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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ4(上)
136/161

第十一話



 コレは昨夜した会話の記憶。


「実はああいった、自分のことをペラペラ喋る女との会話は、聞くと話すの比率は8:2でいいらしい。相手の言葉の着地を確認したら返事をするだけでいい。しかも基本『分かる』と『マジで?』と『キツいねソレ』やらたまに『大変だったねー』そして『大丈夫?』って言ってりゃ、まずどうにかなる!!」


「ホントかよ!? ちょっと女を舐めすぎじゃない!?」


 俺が拳を握り締めて力説すると、早速くるりが意見してきた。

 

「いや本当なんだって! 女はコロコロ風向きのように、言ってることや主義主張が変わるけど、ソレは心変わりしやすい生態なだけであって、その時は本気だし本心なんだ! そんなん真剣に取り合ってたら脳の血管やられるぞ! だからこっちも『うんうん』ってさも聞いてる風に返事しときゃいーの!」


「ええぇ? そんなこと考えてるの男って!?」


 くるりがぽかんと開いた口を塞げない様子で俺と、一瞬リトラを見てから聞き返してきた。


「ヤツらが求めてるのは男の意志や説教じゃなくて、ただただ『共感』なんだ! でも気を付けろ! あいつら『共感』して欲しがる癖に『同情』されると怒るからな!」


「あんた……どんな女性遍歴送ったのさ……」


 呆れるような、ソレでいてちょっと同情するような視線でくるりが言う。心なしかリライの視線もキツいような……気のせいということにしておこう。


「いや……ソレを知った上でも、俺は女性を尊敬してるし、愛しく思ってるよ?」


「……ふぅん」


 くるりと、あとリライが何か言いたげな目をしていたことには気づいていたが、俺は気づかないふりをして話を進めた。


「そして……彼女の場合は違うだろうが、基本ゴスロリ女は……金を持っている!」


「なんで!?」


「手作りだったり、なんちゃってゴスロリみたいな安っちいモノではなく、ガチゴスロリのブランド品は、ガチで高い! イコール、ゴスロリっ娘は金を持っているの法則だ」


「ゴスロリっ娘じゃなくてそいつらの親がじゃないの?」


「同じことだろ。俺の知り合いのクズは『ゴスロリで依存症のメンヘラ以上の金づるはいない』と言っていたぞ。しかもああいう特殊な趣味はあまり誉めてもらえないから『可愛い』連呼してれば余裕だって! まぁそいつ結局彼女の名前「カネゴン」と間違って呼んで刺されたらしいが」


「じゃあそいつに(なら)ったらボクも刺されるじゃないか! ソレにあの女がバイトクビになって金欠なのはもう分かってるだろ。参考になるの?」


「そこさえ気を付ければ大丈夫! まとめてみよう!」


 俺はそう言って一同の顔を見渡す。


「えー、と、聞き役に回り──」


 くるりが、


「同情はせずに共感し──」


 リトラが、


「可愛いを連呼する──ですよ!」


 そしてリライが、ソレゾレ口に出して纏めた。


「完璧じゃないか!」


「そもそもあんた……誰かに女の落とし方を教授できるほどモテるの?」


「……モテると聞かれれば、モテると答えるが、モテてるかと聞かれれば、モテてないと答える」


 俺はくるりと目を合わせずに、白い壁に視線をやりながら呟く。


「……何ソレ」


「アキーロわモテるですよ。そんでいっつもデレデレと締まりのねー顔してるですよ」


 リライが不機嫌そうな顔で、俺をジッと睨む。


「……そもそも、何を以て『モテる』と定義っつーか、カウントするのかね?」


 ここでの迂闊な発言は妹の不機嫌を加速させかねない、と思った俺はくるりに確認する。


「え? うーん。『相手が自分を異性として意識してるのに気付いた』ら?」


 くるりが腕を組み、首を傾げながら答える。


「ソレでいいのかよ? 告白されたとかじゃなくて?」


「うん……『こいつ俺のこと好きなんじゃないか?』て思ったら……とか?」


「おいおいおい、そんなん含めたら三桁いっちゃうわ俺」


「バカ」


 くるりが平板な声で、容赦なく俺を罵倒する。


 しまった。気を付けていたのに結局リライを怒らせるようなことを、脊髄反射的に口にしてしまった。


「アキーロわムカつくけどモテるですよ。少なくとも三人わ怪しいとリライわ思ってるですよ……」


 もはや不機嫌を通り越して、噛みついてきそうな目でリライが呟く。


 ……ちょっと待て。スルーできない発言が出たぞ。


「り、リライちゃん? さ、三人てだぁれ?」


 機嫌を損ねないように、俺は猫撫で声でリライに聞く。


 ……考えられるのは優乃先輩に、愛理……だよな?


