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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ3
83/161

第十二話

 



《じゃ、またいつものところで待ってるから》


 翌日。放課後になり、頭の中にいきなりアルルの声が響いた。声の主は放課後になるや否や、教室を出て行ってしまったが。


 ……もしかして、イリアを一緒に探してくれるつもりなのか、あいつ。


《そう言えば、例の非公式ミスコンの時、あんたは誰に投票したのかしらね?》


「いや、知らないよ。ミスコンがあったことすら知らなかった。てかまだ言ってんのかよ」


《自分ですよ。アキーロわミスコンよりシスコンにキョーミあったにちげーねーです》


《アホ女は引っ込んでなさいよ! 普段のこいつはあんたのこと忘れてるし目の前にいるあたし達ですら空気のように扱うのよ!? 虫のくせに!》


《虫に無視されてるですよ! ザマミロですよ!》


「そこは否定しろやっ! お兄ちゃんが虫でいいのかお前は!?」


 などと放課後になった教室で思わず俺が声に出してツッコんだその時。


「アッキーwwwまたもや銀髪少女とツルみ出したらしいねwww」


「おわっ……ケーツーか」


 俺を覗き込むようにして声を掛けてきたのは我がクラス一の変態、如月京一郎だった。


《誰よこいつ? キモイわね》


 お前も一応クラスメイトだろうが。認識してやれよ。一応外見はイケてるんだから。


「コレはwwwヨリが戻ったってことでおけ? 文化の違いを乗り越えた国際マッスルドッキングな仲だという解釈でFA?」


 ……うっわウゼェ……。


「アッキーはやはりリア充なのかなwwwだとしたら僕の中の『この男はリア充です。実在の人物、団体とは一切関係がありませんリスト』に名を連ねなきゃならないんだけど」


 ……存在否定!?


