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リライトトライ  作者: アンチリア・充
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第十話



《皆さんこんにちは。お昼の放送です》


 給食の時間にて。


 誰にも気づかれずにこっそりと教室を抜け出した俺達は、マイクに向けて何の面白みもない挨拶をしている放送委員の背後に忍び寄った。


《本日のニュースは、飼育係でお世話している兎の赤ちゃんが生まれまし──な、なんだ君達は!?》


「ヒャッハーっ!! 飛び入りゲストだーっ!!」


 そう言って俺は、即座に放送委員の口にガムテープを貼り付け、彼とガムテープのロールを入り口の方にいる、宗二とタケシくんに向かってポポイと放り投げる。


「この放送を聴いている紳士淑女の皆様方には、突然の無礼を許して頂きたい。私は四組の戸山秋色大尉であります。……話の前に、もう一つ知っておいてもらいたい事があります。私はかつてアキ・アズ〇ブルという名で呼ばれた事もある男だ」


「……誰も呼んでなくない?」


「アレは言いたかっただけだから、大丈夫」


 放送委員をドアの外に出しながら、小声で話すタケシくんと宗二に向けて、俺は応じるように親指を立てた。


「今のは緊張を解す為の冗談です。お昼の時間にお邪魔させていただいたのは他でもない。ある疑問を投げ掛けたかったからなんだ。単刀直入に聞こう。みんな──」


 少し心臓の鼓動が速くなっているが、問題ない。


 俺は一度言葉を区切り、深呼吸をした。


「──俺に、何を隠している?」


 そう。ずっと違和感を感じていたのだ。父さん、母さんは元より、俺と話す先生、クラスメイト、仕舞いには宗二に至るまで。


 全員俺に何かを隠している。


 そして、おそらくその何かが……。


「俺は、どうして登校拒否になった……? 二年生の終わり頃の俺に一体何があった?」


 そう。俺がしばらく学校に来れなくなった原因と、直結するモノと見て間違いないだろう。


 一瞬ドアをガムテープ貼りしている宗二の方を見るが、宗二とタケシくんは気まずそうに俺の視線から目を逸らすだけだ。


「……記憶がないんだ。 二年の……多分、文化祭、か? いや、夏休みが終わってから? 何も覚えてない。一体、何があった?」


 そこまで言って、こめかみが痛み出し、俺は低く呻く。


「どうしてそのことを考えると頭が痛くなるんだ? 身体は震えるし、涙まで出ることもある。一体何なんだよコレは!! 答えろっ!!」


 マイクに向けて怒鳴る。


「…………」


 勿論答えなど返ってこない。そもそもこちらに声を届ける手段がないしな。


 だが、俺はなんとなく分かっている。


 多分みんなが俺に何かを隠しているのは……優しさからだ。


「この疑問に答えをくれないのなら、俺はここを動かない。そしてその間に、そうだな……ここ最近で感じていたもう一つの疑問を投げ掛けさせて貰おう。疑問と……ちょっとした文句をね」


 そう。本題は……本命はここからだ。


 今の『俺自身についての話』は、本気で知りたい気持ちがないワケではないんだが、頭痛いし気持ち悪くなるし、正直余り自ら触れたい話題ってワケでもないんだ。


 もしかしたら精神を侵されてしまうのではないか? などと危ぶんでしまう。ソレくらい本能的にやばい香りがする。


 なので、実は今の話はただの理由づけ。そしておそらく、みんなが優しさで俺に黙っているのだろうと予想した上で、利用させてもらう。


 こうすれば俺の知りたい秘密を話さないまでも、何人かは同情的な気分になるはず。


 もしかしたら教師達が、宗二とタケシくんが守るあのドアを、強行突破に踏み切るまでの時間も少しばかり延びるのではないか?


 何より……コレから話す事を、いきなりぶちまけるよりも、真剣に受け止めてくれる確立が上がるのではないかと考えたのだ。


 最初に敢えて回答しづらい議題をぶつけ、その後に本命をぶつける。


 人の心理を利用した話術テクニックだ。


 作戦の成功率を上げる為なら、自分のトラウマだって利用する……! コレが戸山秋色だ……!


 そして……このやり方なら『自分自身について知りたい戸山秋色が、立て籠っている間に投げ掛けた問い掛けと主張』で済むんだ。


 あいつが責められることも、巻き込まれることはない……はず。

 

 そして……上手くいけば、もうあいつが虐げられることもなくなるはずだ。

  

 俺はもう一度大きく息を吸い込み、昨日の親父の言葉、そして別れ際に涙を浮かべたまま笑った都の表情を思い出す。


「『自分は誰かにいじめられたことがある』……もしくは『誰かをいじめたことがある』って、自覚してるヤツ、いるか?」


 俺は重々しく低い声で、そう問い掛けた。


 こちらにその声が届くことはないが、今教室ではみんながざわついていることだろう。


 ソレとも静まり返っているのだろうか?


 あのクソ女共はどんな顔をしているだろうか……黙って苦い顔をしているのか、必死に保身に走っているのか。


 あいつは……都は、どんな顔をしているのだろうか?


 ソレは窺い知れない。


 自分が勝手なことをしているのは自覚している。もしかしたら余計な真似をするな、とあいつから怒りを買ってしまっているかもしれない。


 ……何を今更。


 コレが自分のエゴだっていうのは散々考えた上で、とっくに分かっていることじゃないか。


 その上で俺はここにいる。


 たとえコレであいつに嫌われても構わない。


 恨まれても構わない……!


 あいつを救えるなら。


 あいつにとって、少しでもここを過ごしやすい場所にできるのなら、ソレでいい……!


「『好き好き愛してる』って言った相手のことすら、ホンの数年経ったら『何で好きになったんだか分かんない』とか言えちゃうお前らだ。今気の向くまま、思い付くままに嫌がらせしてる相手にも、どうせ『何でいじめてたんだっけ?』とか言うんだろ?」


 誰に頼まれたワケでもない。


 ソレでも……一世一代。


 戸山秋色、渾身の演説が始まった。




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