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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ4(上)
142/161

第十七話



 ……俺が何とかする、などと大見得を切ってしまったが、チビ猫共を保護してから一週間。


 猶予の半分が過ぎた。


 しかし俺達は、里親探しに関してコレといった手応えを掴めずにいた。


 変態の友人のブログにも情報を載せて貰ってるし、SNSでも呼び掛けている。『可愛い』なんて声も多数来ているし、大勢の人の目に触れているのは間違いない。


 にもかかわらず『飼いたい』、『里親になりたい』という声は未だ皆無であった。


 ……ハッキリ言って、コレはまずい。


 このままでは、大家さんと約束した二週間が過ぎてしまう。そうなったら猫達をここに置いておくことはできない。

 

「そうなったら愛護センターで一時的に預かってもらって……ソレでも里親が見つからなかったら……」


「い、いやです! やですよそんなの!」


 リライが俺にしがみついてくる。


「家族とかに相談できないの? 動物好きなんじゃない?」


 くるりがボソッと口を出す。


「そーですよ。アキーロのお兄ちゃん……つまりリライのお兄ちゃんがすんごい動物好きって聞いたですよ!」


「あぁ……まぁ……そうだな。でもそんとき言ったと思うけど、あいつペット禁止の物件に住んでて、引っ越し資金貯めてる段階なはず……何より、俺はヤツに借りを作りたくないので却下だ」


「ニャー! 言ってるばーいですかー! ついでにハルキに会わせろですよー!」


 リライが俺の背中に飛びついてくる。ソレを引き剥がそうと俺はグルグル回る、いつもの光景だ。


「ええい黙れ! あんな血も涙もない悪鬼羅刹に借りを作ったら、どんな要求をされるか分かったモンじゃない!」


「あの人のこと悪く言うなよっ!」


 突然くるりが大きな声を出した。


「……え」


「……んむ?」


 俺もリライも、予想外の割り込みに目を丸くするばかりだ。


「あ、いや……兄弟のことを悪く言うのは……よくないと思うな」


「…………」


 俺は、ジロジロとくるりの顔を覗き込む。


 くるりは気まずそうに、前髪で目が見えなくなる角度になるように顔を反らす。


 どういうことだ? くるりが兄貴と知り合い?


 そもそも……兄貴が動物好きだと知った上で、話を誘導してなかったか?


 しかも、何か今の口振りだと尊敬されてるっぽいし!


 尊敬……?


「あ」


 そうか。もしかして……


「お前もしかして、兄貴の生徒なのか?」


「…………」


「あ、そーでした。ハルキわガッコーの先生でしたね」


「うん、そんでくるりは──」


「兄さん。そこまでです」


 予想はしていたが、リトラがストップをかけてきた。


「──リトラ、事情を教えず、詮索も許さず、でも監督はしろと?」


 さすがにちょっとイラっときたので、嫌味を言ってみる。


「……と、言いましても、渡した授業料及び、その他諸々の費用を予定外の行動で浪費してしまったのは、兄さんです」


「『こっちもソレを咎めることはせんから、あんたもそこわ折れてもらわんと困るわー』だ、そーですよ」


 リライが俺の背後から、上司の言い分を伝えてくる。


 ……ぐぬぬ。


「いいだろう。話を戻すぞ。兄貴は却下!」


「……じゃあ、お母さんは?」


 くるりはどういうワケだか俺の家族に期待しているようで、なおもそっち方向の提案をしてくる。どういうことなのかは気になるが、詮索は許されない。ぐぬぬ!


「ママ! そーですよアキーロ! ママに会いてーです!」


 リライが俺の背中にしがみついたまま、はしゃぐ。


「あぁ暴れんな! 母さんは俺と同じで犬派だッ!!」


「ニャッ!?」


 リライがショックで石化したように固まった。


「……他に、頼れる人は? もう時間、ないよ」


「……むむむむ」


 家族……家族。


「……親戚はみんな家族である。家族はいつだって味方である」


「あ、戸山家、家訓第二条ですよ!」


 リライがはしゃぐ。こいつコレ好きだよな。


 家族……親戚……従妹。


「あ」


「……んむ?」


 いるな、一人。


 行動力に溢れ、キャンパスでも男女を問わず人気者の、大学生の従妹が。


 あ……でもいいのか? 俺の予想ではその人物は、おそらくくるりの……。


「くるり」


「……何?」


「行動力に溢れ、キャンパスでも男女を問わず人気者の大学生の従妹がいるんだが、そいつに協力を頼んでいい?」


「……いいんじゃない? てか何でボクに聞くの?」


「…………」


 ……アレぇ?