《何かビミョーに、アキーロと似た匂いを感ぢるですよこいつ》


 一緒にすんなリライ! しかしこいつはやたらとアルルに関して目ざといよな。


「お前……もしかしてアルルのこと好きだったりすんの?」


 俺がそう聞くと、ケーツーはやたらと神妙な顔つきになり、数秒間黙考した後、重々しい声でこう告げた。


「好きってゆーかwwwワキチラを目撃したい人かなwwwもちろん体育のあった日に」


「相変わらずの変態だなてめーは」


《変態ですねぇ……》


《……変態ね。まさかあんたを凌ぐゲスがこの世に存在するとは思わなかったわ》


 リライとアルルが同じ感想を述べる。訂正させる必要も余地も一切ない。


「でも……あいつそんないい身体してるワケでもねーじゃん」


《んなっ……!?》


「何言ってるんだよアッキー! 貧乳は貧乳のまま愛す! ソレが真の紳士だよ! 脳内変換や脳内補正に頼るのは外道のすることだよ!」


《確かにこいつわ、アキーロ以上にアブねー気がするです》


《……なんで世の中は、こういった危ない犯罪者予備軍を野放しにするのかしら。アホね》


 またもリライとアルルが同じ感想を述べる。しかし本人に聞かれているとは露知らぬケーツーは、なおも続ける。


「ちなみにwwwフトモモを甘噛みしたい人は委員長wwwうなじに顔を埋めてモフモフしたい人は──」


《こんなアホに構ってやる時間も義理もないわ。ぶん殴って逃げなさい。許可するから》


 ……許可下りた。そして全く同意見。


「すまんなケーツー。天の声パーンチ!」


「んほぉぉぉおおっ!」


 ワケの分からない声を上げて吹っ飛ぶケーツーを尻目に、俺は教室を後にした。


《ちなみに……あんたのさっきのナメた言動はキッチリ覚えておくからね。虫》


 ……アルルのまるで血が通っていないかのような冷たい声に、俺は身震いを起こしそうになる身体を苦労して律した。






「何故だ……何故いない!?」


 夕暮れ時の帰り道で俺は頭を抱えた。


 アルルと待ち合わせてから俺達は下級生、つまり一年生の教室を全て訪ね、名簿を片っ端から見て回った。


 が、イリアという名前の生徒は一人もいなかった。多分『入谷』か『伊里矢』らへんだろうと思っていた自分の考えが浅はかであったと痛感させられる。


「○井リア……とかか?」


「そもそもあだ名って可能性も、自分でつけた芸名って可能性もあるじゃない」


「ソレか……考えたくないけど、中学の時の後輩で、今は他校……とかなのか……?」


 だとしたら結構厳しいぞ。難易度が一気に上がっちまう。


 本名が分かれば、コレ以上ないくらい簡単な話なのに……!


「……使えないわね」


 ソレを言いてーのは俺の方だ! でも言ったらリライどころかアルルにまで何をバラされるか分かったモンじゃないから黙ってるけどね!


《あー! アキーロ! ユノですよ!》


「は? 何だ?」


 いきなりリライがトーンを上げた声を出したので、俺は驚いてしまう。


《だから、ユノですよ。前、前》


「あ……」


 リライの言葉の通り、俺の視線の先には高校時代の優乃先輩がいた。


「優乃先輩!」


 俺は気がついたら彼女に駆け寄りながら声を上げていた。


「アレ? 秋くんだ。こんにちは」


「優乃先輩……こんにちは」


「何してるの?」


 ……やっぱり可愛いなぁ。この人の姿を見る度に俺は『救えてよかった』って思うんだ。


《……誰よ?》


《ユノですよ。リライの……友達で、お姉ちゃん? みたいな感ぢですよ》


《ふーん》


《アキーロが最初のリトライで助けた人ですよ。アキーロわユノが大好きですよ》


 ……よせやいリライ。照れちまうぜ。


 てかアルルと一緒だった。何て説明すればいいんだろうか?


 いや別にやましいこともないんだし、どうせこいつは猫を被るんだろうから、ただの留学生でクラスメイトです、で済むか。


《……ふーん》


 と興味なさそうに頭の中で返事したアルルが、いきなり俺の腕に飛びついてきた。


「もう、先に行かないでよ。歩くの早いー」


「……は?」


《ふへ?》


 ……何が起きている?


 誰だこの俺の腕にしがみつきながら、上目遣いで頬を膨らませている銀髪の女は? もしかして、もしかすると俺の知っているアルテマ・マテリアル、その人?


「あ、秋くん? この人は──」


「あ、いやこいつはですね優乃先ぱ──」


「あー、この人が優乃先輩なんだー? こんにちはー。いつも秋色がお世話になってますー」


 ……!?


 俺の言葉を遮ったアルルが、ワケの分からんことを言う。


「え……秋色? お世話に? って……? あ、あなたは……?」


「違……! こいつは──」


「アルテマ・マテリアルっていいますー。初めましてー。よろしくお願いしますー」


「ず、随分……仲良さそう……だね」


「いや──」


「えー? そんな風に見えますー? エヘヘ、嬉しいな」


「…………」


 真っ青な顔で半笑いのまま固まってしまう優乃先輩に、なおも俺の腕に擦り寄ってくるアルル。


 よく分からんが、コレはかなりまずい状況だという気がした。


 そう、ピンチだ。大ピンチ。


「ゆ、優乃先輩! 違うんですコレは──」


《ちょっと! さっきから何言ってるです──》


《黙りなさい。余計なこと言ったらもう協力しないわよ。発言を禁ずる》


「……!」


「ね、もう行こ、ダーリン? じゃあ、失礼しますー」


 そう言って、茫然自失状態の優乃先輩と俺を無視して、強引に俺の腕を引っ張って歩き出してしまうアルル。


 違うんです。違うんです……! 優乃先輩……!


