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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ3
70/161

プロローグ

 



「はっ……はぁ……はぁ……」


 聞こえるのは自分の荒い息遣いと、うるさいくらいに暴れる鼓動だけ。


「……ぐっ……う」


 うるさい。少しは落ち着いてくれ。


 こんなんじゃ、いつまで経っても血が止まってくれないじゃないかよ。


 既に両手はおびただしい鮮血に染まりきっていて、俺の座り込んでいる周囲には血溜まりができてしまっているというのに、ソレでもなお流血は(とど)まることを知らぬが如く湧き出てくる。


「……は……ふぅ」


 ようやく呼吸が落ち着いてきた。


 先程までは焼けるように熱かった身体も、今は急激に冷えてきている。


 地獄の責め苦のように感じていた痛みも、今はもうほとんど感じない。


 ソレが果たして良いことなのか、悪いことなのかは分からないが。


 とにかく、熱が抜けたおかげで先程よりは落ち着いてきた。


 だが身体は鉛を呑んだかのように鈍く、動けそうにない。


 だというのに、なおも血は抜け出ていく。


 指の一本もまともに動かせそうにない。視界の隅に転がっている携帯電話までたどり着けるかすら怪しい。


「コレは……死ぬ……ってことなのか」


 まるで他人事のように、俺は呟いた。


 先程この傷を負った時は、発狂しかねない程の恐怖を覚えたというのに、もう遠い昔のことのように感じる。


 勿論恐怖がないワケじゃない。だけど、今一番頭の中を占めている感情は、自分自身のふがいなさに対する憤りと、救ってやれなかったことへの負い目。


「……は、はは……」


 ……自分でも呆れてしまうくらいの聖人っぷりだな。いつからこんなイケメンになった?


 まさか、自分を殺した相手に同情しているなんて。


 ……目が霞んできた。


 死ぬのか。こんな、うらぶれた誰もいないところで。一人寂しく。


「寂しいな……こんなの」


 不思議と恐怖はなかった。いや、ないと言えば嘘になるが、ソレよりも俺はただただ寂しかった。


 死ぬのは別に構わない。少し前の俺は自分の命を軽んじている部分があったし、ソレに……たとえ自分が死んででも助けたいと願っていた最愛の人は既に助けることができたから。


 天使がくれたクリスマスプレゼントのおかげで。


 そうだ、あのプレゼントは、もともと死ぬ運命にあった俺への延命措置だった。そう考えれば……。


 そう結論づけた俺は目を閉じた。急激に眠くなってきてしまい、自然とまぶたが重くなってしまったのだ。


 ……誰かが……走ってくる足音が聞こえた気がした。


 足音が俺の前で止まる。


 ……誰、だ?


 俺は未だ閉じたままでいようとするまぶたを、苦労して上げる。


 ……そこにいたのは、俺の妹だった。


 見たことがなかった。こいつの、こんな表情を。


 こんな、絶望にその碧眼を見開き、整った顔を目一杯歪ませる表情を。


「……っ!」


 ――ヒュウ、と鋭く息を吸い込む音が聞こえた。


「り、リラ――」


「あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――っ!!」


 初めて聞いた。こいつの、こんな……喉が擦り切れてしまうんじゃないかと思えてしまうくらいの、絶望に囚われた絶叫を。


 初めて見た。こいつの、こんな……壊れてしまうんじゃないかと思えてしまうくらいに、頭を抱え、その場に崩れ落ちる姿を。


「アキーロ! アキーロぉっ!! いやっ! いやぁっ!! 嘘です! こんなの! こんなの嘘ですよっ!! いやですよっ!! いやだ……! いやだよぉぉ……! こんな、こんなの! いやあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――っ!!」


「……っ!」


 先程まで急速に冷えていった胸の内に、突然一つの火が灯る。


 ソレは、爆発的に渦を巻き、一瞬で身体中に広がっていった。


 ──何が。


 何が『死ぬのは構わない』だ……!! いつからそんなに諦めがよくなった!?


 見ろ! 目の前で俺に縋りついて泣き崩れている『家族』を!


 どうしてこいつは泣いている! こいつを泣かせているのは誰だ! お前だろ! 戸山秋色!


 いい加減気づけ! 俺には悲しんでくれるヤツがいる!


 死ぬワケにはいかない理由が、腐る程あるってことに!


 ……そうだ。俺は死ぬワケにはいかない。俺は生きたい。


 ……なら、どうする? どうすればいい?


 残された時間と、全思考力を総動員し、生き残る為に使えそうな全ての記憶を辿る。


 ……そもそもどうしてこうなった? なんて愚痴は後回しだ。


 多分コレは、もう決められていたことなんだ。


 俺がリライと出会い、望みを叶えたその時に。もう彼女と出会うことは……いや、出会っていたことは必然となったのだろう。


 そして……この時代で彼女と出会うことも。


 俺の脳裏には、あいつと再会したあの夜の……()()()()の場景が甦っていた。






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