表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ2.5
62/161

アルルと秋色④





「っふはぁ!」


 ブラックアウトから目が覚めると、そこは夕暮れ時の学校の教室。そして目の前には銀髪の少女がいた。


 リライ……じゃない。ググリ先生?


 あ、違う。こいつは――。


「どうしたんだい戸山くん? 僕の顔をジロジロ見て。大丈夫?」


 声を聞いて分かった。少女じゃなくて少年だ。


 こいつは今回のターゲットであるアルル……の弟の、えーっと、あー……。


 あ! エルルだ! 思い出した!


「あ、ああ。大丈夫だエルル」


 とりあえず状況を把握する時間を稼ぐ為に俺はそう答えて辺りを見渡した。


 黒板を見るに、今は高校二年の九月。


 夏休みが明けて少し経った頃、ちょうど衣替えが成されたばかりだ。


 前回のリトライのすぐあとではないか。時計は四時半を少し過ぎたところ。


 もう本日の全授業が終了している教室で、俺は、いや俺達は一体何をやっているんだ?


「なあ……何やってんだ俺達?」


 浮かんだ疑問をそのまま言葉にする俺。


「何言ってんだよ秋。さっき言ったばっかじゃねーか」


 そう怪訝なまなざしを向けてくるのは小学校来の親友、宗二だ。


「まだ夏休みボケ残ってるんじゃねーの?」


 追い討ちを掛けてくるのは中学校来の親友、賢だ。


「三次元にwww戻れなくなったwwwみたいなwww」


 このうざい口調はウチのクラスのゲス王子こと、ケーツーだな。


「夏休み前にボコボコにされてたみてーだしNA」


「名誉の負傷と聞き及んでおります!」


 ……誰だ、コイツら?


 いや確かに記憶の隅に存在はしてるけど、名前までとなると忘却の彼方だ。クラスメイトなのは間違いないが。


「ではwwwアッキーが現実回帰したようなのでwww改めて帰りの会を始めますwww」


 ケーツーが教卓前に立ち、妙な宣言をする。


「帰りの会!? HRじゃなくて?」


 何て懐かしい響きだ。小学生かこいつらは。


「皆さんからwww何か連絡事項はありますかwww」


「はーい」


「はいサッシー」


「クラスメイトの如月くんがキモくて困ってます!」


 おいおい何だこの状況は。マジでコレ帰りの会じゃんか。


 放課後の教室に残って何やってるんだこいつらは? エルルまで。


 というかエルルは俺を敵視してるんじゃなかったか?


 前にアルルに唇を奪われた時、フェードアウトしていく意識の中で、泣きべそかきながら敵対宣言するこいつを見たような?


「ではwww本日の議題wwwいきますかwww」


 一通り茶番じみた会話が終わると、進行役のケーツーの瞳が妖しくギラつく。


「待ってました!」


「今回はどんな議題なんだ!?」


「確か前々回は『女にも性欲はあるのか』DE……」


「前回は『女性知るべし穴三つ』でありましたね」


 俺はがくっ! と頭を傾けた。ただの童貞達のエロトークじではないか! あ、宗二は除く。


「なおwww今回はゲストにエルク氏を呼んでおりますwww」


「どーもです、はい」


 あ、今回限りのゲストだったのか。


 こいつがこんなエロトークに交じってるのは少々驚きだったが、納得がいったぜ。


 こいつも経験者だったりするのかな……だとしたら許せんなコリャ。


「ズバリwww今回の議題はコレだぁあ~www」


 大げさな動きで、でもどこか気の抜けた声を出しながらケーツーが黒板に何やら書き殴っていく。


「『致したことのないオナゴでもオンナノコの日にはタン●ンを入れることができるのか!?』だッ――!」


「ただのセクハラトークじゃねーか!」


 俺は思わずツッコんだ。さすが我がクラスの誇るゲス王子と呼ばれる男だ。変態のレベルが違う!


 何なんだ今日は。下ネタの日か?


「でもでもwww気にならない? 僕は気になるwww」


「う……正直、なる」


「なる」


「なる」


「NAL」


「なりますであります」


「……?」


 その場に女子がいないからなのか、ものすごい団結力を垣間見た気がする。ただ一人、エルルだけは頭上に疑問符を浮かべていたが。上司に聞いてたりするんだろうか?


