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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ4(上)
131/161

第六話




 ポーン……ポーン……と公園の街灯の柱に向けて蹴られては跳ね返り、跳ね返っては蹴られるゴムボールを、俺達はしばらく目で追っていた。


 そしてその視線を少し上にやると、小さな男の子がその蹴られては跳ね返り、跳ね返っては蹴られるゴムボールに必死に脚を伸ばしていた。小学一年か二年生くらいか?


 ……ま~た公園かよ。


 まぁ子供は公園にいるモノか。最近はどうだか知らんけど。いても大体友達と携帯ゲーム機に興じているイメージだ。


 もうお母さんの『ゲームばっかりしてないで外で遊びなさい』の時代じゃないんだなぁ。外でゲームできちゃうんだから。


 そしてそのすぐ近くには公園の出入口。俺達が今立っている、車道に面した出入口だ。


 自転車の乗り入れを防ぐ為なのかボールが出ていかない為なのか知らんが、引っ張り出せる埋め込み式の杭が一本あるだけだ。まるで飛び出せ、轢かれろ、と言わんばかりである。


 リトラが説明するまでもなく、そのままにしておけばあの子供はボールを追いかけ、飛び出し、車に接触してしまうのであろうことは簡単に想像がつく。


「壁打ちなら公衆トイレの壁があるのに、何で柱でやるかな?」


 くるりが呆れたような声を出す。


「子供ってなぁ他人から見ればどう見ても間抜けなことをしているのに、ソレが間抜けだと気づけなかったりすることもあるのさ。でもソレは子供が悪いんじゃなくて、ソレを教えられなかった大人に責任がある」


「……ふぅん」


「ソレに男の子ってのは敢えてリスキーなことをしてスリルを楽しんじまう悪い癖があるのだ。アレだ。猫がドアを閉める時に『何でわざわざそのタイミング!?』って感じにするりと身体を滑らせてくるのと同じさ」


「確かにニャーわ、ドア閉めるとするりと行くですね。そのあとで『入れてくれ~』ってカリカリニャーニャーするですよ」


 ……うん。分かりやすいな。要するにあの子供を救うには、あそこでの危険なボール蹴りをやめさせればいいのだ。


「だよな? リトラ?」


「はい。ソレが一番即効性があり、かつ効率的かと」


「……でも、助けるのは自殺する人間じゃなくてもいいのか?」


 ふと疑問に思った俺はリトラに尋ねてみる。


「はい。一応実績になります。特にまだ虫や植物や動物などの、小さな命も殺めていない存在の方が評価は高いです」


「そうなのか?」


「はい。先程まだ三回成功しただけと言ってましたがそこが秋色兄さんの評価の高さにも繋がっているんです。あなたは他の命を奪ってしまう対象を救ったことにより、間接的にその者に殺される予定だった命までも──」


「分かった。もう充分だリトラ」


 俺はリトラの言葉を遮った。


 聞きたくなかったし、考えたくなかったのだ。まひるや、愛理が誰かを殺すなんて話を。もう済んだ話を掘り返したくなかった。


「──はい」


 リトラはソレ以上話すことなく、頷いてくれた。


「……そーだったんですねぇ」


 リライが少し驚いた声を出す。にゃろうめ、知らなかったのか。


 ……まぁいい。今はもう起こり得ない話なんかより、今どうするかだ。目の前の命を救うことに集中しなくては。 


 しかし……。


「……リトラ」


「はい」


「浄化は、くるりの手で行わなきゃ駄目なのか?」


「はい。少なくとも、決め手はくるりさんが打つ必要があります」


「……そうか」


 まぁ、ソリャそうだよな。いくら俺が師匠で教える立場であっても、俺が浄化をして教わる立場のくるりの手柄になるワケがない。




 リライ、リトラを交えて飛び出しに注意しつつ、子供と一緒にボール遊びをする。

 ↓

 くるりもおいでよ!

 ↓

 くるりヤレヤレ言いながらも参加。

 ↓

 皆でわいわいきゃっきゃっ楽しく遊ぶ。

 ↓

 子供、心を開く。信頼ゲットだぜ!

 ↓

 彼のやっているボール遊びは危ないこと、どうして危ないのかまで、しっかりと説明する。

 ↓

 任務完了!




 ……な流れを既に頭の中に描いていた俺は溜め息を吐き、くるりを見る。


 ……思った以上にポンコツだったこの生意気、キョドり、中二病、とコミュニケーション阻害三大要素を持ち合わせたボクっ娘に、先程思い描いた流れを実践できるのだろうか? ソレも独力で。


