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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ4(上)
135/161

第十話





「あの……コレ、くださいっ!」


 店の壁中に貼られたポスター。棚に陳列された美少年達が描かれたパッケージ。ソレらが放つ独特の空気……アウェイ感と言い換えてもいい。


 ソレに明らかに慣れていない、やや気遅れしつつも、負けないぞ、といった健気さを窺わせる声で少年はそう訴えた。


「……あー……」


 そう訴えられた店員は少年の顔と少年がレジに置いた商品を順番に見比べ、気まずそうに溜息を吐いた。


「えーと、こちらは十八歳以上のお客様限定の商品となっておりますので」


「……え?」


 少年はそこで初めて、自分では自分の求めているモノを手にすることができないのだと知ったかのように不思議な顔をする。不思議な、ソレでいて不安な顔だ。


「だ……駄目? ですか……?」


「うーん……キミ、いくつ?」


「じゅ……十よ……十五、です……」


 少年は十五歳と答えた……がソレはおそらく嘘で彼は実際には十四歳なのだろう……十五と答えればもしかしたら店員さんのお目こぼしをいただけるかもしれない……そう考えて可愛い嘘を吐いたのだろう。


 ──と、見ている者にそう思わせるような声を出し、久遠くるりはなおも潤んだ瞳と、ハの字になった眉で店員さんに訴えかける。


「ご、ごめんね……十八歳未満の人にコレ売っちゃうと、お店が営業できなくなっちゃうから……もう少し大きくなって、その時まだ興味があったらまたきてくださいね……」


 店員さんもホトホト困った顔でそう告げた。勿論言葉の途中で目の前の少年の表情が悲しみに染まっていくので、告げる声もソレに合わせるように段々と弱々しいモノになってしまったが。


「……はい」


 そう言って俯いたまま、誰がどう見ても落ち込んでいるのが分かる様子で少年はトボトボと店を出て行った。


 そう、誰が見てもだ。遠くの物陰からリラトラズと双眼鏡で店内を窺っている俺にすらそう見えた。


 彼……じゃない。彼女の後ろに並んでいた入洲香奈がその姿を目の当たりにしなかったワケがないのだ。


《こちらくるり。ファーストフェイズ、終了》


 俺は耳に付けたヘッドセットに触れ、一瞬マイクのスイッチをオンにし、


「了解。予定通りセカンドフェイズへと移行せよ」


 ソレだけ言うと、すぐにまたマイクをオフにした。


《了解。対象を肉眼で確認。間もなくセカンドフェイズを開始する。オーバー》


「……あいつ、ノリノリだな」


 俺がぼそりと呟くと、


「何か別人みてーですよ。ぷろふぇっしょなるの演技です」


「まさか彼女がこんなパフォーマンスを発揮するとは……やはり秋色兄さんの慧眼は測り知れません」


 ソレゾレが思い思いの感想を口にする。この二人、リライとリトラの付けたヘッドセットのマイクは常時オフなのでくるりにその声が届くことはない。


「俺もここまでとは思ってなかったよ……」


「ちょっと……アキーロに似てるですね、ああいうとこ」


「えぇ? そう?」


「そーですよぉ。アキーロもああいうこと始めるまでなんだかんだ言うのに、始めたらノリノリぢゃねーですか」


「……やるならやらねばってヤツだよ。くるりもきっとそう思ってるんだ。ちゃんとサポートするぞ」


「はいですよっ!」


「はい」


 ソレゾレが元気良く返事したところで、再びくるりの声が聞こえてきた。どうやら予告通りセカンドフェイズ……即ち、入洲香奈へと直接接触を図ったのだろう。


《お姉さんこのゲーム買ったんですか?》


《え……? う、うん》


《コレ、どんなゲームなんですか? ショタラブって何ですか?》


《え、えー、と……》


 逡巡するようなイリスの声が聞こえる。俺の立てた作戦通り、瞳をウルウルさせてリライ直伝の上目遣いビームを放っているのだろう。


 あいつ……難易度高いとか言ってたくせにノリノリじゃないか!


 俺はこの次はどうなると言ったっけな……確か、


 ──そんで恐らく向こうはテンパる。少なくとも『ええ君みたいな純真で何も知らないちっちゃい男の子がグッチョングッチョンにされちゃうゲームよ』とは言えないだろう、と言ったんだ。くるりには決めつけんなって怒られたけどな。


《……可愛い子供が……いっぱい出てくるゲームだよ?》


 よし! いける!


 俺は拳を握り締めた。おそらく、くるりも内心よっしゃと思っているに違いない。いけ!


《子供が……? ソレで、何をするゲームなんですか?》


 ふふふふ、まさかここで『ナニをするゲームよん』とは言えまいイリスうう……!


