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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ3
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第二十四話




 目を覚ますと、そこは例のゴミ捨て場だった。


 俺は壁に持たれながら地面に座り込んでいて、その俺の膝の上に、汗だくで、少しやつれてしまったような気がするリライが乗っかっていた。


「……ただいま」


「……おかえりなさい」


 言いたいことは山ほどあったが、まず俺はそう言うことにした。

 

 リライも、色々言いたいことがありそうな顔をしていたが、そう返してくれた。


「リラ──」


 リライにお礼を言おうと思って口を開きかけたが、俺の言葉は遮られた。


「…………」


 リライがす──、と腕を伸ばし、俺のお腹に手を当てる。

 

 もちろんそこには何もなかった。包丁なんて刺さっているワケもない。血溜まりも消えている。うまくいったんだ。


「…………」


「…………」


 念入りに確かめるように、やがて無事であることのありがたみを噛み締めるように、リライは俺の腹部を優しく撫で続けた。


「……リライ」


 いい加減くすぐったくなってきて口を開きかけるも、またもソレは遮られることとなった。


「ふっ……う……うぅ……」


 リライが……身体を震わせ、泣き始めたからだ。


「リライ……」


「う……うぅ~……」


 片手を俺の身体に置きながら、もう片方の手を涙で濡らし続けるリライ。


 嗚咽になってしまって言葉にできなくても、俺はリライが何を言いたいのか分かっていた。


「リライ……おいで? ぎゅー、だ」


 言ってやりたいことがたくさんあり過ぎて、ワケが分からなくなってしまいそうだった俺は、言葉をまとめるよりも何よりもまず、両手を広げて微笑んだ。


「……っ」


 間髪入れずに俺の胸に飛び込んできたリライが、背中に回された腕に痛いくらい力を込める。


「うぇぇぇ……! アキーロぉ……っ!」


「リライ……」


「アキーロ……アキーロ……っ!」


「……っ。リライ……っ!」


 俺も負けじと、リライの背中に回した腕に力を込める。


 今は同調しているワケでもないのに、リライの影響を受けてしまったのだろうか? 景色が歪み、身体が震えた。


「アキーロ……ごめ──」


「ごめんは違う……! お前は絶対悪くない。むしろ俺の方こそごめんだよ。キツかったろ。怖かったろ?」


 リライは目一杯否定するように……涙を俺の胸で拭っただけかもしれないが、ブンブンと顔を振った。


「キツかったけど……怖くわ、ねーですよ。アキーロが……アルルも、一緒だったですから」


「そっか。俺は……怖かったよ」


「……ふへ?」


「俺が死んだら……リライがみんなに忘れられちゃうなんて……考えたことなかった。お前を守るとか言っといて、俺、何にも分かってなかったんだ」


「アキーロ……」


「だってのに……俺のやりたいようにやれって、俺のこと守るって言ってくれて……ありがとな? リライ。アレ……すっげー嬉しかったよ」


「リライも……本当わ……すげー怖かったですよ……」


「うん。分かってる。ごめんな?」


「もうお互い、ごめんわなし、ですよ。キリねーです。ありがとうしか受付けねーです」


「はは……そうだな。ありがとう」


「はいですよ……『ありがとう』も『ごめん』も、言いたくなったら……ぎゅー、するです。ソレで充分です……!」


「うん……ぎゅー」


「ぎゅー、ですよ……」


 まるで愛情の量比べをするかのように、俺達は互いに抱き締め合った。


「アキーロ……」


「ん? 何?」


「大好きです……」


「お、おぉっ!? ど、どうした!?」


「だから絶対……リライを一人ぼっちにしちゃ……いやですよ……死ぬのわ、駄目です……」


「…………」


「ずっとリライのお兄ちゃんでいてくれなきゃ、やです……!」


 本当に、怖くて堪らなかったんだな……。


 何か、ムショーに可愛く思えてきた。


「……ん、約束する。お前こそ、ずっと俺の妹でいてくんなきゃやだぞ? 一緒にパンツ洗濯するのやだとか言うなよ?」


「全然へーきです……むしろ一緒にお風呂入ってもいーくれーです」


「ソレは俺が嫌なんだよっ!」


「むー。何でですかぁ? リライもアキーロがパパにやってたみてーに背中流してーですよぉ」


 ようやく俺の胸から顔を離したリライが、唇を尖がらせる。


「何でもだ。さ、そろそろ行こう。お腹減っただろ? さっきから腹の音がすげーぞ」


「はいですよ……ショーヂキ、アキーロに噛みつくのを我慢してたくれーです。やべーです」


「別に噛んでもよかったのに……じゃ、帰ってご飯にしよう。ソレとも食べてくか?」


「おうちがいーです。あとですね……」


「ん?」


「腹減って歩けそーにねーです。おんぶ」


 リライが俺の首に回した腕を外さずに、背中側に回る。子泣きリライ再び。


「……はいはい」


 俺は近くに落ちていた携帯をしまい、コンビニ袋を拾い上げ、背中にいるリライの手に持たせて立ち上がった。


 すんげー軽い。確か体重四十キロに届いてないんだっけか。


「……アレだったら、このお菓子、先にちょっと食べるか?」


「アキーロ……今日わミョーに優しーです……いつもご飯の前に食べたら怒るのに」


「まぁ……お前の場合、お菓子食ってても結局ご飯全部食うからどうなんだって感じだが……今回は緊急事態だろ。で、食う?」


「……食べさせてくれるなら食うです」


「お前の方こそ……今日はヤケに甘えてくるな」


 あとでいくらでも甘えさせてあげる、とか言ってたのに。ま、いいけど。


「やですか?」


「いんや。今日はもう何でもワガママ聞いてやるよ」


「ぢゃあぢゃあニャーをおうちに入れてーのと、今日も一緒に寝てーのと、一緒にお風呂──」


「却下だっ!」


「何ですよっ! アキーロが何でも聞くって言ったですよ! 嘘吐きわ刺されるですよ!」


 などと洒落にならない文句を言うリライを背負って俺は家路へと就いたのだった。




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