「ゼッテー教えねーですよ!」


 だがリライはぷいっ、とそっぽを向いてしまった。


 ちくしょう。気になるがコレはもう本人の言った通り、絶対教えてくれないな。


「すごいね……そんなにいっぱいの『好き』が、気持ち悪くないんだ」


「……は?」


 リライに気を取られていた俺は、くるりのそんな呟きに思わず聞き返した。


「だって『好き』って、その人のこと何でも知りたがって、その人の心の中にズケズケ入り込もうとすることでしょう? そんなの……気持ち悪いな、ボクは」


「……何言ってんの、お前?」


 イマイチくるりの言っていることが理解できなくて、俺は先程よりは真面目な声で質問した。


「え……だって」


「お前、イケメン好きみたいなこと言ってたじゃん」


 俺はリトラの頭を撫でながら言う。


「ソリャ美しいモノを愛でるのは好きだよ。でもその人の内側にまで入り込もうとは思わないよ。気持ち悪いし」


 くるりは、自分の指が組まれては解かれる様子を見つめながら、ポソっと呟いた。


「……恋愛には興味ない、気持ち悪い。……ううん。他人と必要以上にベタベタすること自体がもう……気持ち悪い」


「…………」


 熱に浮かされていくように呟き続けるくるりの邪魔をしないように、俺は無言で先を促した。


 ……くるりが自分のことを話している。コレは珍しいことなんじゃないか?


「……うんと小さな時、仲のいい男の子がいたんだ。男子も女子も関係なく外で遊ぶような、うんと小さい時」


「…………」


「その男の子はね、クラスのリーダー的な男の子で、いっつも休み時間の度に、ボクを外に誘ってくる……その子を中心に輪ができて、その子が外に出ればみんな出るって感じの、そんな子」


「うん」


「まぁボクは興味なかったから、断って窓から眺めてたんだけど」


「……う、うん」


 ……断るのかよ。らしいっちゃらしいけど。


「ある日、その男の子がいつもボクに声を掛けるのは、彼がボクのことを好きだからだって、他の女の子に言われたんだ」


「うん」


「ボクは……気持ち悪かった……。意味が分からなくて、そう感じてしまった」


「…………」


「……その男の子がどういうつもりで『好き』だったのかは分からない。恋愛感情的な意味で言ったのか、友人として言ったのか。そもそも本人から聞いた話ですらないからね。でもボクは気持ち悪いと思ってしまった。その子と笑って話せなくなってしまった」


「……そうか」


「でも、どんな『好き』だったにせよ、その男の子は……傷ついたと思う。ボクが傷つけた」


「……うん」


『そんなことない』と言おうかと思って俺は踏み止まる。


「後から聞いた話だと、ボクにソレを伝えてきた女の子はその彼のことが好きだったんだって。恨んだよ。『キミが余計なこと言ってこなければ、仲良くしていられたのに』って」


「ソレで、お前はどうしたんだ?」


 俺はそこで初めて、くるりが自分のことを話し始めてから相槌以外の言葉を口にした。


 くるりがこちらを見る。


「……? どうもしないよ」


「何だソリャ。オチてないじゃん」


「……は?」


「お前な、その女の子とその人気者くんが付き合って、お前がその時初めて人気者くんが好きだった自分の気持ちに気づいた、とか、誰かを好きになってしまった結果傷ついたからもう人を好きにならない、とか言ってんなら、分からんでもないけどさ」


「……?」


「自分が誰かを好きになって、傷ついたワケじゃないじゃん」


「……話聞いてた? その彼も女の子も、『好き』とか思って行動してきたおかげで、バラバラになったって言ってんの」


 くるりがハッキリと苛立った顔と声を向けてくるが、ここは譲るワケにはいかない。


「そら仕方ないさぁ。食べることと寝ることと、恋をすることは絶対人間にゃあやめられねぇ」


「……! 話したボクがバカだった!」


「いやいや、待て待て、聞け聞け」


 俺は、会話を放棄しようとそっぽを向くくるりの眼前に手を振って行く手を遮る。


「そん時のお前にゃ気持ち悪いとしか思えなかったかもしれんが、当事者しか分からない痛みとトキメキ? ってか高揚? みたいのがあったんだろソレ。ソレに衝き動かされて行動するのは結構悪くないモンだよ」