《あ、一緒に遊んだりして……仲良くするゲームだよ》


 よっしゃよっしゃ。


《一緒に遊んだり仲良くなるゲームなのに……何でボクは買っちゃいけないんでしょう?》


《え》


《何でなんですかお姉さん?》


《そ、ソレは、ホラ……色々と、ね?》


《どうして教えてくれないんですか? どんなゲームなんですか? 見てみたいです。やってみたいです。見せて貸して触らせて》


 本当にそのまま言いやがった! 俺は吹き出しそうになるのを堪えて、聞こえてくる声に集中する。


《うえぇ? ど、どうしてそんなに知りたいのぉ?》


 本当に俺の描いた通りの展開になってきた! そう俺はこう言ったんだ。


 ──そこは持ち前の可愛いさで何とかしろ。何とかして『どうしてショタゲーに興味あるの?』て言葉を引き出せ。


 てな!

 

 そしてくるりはこう言ってきた。

 

 ……引き出せたら?

 

 引き出せたら──


《昔……好きだったオタクのお姉さんが言ってたんです。『くるりくんてショタっ子だよね』って》


 ようし、ちゃんと覚えてるみたいだなくるり!


《く、くるりくんっていうんだ? 可愛い名前だね……そ、そ、その好きだったオタクのお姉さんは教えてくれなかったの?》


《はい。ソレでショタって何なのか知りたくて》


 完璧だ……俺。こんなに予想通りに行くとは。多分くるりも内心俺と同じように驚いているだろうな。


 確かこのあと俺は──


 ──そう言えば彼女は少し警戒心を解くだろう。『好きだったお姉さんと私を重ねてる?』ってな。思わなくても無意識に自分が恋愛対象視されていることにドキっとするはずだ。勿論、お前が彼女のお眼鏡に適えばだが。


 ──難易度ぱねぇ。


 ──んでお眼鏡に適ったとしたら、いくら何でもここで『コレはグチョドロのドギツイエロゲームだよ』とは言わんだろう。


 だから決めつけんなっての!


 いいの! お前は押しまくれ!


 って会話をしたんだった。





《そのゲームやってるとこ見せて下さい!》


《え、えぇ……? 駄目だよぉ。くるりくんが見ちゃいけないゲームなのぉ》


 場所は変わってオープンカフェだ。押しまくるくるりの攻勢に、慌てるイリスはとりあえず周囲への迷惑と視線が耐えられなくなってここに移動してきたのだ。勿論その間にも、くるりの押しまくりは続いている。


 ちなみに俺とリラトラズはイリスの後ろ側の、少し距離を取った席に座っている。俺が煙草吸えないのか、と言ってリライにジトっとした目で睨まれているところだ。


 ……コレはもうもらったな。何故なら困ったような声を出して答えをはぐらかしているイリスだが、最初に会話していた頃に比べると声が少し高く弾んでいる。おまけに少し可愛い子ぶるような喋りになってる。所謂女の声だ。全然嫌がっていない。


 顔もきっと、嬉しそうな表情になっているに違いない。


 つまり、彼女の心は、既にガッチリとくるりに掴まれているのだ。


 彼女が真性のショタコンだったのもあるが、さすが俺、そして何より特筆すべきはくるりの演技力だ。


 まさか、ここまで役に入り込める才能があるとは思っていなかった。


《そのゲームが無理なら他のヤツやってるのを見せて下さい!》


《えぇ……ど、どうしようかなぁ? 部屋、汚いからなぁ?》


 ……おい。綺麗ならいいんかい。いや断る為の口実としては常套句だが。


 ──ふん。時間はたっぷりある。地元も同じ。帰りの電車も同じなんだから。彼女に『あ、そか。もっとソフトなショタゲーを渡せばいいんだ』と思わせることに成功して、彼女の家に入ることができれば第一関門クリアだ。


 ……なんて作戦会議でくるりに言った言葉は、あっさり実現できそうだな。


 ちなみに『他のソフトなヤツ貸してあげるから帰れ』って言われたら? とくるりは聞いてきて、俺は『確かに。多分アレだけのショタマニア。絶対他にも持ってるだろうしな。何より買ったばっかのエロショタゲーやるのにお前が邪魔だからソレは有り得る。だが、そん時は次の日にでも「返しに来ました! コレすっごい面白かったです!」て押し掛けろ。家を突き止めた時点でこっちの勝ちなんだよ』と答えたぞ。


 ……もし秋葉で『今ソフトな表現のヤツ買ってあげるから去れ』って言われたら? とも聞かれた。


 ふっふっふ……ないね。バイトクビになったばかりで、初対面のガキにゲーム買ってあげる金があるワケがない。


 だというのにくるりの前に置いてあるココアだかキャラメルうんたらフラペチーノのは彼女の奢りだ。つまりくるりは既にイリスになけなしの金を叩いてまで一緒にお茶していたいと思われるほどに懐に入り込むことに成功しているのだ!!


 一番気を付けなくてはならないのが、普通に警察呼ばれたり逃げられること。そこが心配だったが……あの様子じゃ大丈夫だろう。


 俺はそう思ってリトラの方を見て、不思議そうな顔をしているその頭を撫でてやった。


「んん……」


 よく分かっていないながらも、顎を撫でられた猫がゴロゴロ鳴くみたいにリトラは気持ちよさそうに唸った。


 ここにくるりがいてこの光景を見てこの声を来ていたら垂涎モノなのだろう。


 やはり、ショタコンを手玉に取るにはショタコンが一番だ。




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