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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ2
27/161

プロローグ

 



 完璧に他人の立場に立ってモノを考えられるヤツなんていない。多分……いや絶対。


 少なくとも俺はそう思うぞ。


 よく言うよね。『自分がその人の立場だったらって考えなさい』とか、『他人の痛みの分かる人間になりなさい』とか、さ。


 確かに素敵な教えだとは思うよ。けど人が他人の痛みや悲しみを完全に理解するなんてのは不可能なんだ。


 もし人間が言葉をもって助けを求められたワケでもないのに、その人の顔を見ただけで痛みを共有できたのなら、そんな簡単でお粗末な話はないだろう。


 そういうのは映画やドラマで大衆を感動させる為の過剰な演出だよ。そのワンシーンだけにあつらえた奇跡さ。正にその場しのぎってヤツだ。


 では、ハッキリと助けを求められ説明を受けたとしたら、百パーセントその人の痛みを共感できるのかと言ったら、答えはノーだ。だからさっきのカギカッコのあとには『できるだけ』を付け加え、そしてカギカッコ閉じの前の言葉は『なりなさい』じゃなくて『なれたらいいね』に付け換えるべきだ。


 ……イマイチ理解できないかい? ちょいと説明が拙すぎるか?


 じゃあ痛みを食べ物に置き換えてみようか。伝わらなかった時の責任は取らないけど。何せ俺はイマイチ伝わらない例え話が特技な男だからな。


 俺自身は野菜の八、九割が食べられない人間だ。だからある言葉をよく言われるんだ。


 あんたが好きなモノが『牛肉』だったとする。『いやラーメンだ』なんてツッコみはちょっと我慢してくれ。あくまで仮にだ。便宜上嫌いな人がそういないモノを選ばせてもらった。そして嫌いなモノは『ピーマン』としよう。やはりここでも『いやホウレン草だ』なんてツッコみは我慢だよ? 例えピーマンが大好きでもここは合わせてくれ。


 あんたと一緒に食事に行った友人が牛肉を死ぬ程嫌いだとそこで知ったとしよう。


 あんたは間違いなく『こいつにとっての牛肉は俺にとってのピーマンなんだな』なんてことを考えるよりも先に『ええ? 何でこんなおいしいモノが食べられないの?』って言ってしまうだろう? ソレがドレだけ相手の心を傷つけるかも知らずに。


 さあ『いや、食べ物の好き嫌いくらいで何を大げさな』と思ったそこのあんた。言っただろ。コレはあくまで痛みを食べ物に置き換えた例えだ。じゃあ食べ物を痛みに置き換えてみよう。


 本人にとっては死ぬ程辛い経験をした友人に、あんたはその言葉がドレだけ相手の心を抉るかも考えずに『ええ? そんなこともできないの?』と言ってしまったことがあるはずだ。言葉は違えどソレと同等の鋭さを持つことを。


 無理もないさ。友人を追いやったソレはあんたにとっては大好きで困難などであるはずのない『牛肉』なんだから。


 そうなんだ。いくら相手のことを思っていても、人が完全に相手の立場に立つことはできない。ならばどうするか?


 想像するんだ。もし自分がその人のいる状況に立たされたらどうだろう? ってな。


 しかしいくら状況を友人と同じに設定しても、そこに立たされているのはあくまで自分だ。精神力も忍耐力も趣味嗜好も経験値も、自分を基準としてしか考えられない。だから『自分』の培った経験や認識や考え方におかしな点があったとしたらうまくいかないだろう。


 人は自分の主観でしかモノを見れない。悲しいけどコレは事実だ。だからいくら想像しようと、友人とあんたの見解に相違があれば、ソレはもう完全な共有ではなくなる。


 というかそうなるのは必然だ。ロボットみたいに意思統一を施されたワケでもあるまいし。みんなの考えが全て同じだったら気持ち悪いことこの上ない。考え方は十人十色。生き方や振る舞い方は千差万別。そんな無数の綾が人というモノを織り成し形成されるのが社会だ。


 俺達は知らず知らずの内に誰かを傷つけている。そして完全に他人の気持ちを知るのは不可能だ。別にソレを責めるつもりもないけどね。せいぜい『できたらいいね』くらいのモンだ。


 そもそも自分が知らない内に相手を傷つけていたことに一生気づけないヤツだっている。ある意味幸せなヤツだ。


 問題は、取り返しが付かなくなってからそのことに気づいてしまったヤツ。


 つまり、俺だ。


 そこに後悔と自責の念が生まれるのは当然の結果であると言えよう。


 ……いや、取り返しが付かなくなってからってのはちょっと違ったな。普通の人間にとってはそうであっても、今の俺にとっては違う。


 何せ俺はある奇跡によって、ずっと切望していた『後悔と向き合い、浄化する力』を手に入れたのだから。


 いや、手に入れたってのは調子コキ過ぎだな。偶然にももたらされ、力を使わせてもらえるって感じか。


 ハッキリ言っちゃうと、俺は自分の記憶を元に、今までの記憶を持ったまま過去に行くことができるんだ。そして、自分の後悔に干渉することができる。


 今回話すことは俺の過去の書き換え、上書き、加筆修正。ソレに挑戦したっていうお話だ。


 ちょっと気取った、中二な名前を付けるんなら……『リライト・トライ』そんなとこだ。





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