「いやナプ●ンオンリーだろ。裂けちゃうじゃん」


「いやタン●ンくらいならいけるだろ。裂かないサイズで。見たことねーけど」


「そんなサイズでは意味を為さないでは? 密封性が発揮されて初めて効果があるモノかと」


 ……ゲスだ。最低のゲス会話だ。


 だが、コレは紛うことなき童貞男子の会話。一名除く。


「でもコレはさすがに女子には聞けねーよ! 逮捕されちまう」


「お前は委員長ちゃんに聞けるんじゃNE? 幼馴染なんだSI」


「いや……そんなんネットで調べればいいじゃん」


 と俺がもっともなことを言うと、そこにいた全員が信じられないという顔でこちらを見る。


「何を言ってるんだ秋! この議題は直に聞くか確かめるのがそもそものルールだろ!?」


「いつもの秋なら我先にと駆け出してるはずだろ!」


「www日和ったかwww」


「そんな軟弱な姿勢では誰もついてきません! 敵前逃亡と同罪であります!」


「がっかりだZE」


「ご、ごめんなさい……」


 喝! とばかりに非難轟々だ。思わず謝ってしまったほどだ。


「では今回の解答はwww我がクラスが誇るゲス魔王に調べてもらいましょうwww」


『異議なし!』


 ……誰だ? ケーツーのヤツ、ランクアップしたのか? むしろランクダウンか?


「ではアッキーよろしくwww」


「俺かよっ!? 何だゲス魔王って!」


 俺は思わずガタタ、と音を立てて立ち上がった。いつついたそんなあだ名!?


「何を仰るのですか。球技大会以来その名は全校に浸透しておりますよ」


 マジかよ!? ボールの投げ方をオカマみたいだとバカにされた記憶しかないぞ! 一体何があったんだ球技大会で!?


「では解散www」


 ケーツーのその言葉を合図にソレゾレが席を立ち三々五々教室を出て行く。宗二も賢もバイトがあるらしく先に帰ってしまう。


 俺がどうしたモノだろうかと未だに着席していると――


「おい、罪人」


 ――背後から蔑むようなエルルの声がした。


「…………」


 俺が振り返ると、そこには敵視していることがハッキリと分かる視線を送ってきている監視者がいた。


「お前、何しにこっちにきたんだ?」


「ああ、やっぱりソレが本性か。一瞬仲良くやってるモンなのかと思って驚いたぜ」


 俺がそう言うとエルルは性質の悪い冗談を聞いたように鼻で笑う。


「周囲に余計な疑問を残さないように表面上仲良くやってるだけだよ。信じられないだろうが、この間は一緒に昼食を食べたくらいなんだぜ、僕達は」


 ……マジでか。何かイメージしづらいな。


「……で、何しにきたんだと聞いてるんだ、罪人」


「答える必要はないな。監視者だったら自分で調べてみろよ。シスコン坊や」


 俺は意地悪に笑いながら言ってやった。


「……ふん」


「っていうか俺はもう罪人じゃねーよ。執行代理だ。またの名を罪魂の――」


「お前が何をしにきたのかはどうでもいい。ただ――姉さんには近づくなよ。コレは命令だ」


 ……最後まで聞けよ。ソレにしても相変わらずのシスコンだな。


「偶然出くわしちまったらどうすんだよ。そこまで気をつけようがないぞ」


「……姉さんはこの時間は大体中庭にいる。絶対に中庭に近づくんじゃないぞ。絶対だ」


 そう言ってシスコン監視者が教室を出て行く。


 ……中庭か。情報をどうも。アホ坊や。


 しかしググリ先生が一向に話し掛けてこないな。試しに語り掛けてみても返事がない。


 マジで丸投げで俺の漫画やゲームに興じているのだろうか。最低だ!


 あ、でも考えようによっては不幸中の幸いか? さっきのセクハラ議論を聞かれていて、また面倒なことを言われたら堪らんからな。


 しかしどの道戻る為にはあいつと接触しなくてはならないのだろう。気が進まないけど行くしかないか。


 そう思って俺は本心に従って重くあろうとする腰を上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