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リライトトライ  作者: アンチリア・充
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第十二話




「で? 付き合うの?」


 ジャ〇コ内のファストフード店にて。


 向かいの席に腰掛けた宗二が、ストローから離した口でそんなことを聞いてきた。


「いやいやいや。友達だって。実際には友達を装ってあいつの技を盗むんだけどね。よくあるじゃん漫画で。そいつを超えるためにそいつに師事するって」


「テレんなよ秋! おめでとう! 彼女できたじゃん!」


「彼女……? 彼女って神話上の生き物じゃないのか……?」


 俺は驚愕したようにそう呟き、ポテトを口に運ぶ。


「んなワケあるか。じゃあ彼女いる俺は珍獣ハンターか。智美を珍獣扱いは許しませんよ! シーイズマイエンジェル!」


「うっせーハゲ。隙あらば惚気(のろけ)んな」


「お前もハゲだろ!」


 宗二が俺の、俺は宗二の坊主頭をお互いショリショリと触る。


 あの放送室ジャックで、俺達は同じバリカンで毛を刈った仲になってしまったワケだ。あとタケシくんも。


「とにかく、彼女と違うわ! 宿敵だ!」


「彼女じゃないのに家に行くの?」


「……彼女じゃないけど行くよ。もちろん修業に」


 そう、今日から夏休み。


 そして俺は今、議題となっている同級生の女の子、都優美穂に《夏休みの間、ぼっちで寂しいだろうから俺様が遊んでやろう》とメールを送った。


 ……すると驚いたことに《じゃあウチくる?》と返ってきてしまったのだ。


 そんなワケで、俺は宗二と作戦会議だ。一体どんな罠が待っているか分からないからな。


「あぁ~ん、ヒロくんの食べてるポテトの方がおいしそぉ~」


 背後の席から甘ったるい声が聞こえる。さっきからずっとイチャついてるカップルだ。


「同じだろぉ? じゃあ食べさせてやるよぉ。ほら、あーん」


 いらいらいらいら。


「ああぁん、おいちぃ~ん」


 うん……吐きそう。何でわざわざ対面じゃなくて隣に座ってくっついてんだ。食べにくいだろ。


「もし彼女が出来ても……ああなりたいとは思わないな」


 俺がボソッと呟くと、宗二は苦笑いした。


「ああ。俺も。まぁ俺の場合、俺がなりたがっても智美が拒否ってくれるから」


 ……ソレはソレで可哀想な気もするが。


「何か本で読んだんだけど、女ってね、大好きな人に『大好きー』って言って『大好きー』って言われるのが好きなんだって」


「……は?」


 宗二の言葉に俺は首を傾げた。


「ラブラブな気分に浸ってると幸せ指数がすんごい上がるらしいのよ。多分何かしらのホルモンやら脳内物質がドバーって出るみたいで。その『幸せな気分』が好きなの。その『幸せな気分に浸るの』が好きなのであって。別にイチャイチャする相手が好きなワケじゃないの」


「いや……だって、さっき大好きな相手に言って言われてって……言ったろ」


 俺が目を細めて言うと、宗二が溜息を吐いた。おそらく以前の宗二も、今の俺と同じ反応をして溜息を吐かれたのだろう。


「ソレがねぇ、実は好きじゃなくても幸せ気分を味わう為にその人のこと好きなんだなーって思い込むこともあるみたいなんだよ。で、脳内麻薬が切れると『何であんなののこと好きとか思ってたんだろ?』てなるらしい……」


「おいおいやめてくれ……分からないでもないけど、分かりたくないぞ」


 どうやら俺は、まんま以前赤西からこの話を聞かされた宗二の反応をトレースしているようだ。若干俺を憐れむような色をした宗二の目で分かる。


「よく言うじゃん? ブサイクなカップル程、人前でイチャつく傾向があるって。アレってまだあんまり耐性がなくて、脳内麻薬中毒になってるお猿さんみたいなモノらしい」


「……クソ納得した」


「だろ! だろ!? 俺もした」


「なんてこった……『ブサカップル程どこでもいちゃいちゃ問題』の謎が解けてしまった」


 俺はチュゴゴ、と音を立てるストローから口を離し、頭を抱えた。


「……秋も女嫌いだー、とかいってそのラインを越えたら、いきなりお猿さんになったりして」


「ないない。ソレはない」


「……今日お母さんいないの、とか言われちゃうんじゃないの?」


「ばっか! そんな都合のいい漫画じゃあるめーし。こっちは何が起こるか分からない敵の巣窟に乗り込むんだぞ! 下手したら捕まって拷問されちゃうかもしれねーんだぞ!」


「拷問はないだろ。テレんなって」


「もしそうなってもラ〇ボーみたいに怒りの脱出してくるけどな! エイドリ〇ーン!」


「そりゃロッ〇ーだ!」


 宗二のツッコミに俺は満足そうに頷きながらも、自分の気持ちについて考えていた。


 ……口には出さなかったが、俺の中に、都に対しての恋愛感情がないと言ったら嘘になる。


 でも、最初にゲーセンで出会って、ボコボコにされて、あの時に感じた悔しさを無かったことにするのは男として許容できなかった。


 だから……!


 ……格ゲーで、あいつに勝ったら告白する……!






「……お邪魔します。コレ、つまらないモノですが」


 俺はここに来る前に寄ってきたスーパーの袋を都に渡す。


「あー! ハー〇ンダッツ! え……すごい嬉しい。大好きなんだ」


 パアっと明るい笑顔で心から嬉しそうな声を出す都。可愛いじゃねーか……!


「うん。お前いつもゲーセンでアイスばっかり食べてたから、好きなのかと思って」


「エイティーンアイスも好きだけどハー〇ンはキングオブキングスだよ! ありがとう!」


 どうやら掴みはオーケーだな。ギャルゲーだったら『バッチリいい印象を与えたみたいだぞ』て言葉が出てきてもおかしくないくらいだ。


 しかし……こいつ、私服オシャレじゃね? 普段からこんな気合入った部屋着なのか? てか、スカートだし。エロいし。


 ……やはりコレは罠の可能性があるな……! 武器を持ってくるんだった……!


「でもそんなかしこまらなくていいよ。お母さんいないし」


 ……!


 なんということだ! ヤツは俺を生かして返す気はないのか!?


「いや待て。お母さんは、いないけども~?」


「誰もいないよ。お父さんのとこに行ってる。しばらくはウチ一人だから寂しかったんだ」


 ……つまり、お父さんも、お母さんもいない。いないどころか帰ってこない。


「…………」


「戸山?」


「え、ああ、うん。じゃあアレだな。夜、ホラーゲームとか出来ないな」


「へへ、戸山がいるから大丈夫」


「…………」


 つまり……泊まってもいいつもりでいるってことか……?


「……信用し過ぎじゃないのか?」


 俺はスキップ気味に歩く背中に、聞こえないようにボソっと呟いた。


 案の定、蝉の声にかき消されて、彼女の耳には入らなかったようである。




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