「……え、ちょ……」


「…………」


 曲がり角を越え、優乃先輩の姿が見えなくなった瞬間、俺はアルルの腕を振り払った。


「何言ってくれてんだお前はっ! しかも何だダーリンとかエヘヘとか!」


「何よ。あんたらなんかそんなん好きなんでしょ?」


 へ……偏見だぁ。


 いつもの素に戻ったアルルが全く悪びれていない様子でうざったそうに睨んでくる。


「何考えてんだよ! 俺の幸せぶち壊して何が楽しいんだお前は!」


「あんたがヘラヘラしてるのがむかついたの。命が掛かってて、このあたしが手助けしてやってるんだからもう少し緊張感持って真面目にやんなさいよ」


「ただの八つ当たりじゃねーか!」


「こうしとけば、あの女だってあんたに愛想尽かすじゃない。失敗してあんたが死んだ時に、無駄に悲しむこともなくなるんじゃない?」


「この……っ!」


 俺の怒りが洒落じゃ済まないラインを越えそうになった時、アルルが少し節目がちになって、再びぼそりと口を開いた。


「……嘘よ。そんなに怒らなくても、どうせあたしに関しての記憶は誰にも持ち越せないんだから」


「え」


 ……誰も記憶を持ち越せない?


「あたし達は、結局この世界に何も残せないのよ。何をしても、何を言っても、結局不必要だと判断されて……消去されてしまうんだから」


 ……消去。そうか。以前アルル達監視者は周りに不必要な記憶を残さないように……とかなんとか言ってたけど、どの道彼女達に対する記憶は消去されてしまうのか。


「だからあんたは今回も浄化を成功させることだけ考えてりゃいいのよっ! そうすれば全部元どーり! よかったわね!」


「…………」


「何よ……ムキになって……そんなに怒らなくてもいいじゃない……アホね」


 ……つまり、クラスのみんなにも、アレだけアルルに心酔しているアホ男子達にも、誰にも思い出してもらえないのか、こいつは。


「…………」


「ふん。さっさと行くわよ。アホ──きゃうっ!」


 俺はぶっきらぼうに背中を向けたアルルの脳天にいつかのようにチョップを振り下ろした。


「何しやがるのよっ!」


「コレで勘弁しといてやるよっ」


 涙目で振り返るアルルに、俺は傲岸不遜とばかりにふんぞり返って言い放ってやった。


「はぁ!?」


「全く……おイタのレベルが高すぎる。リライより手が掛かるなオメーは」


「んなっ!?」


《ふへ?》


 かなりの衝撃を受けているアルルに、俺はさらに続ける。


「こんなメンドくせーことしねーでも俺はゼッテー忘れてやんねーよ! 安心しろ!」


「あ、安心……?」


「あぁ、俺は……俺だけはお前の記憶、持ち越せるだろ? 心配すんな。お前みたいなヤツ、忘れたくても忘れられねーよ」


《リライも記憶持ち越せるですよ! アキーロだけぢゃねーです!》


「あぁ、そうだったな。リライも忘れてやんねーってよ?」


「…………」


《そーですよ! 自分イヂョーに手が掛かるって言われたこと、忘れてやらねーです!》


「だってさ」


「……アホ、じゃない……の」


 そう小さく返してきたアルルは、眉根を寄せて、その小さな身体を振るわせ始めた。


「おいおいおい。大丈夫かぁ?」


「大丈夫じゃねーわよ! いったいのよ! アホっ!」


「そんなに強く叩いてねーだろ。お前のやったことに対する罰としてはかなり譲歩した方だ」


「めちゃくちゃ痛いわよ! 自然と涙出てきそうなくらい!」


 急に子供っぽくなったアルルが、下からジっと恨めしげな視線を送ってくる。


「わ、悪かったよ……」


《やーい泣いた! アルルわ自分より泣き虫ですよ~!》


 ……いや、ソレはどうだろう。


「うっさいわねリライ! ぶっ飛ばすわよ!」


《ぶっ飛ばし返すですよ! また泣くハメになるですよ~!》


 ……本気で子供のケンカになってきたな。


「全く……一度ならず二度までもあたしに手を上げるなんて……絶対許さない……絶対覚えておくからね……!」


 俺の隣を歩くアルルはしばらくそんな調子で鼻をグスグス鳴らしながら恨み言を言っていた。





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