある」


「くわっ! 聞いたか宗二! またナルってんぞこいつ! ファンにバレたら殺されるな!」


「……いや、実際、そうかも」


『……は?』


 俺と賢は、異口同音に間の抜けた声を出した。


「……今、ネットで超話題になってんぞ」


 そう言って宗二が差し出してきた携帯の画面に、俺と賢は目をやる。


《イリアたんの新曲で言ってるメガネってやっぱ彼女が掛けてる赤いヤツ?》


《あなたって誰だよ!? もしかして男なのか!? 男だったら生かしておけねえ!》


《ふひひwww僕はこのあなたを前にしたらwww自分を抑えられる自信がありません》


《血だ、血をみせろ!》


《公ww開ww処ww刑ww惨ww殺ww》


「何じゃコリャぁぁああああっ!」


 俺はあらんばかりの声で叫んだ。惨殺て。


『ぎゃはははは!』


 俺の気も知らんで、二人は大爆笑だ。


「コレはやばい! 惨殺されちゃうぞ秋!」


「ホトボリが冷めるまで隠居してたらどうだ?」


「アホかっ!」


「携帯貸せ宗二! 俺がリークしてやる! 『犯人は俺の隣にいる職なしの童貞だ! 本人曰く自分はソーソー忘れられないイケメンで、彼女の笑顔は有り金ほどの価値があるらしい!』」


「やめてぇぇええっ! 惨殺されちゃうぅぅううっ!!」


 俺は先程までとは比べモノにならない悲鳴を上げて懇願した。まさか有り金だけでは飽き足らず、俺の命まで危険に晒してくれるとは。


「……全く。手の掛かる後輩だよ。ホント」


 二人の爆笑の中、俺は再び液晶に映る愛理の笑顔に目をやった。ソレは、弾けるようで、自分の居場所、自分の生きがいを確立していることが十分に窺えるほどに眩しいモノだった。


 ……そうだな、リライ。俺が必死に頑張ることによって、誰かがこんな笑顔を浮かべることができるようになるのなら、新しい生きがいにするのも悪くないかもな。


 ──俺こと戸山秋色は、好き嫌いが極端に多い人間だ。

 

 でも今回のこともあって、その認識も移ろうモノなのだという考えに至るようになった。


 人間の好みというのは年齢や条件によって簡単に認識を改めるモノなのだ。嫌いなモノを好きになったりな。


 ……昔はこっ恥ずかしくてまともに聞けなかったであろう類のラブソングを、この歳になると一周回って素直に聞けたり、な。


 だから、もしかしたらこの認識もすぐに覆ってしまうかもしれない。


 ソレでも嫌いなモノを好きになる努力をすると同時に、好きなモノを嫌いにならない努力をしてみるのも悪くないかもしれない。


 ……コレが俺の生きがいだ、なんて断言はできないけれど、もう少し付き合ってみてもいいかもしれないな。二代目ヒロイックエゴイスト、戸山秋色の『リライとトライ』に。






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