「……ボクには……分かんないよ」


 ……よかった。届いた。ちゃんと受け取ろうとしてくれた。


「大体『どういうつもりで好きだったか分からないけど』とか言ってたけど、お前はバリバリそいつを意識しちゃって、どうすりゃいいか分からなくて恥ずかしかっただけだろ! もしくは自分に自信がなかったんだろ! 何か言葉を送るなら『やっちまったなぁ!』が精々だよ!」


「ち、違うよ! 恋愛になんて興味ないモン!」


「ホントにかぁ? 街中でもドラマでもアニメでもゲームでも、仲睦まじいカップルを見て、羨ましいなぁって、コレっっっっっっぽっちも思わなかったのか?」


「…………」


 理由は分からない、だけどコレは言っておかないといけないと何故か思った。たとえコレを言ったことでケンカになったとしても。


「大体、思わないんだったら乙女ゲーとかにハマるワケねーだろ!」


「アレは二次元限定だよ! あんな人間こっちにはいないじゃない!」


「嘘吐けぇ! お前は中二病の延長で『誰かを好きになっても傷つくだけだよ……』なんて悲劇ってるだけだね! そういうことは実際に誰かを好きになって処女喪失してから初めて言いやがれ!」


 俺はいつもリライにやるように、くるりのほっぺたを左右に引っ張り、真っ直ぐ目を見ながらそう言った。


「サイッテー! 童貞に言われたくない!」


 負けじと、くるりが俺の頬を引っ張ってくる。

 

「うるせー! 俺はもう秒読み段階だ! 多分!」


「……バカじゃないの!」


「や、やめるですよ二人とも! リトラ止めるです」


「はい姉さん」


 見かねた二人が間に入ってきたので、俺達は手を離し、お互いに背を向け合い、深呼吸をした。


「……まぁ、要するに何が言いたいのかと言うとだ。自分が体験したワケでもないのに価値を決めてしまうのは勿体ないんじゃないか? ……って、ふふっ……あいつなら、そう言うんだろうな」


「……どいつ?」


 息を切らしながらも、くるりが律儀にツッコんでくれた。


「ふふん。自分で言っても説得力がなさそうな時や、あまりにクサイ台詞を言う時は『……て、あいつなら、そう言うんだろうな』を尻につけると責任を転嫁できる上に『あぁ……この人も今のあたしみたいなことを言って、誰かにそう言われたことがあるのかな』とか勝手に思ってもらえる高等テクだ。真似していいぞ」


「……バカじゃないの」


 結局くるりはそう言ったのだった。


 コレが昨夜した会話の記憶。






「何かぁ、勝手なイメージで見られて傷つくっていうかぁ」


「分かります」


「でもねー、あたしいっつも何かそうやって不思議ちゃんみたいな風に見られるのぉ」


「本当ですか? 辛いですねソレ」


「うん……ソレで寄ってくる男も、何か身体目当てなのばっかで」


「ソレは……大変でしたね。大丈夫ですか?」


「うん、ありがとう。優しいね、くるりくん」


 ……と、まぁ、俺の教えを忠実に守ってるくるりと、隣に座っているくるりに絶賛自分のことをペラペラ話しているイリス。


 ここは電車内だ。俺とリライとリトラは二人が座っている場所から若干離れているが、ヘッドセットを通さないでも会話が聞こえる距離にいる。


 ……てか、イリスの声がデケーんだよ。平日のガラガラな車内じゃなかったら、憚れて出せないくらいの大きくて高い声で喋り続けるイリスの様子から、完璧にくるりに舞い上がっているのが見て取れる。


 今の彼女は、誰がどう見ても目の前の美少年に熱を上げているのが明白である。


 つまり、作戦はほぼ完了しかけているのだ。


 このまま放っておけばイリスは自分の悪癖──即ち、リストカットを打ち明けるであろう。


 もし打ち明けないようなら、こちらからつつくようにくるりに指示を出せばいい。


 そして必殺の『とびっきりの悲しい顔』で涙を浮かべながら、もうこんなことはやめるように、と言えば任務完了だ。


 しかし、チョロいなイリス。こんな簡単にオチる女がいるなんて。チョロ過ぎて若干くるりに妬ける気持ちがないでもないぞ。いや俺の書いたシナリオなんだけどさ。


 ……恋に熱を上げている人間は、傍から見るとこんなにも滑稽なのか。


 ……お前が仕掛けた恋なのにヒドイこと言うなって? 別に優しくなくていいんだよ。命を救うのが目的なんだから。他に何を優先しろっていうんだ。





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