 もしかして、その従妹がまひるだと気づいてないのかな?


 まぁいい。くるりの言うように、もう時間がないんだ。


 俺はリライを降ろし、携帯電話を取り出した。


「…………」


 プルルル、とコール音を聞きながら、俺はまひるの顔を思い浮かべる。


 ……何て切り出そう?


『もしもし?』


 ……! やべ。


「ハァハァハァ……奥さん……今どんなパンツ履いてんの……?」


 ……て、俺は一体何を言ってるんだろうね? 考えがまとまらなかった!


 くるりとリライが変態を見る目をしてるぅぅ……!


『うふ……今日は蒸し暑かったから……何も履いてないの』


「えぇ──っ! お前いっつもスカートじゃん! ギャンブルが過ぎるぞ! 大丈夫なのかまひる!」


 男か女か分からなかったようなヤツが今では痴女なのか!? 何ということだ!


『嘘に決まってるでしょ……バカじゃないの』


「お、おぉ……お、驚かせるな」


『……いつもスカートなことには気づいてたんだ?』


「……? うん」


『ふぅん……』


「……?」


『……で、何か困ってるの?』


「……何で、そう思うのかな?」


 ……先程どう切り出そうかなんて考えていたくせに、見透かされるのは何だか悔しい俺は、まひるの出した取っ掛かりに手を伸ばす前にそう聞いてみた。


『秋にぃが突発的にバカなこと言い出すのって、いつも本当は言いたくないことを言う前だからさ』


「…………」


『ソレって場を和ませようとしてるのか、自分の罪悪感を紛らわせようとしてるのかな、と』


「……お前すげぇな、天才か」


 こいつは一見がさつそうな印象とは打って変わって、他人の心の機微に敏感なのだ。


 死んでも本人に言うつもりはないが、男だったら女にモテまくりだろうな。いや、実際モテまくりなんだっけか。女の子に告白されたこともあるとか言ってた。


 こいつが聞いてもいないのに誰に告白されたー、誰にデートに誘われたー、やらイチイチ自慢してくるので覚えている。


『まひる天才だもん。で、何?』


「あ、ああ。実は……」






 俺が電話を切って半刻もしない内に、まひるが玄関を開けて入ってきた。


 いつもの赤茶けたツインテールに、個性的なパンキッシュファッション。


 そして、いつも通りのスカート姿で。


「お邪魔します……っておわっ!」


「マヒル~っ!」


 リライが泣きながらまひるにしがみつく。


「ちょっ……リライ……! 何泣いてんの!」


 咄嗟にヨシヨシと泣きつくリライの後頭部を撫でながら、まひるが心配そうな声を出す。


「猫が……赤ちゃんで……大変ですよぉ……」


「うん、全然分からん。いや、猫の赤ちゃん絡みで大変なのは分かったよ」


「さすがだなまひる」


 手で挨拶しながら、俺は早速感嘆の言葉を口にした。


「そしてそこに実際に仔猫が……うん、大体分かった」


「……すまん」


 まひるが理解したことを察した俺は、先に謝る。


「……まひるの友人やら大学の人達を当たって里親を見つけろ、と」


「……話が早くて助かるよ」


「お願いですよ……この子達を助けてほしーですよぉ……」


「……拾っちゃったんだ。ペット禁止なのに」


「……タイムリミットが迫ってたんだ」


 俺は少し俯きながら、苦々しい声を出した。


「……どゆこと?」


 怪訝そうな声を出すまひるに、しがみつくリライの指に力が込められていくのが見えた。


「……蓋がされた段ボールに入れられて、ゴミ捨て場に……ひっく」


「何ソレ信じらんない!!」


 状況を聞いたまひるは即座に激昂した。


「タイムリミットを伸ばすことくらいしかできなかったけど、リライが気づかなかったらもうこの世にいなかったろうな」


「……っ」


 俺の言葉を聞いて泣くリライを、即座に抱き締め返して──


「リライ! お姉ちゃんに任せなさい! 絶対何とかしてあげるから!」


 ──まひるはそう宣言した。


「マヒルぅ……」


「……おぉ、男らしい」


「何か言った?」


「……頼りにしてるぞまひる」


 睨みを効かせるまひるの視線に触れた瞬間、俺は表情をにこやかなモノに早変わりさせた。


「ちょっと。まひるだけに任せるみたいな言い方、やめてよね」


 しかしそうは半田屋が卸さない、とばかりにまひるはこちらをジト、と睨む。


