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リライトトライ  作者: アンチリア・充
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第十四話




「だー! また負けた!」


 俺はゲームのコントローラーを持ったまま、残った指と空いた手で頭を抱えた。


「戸山ってさ、何を狙ってるか結構バレバレっていうか、『次にこうするぞ!』ってオーラが出てるよね」


 相変わらずあぐらをかいた脚(スカート!)の上にアケコンを乗せたまま都が呟く。 


「も、もう一回だ!」


「戸山、完全に感覚でやってるからなぁ。ちゃんと雑誌とか読んで勉強した方がいいよ? ゲー〇ストとかネオ〇リとか」


「俺は実戦の中で学ぶタイプなの! もう一回!」


「えー、まぁ、いいけど。でも何か賭けないと上達しないなぁ……負けても百円玉が無に帰すワケでもないから、緊張感が欲しいよね」


 都がいいことを思い付いた、と言いたげな表情で、目を細める。


「おい、コレ以上ハー〇ンダッツ増量とか勘弁してくれ。小遣いが尽きる」


 対して俺は汗をダラダラかきながら、既に頭の中で出費の計算をしている体たらくだ。


「あ、じゃーあ、えっとね──」




「…………」


「んー♪ くるしゅーない♪」


 都がリラックスした声を出す。


 あのあと俺は瞬殺された。そしてこのザマだ。


「すんげぇ凝ってるな、肩」


「うーん、やっぱゲーム三昧だとどうしてもね。あと運動不足気味だし」


「…………」


 ここで「いや、肩が凝っている原因は──」などと口に出来る程、俺はまだおっさん化してはいなかった。


 何というか、口だけならともかく、身体に触れながらエロいことを口にしたら、相手に与える恐怖感や嫌悪感が倍増する気がするんだよね。


 言葉だけでセクハラする時は逆に、『コレ以上のラインは絶対に越えない』という暗黙の了解みたいのがあるんだ。少なくとも俺の中では。


 ……しかし、俺は今、同級生の女子の身体に触れている。


 しかも『いいよ』と許可された上で、だ。


 ちょっと十四歳の男子中学生には、刺激が強すぎるような。


 その一方で快挙を成し遂げたような、嬉し恥ずかしな複雑な気分だ。


 ……こんなに小柄なんだな。女の身体って。


 力を入れ過ぎたら壊れてしまいそうで、何だか不安になってしまう。


 細くて白いうなじから、何だかいい匂いがする。


 ……あぁ、もう! 何も考えるな! ただただ肩の凝りを揉みほぐすだけのマシンになれ!


 ……俺は劣情を催さないダダッダー。ロボットだから、マシーンだから、ダダッダー♪


 肩凝りの原因と思われる二つの物体を、重力から解き放ってあげる行為なんてもっての他だぜ! ダダッダー!


「……んん」


 あれ……? 寝てる……?


 手を止め、都の顔を覗き込む。


「……すぅ」


「……寝とる」


 まつ毛なげぇなこいつ。


「…………」


 やっぱ、可愛いよこいつ。


「……こんな冷房効いた部屋で寝たら、風邪引くぞ」


 俺はポソリとそう呟き、ベッドの上にあったタオルケットに手を伸ばす。


 その時だった。


 あぐらをかいた俺の膝の上に、都が仰向けに倒れ込んできた。


「ちょ……っ!」


 思わぬ展開に俺は固まってしまう。


「……すぅ」


「…………」


 寝息を立てる可愛らしい顔の少し奥に、そびえ立つ二つの山。そして視線を下げると……。


「…………」


 その余りの存在感。


 頭が真っ白になり、ついつい凝視してしまう。


 いや、違う。目を離せないんだ。


 てか、何でこいつこんな胸元の甘い服を……!


 もう完全に頭は沸騰状態、心臓はトップギア。


 完全にかぶりつきの超凝視状態。


 まずいな。コレはまずい。何がまずいのか具体的に言語化することは難しいがコレはよくない! 何がよくないのか──


「女嫌いとか言っといて……興味あるんじゃん」


 そんな声が真下から聞こえた。


「わあぁぁぁ──っ!!」


 俺はコレまで体験してきたどの肝試しの時よりも、ドでかい声を上げてしまった。


 す、スクランブルダッシュ! いや、ダッシュはまずい。


「ち、違う! こんなカッコで寒くないのかなって……!」


「えー? 嘘だー。少なくとも十秒は凝視してたね。ウチが目ぇ開けてんのに気づいてないんだモン」


 相変わらず俺の膝に頭を預けたまま、都がニヤニヤと意地悪く笑う。


「凝視……してたかはともかく! そんなカッコしてたら見られても仕方ないだろ! 男と部屋で二人なのにそんな無防備で! 襲われちゃってもおかしくないんじゃないの!?」


 俺がしどろもどろになりながらそう言うと、都はがばっと上半身を起こして、背を向けたままこう言った。


「……と、戸山に……そんな度胸、アルワケ……ナイシ」


 ……ひでぇ棒読み。


 さっきまで白くて綺麗だったうなじが、真っ赤になっていた。


 言葉とは裏腹に、どうやら俺は、一応男として意識はされているようだ。


「お前ナメんなよ。俺はクラスじゃ『歩く性欲』とか『スケベが服を着てる』とか言われてんだぞ」


 だが俺は、この何とも気恥ずかしい空気をどうにかしようと、敢えて気づかないフリをした。


「……ソレは、問題な気がするんだけど……戸山、いじめられてんの?」


 向き直った都が呆れたような目をする。


「まさか。俺、全然気にしてねーモン」


「……強いね」


「別にそんなことはないけど……お前はもう少し、こう、俺の視線があることを意識して欲しいと言うか、余りに無防備すぎるというか……」


「どういうこと?」


 都が首を傾げる。あんなことがあったからか、妙に可愛く見えてしまうな。


「だからぁ、胸元の警備が甘いし、短いスカート履いてるのに座り方もアレだし、おっぱい大きいし、警戒心がなさすぎるって言ってんの!」


「……スケベ」


 顔を真っ赤にしながら、目を逸らされる。


「スケベじゃなくても見ちゃうの! 大体何でそんなおしゃれな格好してんだ。部屋着かソレ?」


「……だって、戸山が来るって思ってたから、いつもの部屋着じゃ、恥ずかしい……し」


「……そ、そっか」


 ……アレ? 顔が熱い! あと何かすごい嬉しい!?


 やはり……男として認識はされてる……らしい。


「うん……そう」


 チラリと見ると、都も未だに真っ赤になってそっぽを向いていた。


「……え、えと、ゲーム、続きしようか」


「……うん」


 俺達は二人、向き合うには恥ずかし過ぎる真っ赤な顔を、お互いにテレビへと向けることにした。


 ……ちなみに、俺は今日は一度も勝てなかった。



 

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