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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ2.5
51/161

ゲス共の戦場~球技大会編~①

 



「……ふう」


 そう一息吐いて、あたしは目の前に広げられた日記帳の横にペンを置いた。コレで今日の分は終わりだ。


 日本語の文字を書くのにも、だいぶ慣れてきた。


 やはりソレらについての知識を刷り込まれてはいるモノの、今までソレを使っていた、という熟練度まではついてこない。


 だからこうやって実際にペンを握って文字を書いてみるまでは、ドレくらいの力加減でペンを動かすのが一番効率的か、いわゆる感覚的なコツというモノを掴むまでには至らないのだ。


 弟はこの知識として知っているはずの行為にややてこずることに不平を漏らしていたけど、あたしは実はこの『初体験』が嫌いではなかった。


 実践してみて初めて分かるモノがあるということは、そう悪くないモノだ。


 管理者達の刷り込む知識が万能ではない、といういい証拠になる。


 そう、連中は全てを管理できているワケではないのだ。


 あたしはアルテマ・マテリアル。死後の世界より遣わされた監視者だ。


 監視者の主な任務は罪人や執行者の浄化作業、及び浄化の際に生じた上書きによる世界への影響などの監視、報告。


 ソレと予定外の事態などにより、罪人の償いを補助するサポート要員が役に立たなくなった時の為に、罪人との接続を奪い取り、コントロールする権限も与えられている。


 報告と先述したが、今あたしが書いていた日記とソレは無関係だ。


 報告には言葉や文字は不要であり、この日記を書くという行為は、あたしがこの世界に馴染む為、自分という存在、記憶、痕跡を残しておきたいという思い、そして何より、あたしがこちらの世界で得た知識をある日突然失う、などの不慮の事態に備えておこう、という思いから衝動的に始めた行為だった。


 ここだけの話、最初こちらにきた時、あたしには欠けている知識があった。


 刷り込みが万能ではない、どころではない。最早欠陥、欠落と言ってしまって差し支えない事態である。


 ソレは監視対象に対する知識だった。


 監視者が、監視対象に対する知識を持ち合わせていないなんて、お笑い種だ。


 乱暴な言い方をすればあたしは失敗作というワケだ。『究極の素材』なんて名前負けもいいところである。


 おまけに、既に弟や周囲の人間達との会話から得たはずの監視対象の名前、顔、性格など、ソレに対する知識の記憶機能にも問題があるらしい。いや、あったらしい。


 覚えたはずなのに、しばらく経つと彼に関する認識が曖昧になっていくのだ。


 そのくせ、心の奥底には、彼に関わる事柄などを耳にすると、どうにも胸がざわめき、落ち着かない気分になる。


 コレは何かの呪いなのだろうか。


 ソレとも、あたしの中の何かが彼に着目せよ、彼のことを忘れてはならない、と何らかの警告を発しているのだろうか?


 この現象は弟であり相棒でもあるエルには起こっていないらしい。彼にも、何人(なんぴと)にも秘密にしているあたしだけの最重要機密だ。絶対に悟られてはならない。


 ソレらを日記に綴っているワケではないので、ここから悟られる心配はないだろう。でもこの日記は誰の目にも触れさせるつもりはない。存在自体悟らせるつもりもない。


 ……思えば、あの頃のあたしは彼の動向に目を光らせ、絶対に忘れないように、忘れたくても忘れられないくらいインパクトのある覚え方をしようと躍起になっていた。今思い返せば我ながら噴飯モノだ。


 もっとも、あたしが初めて彼を目の当たりにし、接触した時の彼は浄化とは何も関係がない為、時を遡った執行者としての彼ではあらず、あたし達をあたし達として認識、記憶できなかったのだが。


「いつ頃だったかしら……」


 思い出したら無性に気になってきたので、あたしは日記帳の頁を捲り始めた。


「確か……あのアホが高校二年生の時の五月だわ……」


 そうだ。この時の彼も、また執行者として存在している時代の彼も記憶していない、けれどこの時以前に成された浄化により、確実に人生観が変わったのであろう彼と出会った時のお話。





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