「も、勿論俺達も手伝うさ」


「ホラ、その言い方がもうやばい」


「ふぇ?」


「ま、ひ、る、に! 手伝って欲しいんでしょ。何でまひるがメインで秋にぃがサポートみたいな言い方してんの? まひるに押し付けて後はおまかせってこと!?」


「ち、違うよまひる!」


 自分の無力さを味わったあとだから、できればまひるに任せてしまいたかったのを見透かされていた俺は、慌てて弁解をする。


「大体リライにはお願いされたけど、まだ秋にぃには何にも言われてないんですけど」


 ……が、お代官様の目は厳しい。


「お、お願いします。この猫達を助ける手助けをしてください」


「…………」


 まひるはそっぽを向いたまま唇を尖らせている。


「た、頼むよ……まひるだけが頼りなんだ」


「…………」


 俺が頭を下げても反応がない。チラリと見てみるとまひるは片目だけ開けてこちら見ていた。


「マヒルお願いですよ……わぷっ」


 泣きつくリライの口を手で覆い、『続けろ』と言いたげに再度まひるがこちらを一瞥する。


「……! こんなこと頼めるのお前しかいないんだ! まひる!」


 察した俺は、今一度乞うような声を出した。


「…………」


 見ればまひるの口許は嬉しそうに弛んでいる。


「本当にいつも迷惑ばかりかけてすまない。こんなに可愛くて優しい女の子に助けてもらって、俺は幸せ者だよ」


 俺はなおも情熱的にまひるを称賛する。


「…………」


「今日の服も髪型もすっげー似合ってる。大学でもモテモテなんだろうな。俺も従姉妹じゃなかったら『あ! 妊娠させなきゃ!』って間違いなく思ってる!」


「ぶふっ……!」


 まひるが吹き出す。


「ソレはどうなの……?」


 くるりがボソッと呟く。


 ええいまだまだ!


「超可愛いよまひる! まひるちゃん可愛い!」


「……しょーがねーなぁ」


 そう言ってまひるは、すんげー嬉しそうなニヤニヤ顔で、やれやれと肩をすくませた。


「ありがとうございます!」


 俺はトドメとばかりに頭を下げる。


「ぷはっ……マヒルありがとーですよ!」


「はいはい……手のかかる兄妹なんだから」


 ふぅ、コレで強力な仲間が手に入った……と一息吐く俺の前には、いつの間にかリライが立っていた。


 ジトーっと、何か言いたげな目で。


「…………」


「……何?」


 不思議に思った俺が尋ねるも、リライは何も答えない。なおもジーっと俺を見るだけだ。少し唇が尖っている。


「…………」


「……あ」


「……!」


 俺が声を上げるとリライのアホ毛がぴこっと立つ。『分かったですか』と言いたげに。


「……リライも、可愛いよ」


 そう言って俺はリライの頭に手を置いた。


「……ふんっ」


 リライは少し顔を赤くしながらそっぽを向いた。どうやら正解だったらしい。


 ……てか、コレもう仲直りでいいんじゃないか?


「……てか! あんたリライにそっくりじゃん! 男!?」


「弟です。リトラです」


 目を丸くするまひるに、リトラが挨拶する。 


「え、と……ボクは──」


「ボクの日本でのホームステイ先の久遠くるりさんです。彼女が秋色兄さんと連絡を取ってくれて、ここまで連れてきてくれたんです」


「──そ、そう。くるり、です」


「そうなんだ。あたしまひる。あそこの眼鏡の従妹。よろしくね」


「はい、半田まひるさん……ですよね」


「…………」


 ……まだ、まひるが名字を名乗ってないのに半田(・・)まひるさんって呼んだよな、くるりのヤツ。


 んんんん……! 気になるなぁ……。俺の見立てではまひるがくるりの母親なんだけどなぁぁ……違うのか?


 でも詮索無用と言われちまったしなぁ。そもそも名字もリトラがあらかじめ調べてたら矛盾はない、のか?


「……何? ジロジロ見て。顔に何かついてる?」


 無言のまま注がれる、くるりの視線に気づいたまひるがそんなことを言う。


「あ、ごめんなさい……若いなぁ、って」


「……は?」


 ホラ! ホラぁ! あんな意味深なこと言ってるぅぅ……!!


 もどかしい気持ちを抱えたまま、俺は頭を抱えるのだった。




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