「くるり」


「……何?」


 何を警戒してるんだか知らんが、何故かくるりは眉根を寄せる。


「お前、子供好き?」


「……嫌い」


 ……だろーよ。


「……ふむ。リライにリトラ、ちょっと待ってろ。もしあのボールがこっち跳んできたら、たまたま通りかかったフリして蹴り返したれ」


「はい、蹴り返します」


「返すですよ! て、どこ行くですかアキーロ?」


「仕込みだ。すぐ戻るよ」


「……へ? 何? ちょ……触らないでくれる!?」


 くるりの抗議の声を無視して、俺は彼女の手を引いて歩き出した。






「ふへ!? アキーロ誰ですかコレ?」


 数分後。戻ってきた俺とくるりを交互に見たリライが、素っ頓狂な声を上げる。


「……ボクだよ」


 何だか落ち着かない様子のくるりがボソリと返す。


「髪が伸びてるですよ?」


「ウィッグだよ」


「うぃっぐ? あと、おっぱいもおーきくなってるですよ?」


「色々詰めた……てか詰めさせられた……セクハラだぁ……」


 力なく呻くくるり。俺が脱がせて詰めたワケじゃないぞ。


「スカートですよ」


「履かされた……セクハラだぁ……」


 だから俺は指示しただけで、脱がせて履かせたワケじゃないぞ。


「どーゆーことですよ?」


「……おっさんに聞いて」


 そう言ってくるりは、頭痛でも起こしたかのように頭に手を添え、溜め息を吐いた。


「どーゆーことですよアキーロ?」


「うむ。仕事を円滑に進める為の仕込みだ。リライ後ろ向け」


「むー?」


 俺はリライの背負っているリュックからスケッチブックと色鉛筆を取り出した。リライはお散歩に出掛けてはコレで色んな景色や猫を描いてくるんだ。


「うむ。『母性』を前面に押し出したコーディネートだ」


「ぼせー?」


「そう、幼稚園児が『先生と結婚するー』と言うように! 子供とはまんま母性に惹かれるモノなのだ! 真実はいつも一つ! バーロー!」


 俺はスケッチブックをチビ共に見えるようにかざしてみせた。そこには黒髪ボインの女の子にメロメロになってる少年の絵が描かれている。


 勿論最初くるりは難色を示した。だが『レイプ魔かもしれないリストラマンとこ行くか?』と言ったら即効で着替えたのだ。


「と、まぁこんな具合に少年の心を鷲掴みだッ!」


「とりあえずおじさんの絵心の無さに驚く時間が欲しい」


 若干引き気味のくるり。誰の為にやってると思ってんだ! お前を鼓舞する為だと何故分からん!? コレだから子供は!


「じゃあお前描いてみろよ!」


「リライも描くですよ~。リトラも描くですよ!」


「はい」


「みんなテンション高いなぁ……」


 どういうワケだか順番にお絵描きをすることになってしまったが、そこでまた新事実が発覚した。くるりはめちゃめちゃ絵が上手かったのだ。


「でも、コレお前だよな? ちょっと美化し過ぎじゃねーか? スタイル抜群過ぎだし、まつ毛超なげーし、眼ぇ輝いてるし」


「絵というのは、主張したい特徴を多少過剰に演出するモノなのだよ」


 つまりコレはやせっぽちの身体と目付きが悪いことをコンプレックスに思っていて、こうなりたいという変身願望の表れか? まぁでも、確かに描かれた女性は綺麗だし、描かれ方も上手い。


「ふふん。またおっさんとの才能の差を見せつけてしまったね」


 などとまたもドヤ顔になるくるり。『さっきまで泣いてたクセによぉ。コミュニケーション能力は俺の圧勝だけどな、ああ? くるりちゃんよぉ』と言ってやりたかったがここでこいつのモチベーションを下げるのは、愚策に他ならないので俺は黙って微笑むことにした。


「……何?」


「いや別に。絵上手いなお前」


「まぁ漫画家になれる程じゃないけど、そこそこ自信はあるね」


「……漫画家になりたかったのか?」


「……まさか。そんな無謀なこと」


 そう言ってそっぽを向いてしまうくるり。片目が隠れてるのでその表情は窺えなかった。


「アキーロ自分も髪長くしておっぱいおーきくしたらママみてーにボセー的になるですかね?」


 リライが俺のシャツをくいくい引っ張ってくる。そう言えば何かナイスバディになる野望があんだっけか。


「ん? んん……そうだなぁ。どうだろうなぁ」


「どっちですかー!」


「な、なるなる多分。大きくなってのお楽しみだよ」


「がんばるですよ!」


 さすがに、もう充分母性的だよと言うのは恥ずかしい俺だった。


「で、くるりさんの格好と作戦がどう関係するんですか?」


「お、おう……」


 無表情のまま割り込んできたリトラの質問のおかげで、俺は脱線しつつあった頭のスイッチを切り替えることができた。


「ソレなんだが──」


 そう言って俺はくるりの両肩に手を置き、その瞳をじっと見つめた。


「な、何……?」


「──くるり。お前は美形だ」


「はい……!?」


「主人公である久遠くるりは、少女でありながら同年代の女の子達が興味を持つようなことにあまり心惹かれず、むしろゲームや絵を描くことなどに没頭する生き方をしていた。だが彼女の周囲の人間はいつも思っていた。本人は興味がないだろうが、彼女が着飾ればとても美しく可愛らしい、すれ違えば振り返らずにはいられない女性になるであろう、と」


「な、何か始まった……」


「両親の長期旅行? 家のリフォーム? 理由は何でもいい。くるりはひょんなことから短期間、親戚の戸山家に預けられることとなった」


「……ふむ」


「住み慣れない新しい土地や人々に、不安やめんどくささや期待を胸に過ごすくるりだったが、ある時、くるりはいつも公園で一人ボールを蹴る少年を見掛ける。声を掛けても無視されてしまったが、戸山家にて従兄の秋色に聞いたところ、彼は最近母親を亡くしたばかりなのだという。父親の仕事中は祖母が来てくれているが、祖母の目を盗んでは抜け出して、公園で球を蹴っているらしい」


「……何で?」


「母親は生前、いつも夕暮れ時まであの公園で友達と遊ぶ彼を迎えにきていたんだそうだ。夕飯だと言って、二人で手を繋いで帰るのが彼の日常だったらしい」


「可哀想ですよ……」


 リライが涙ぐんでいる。


「しかし母親はもういない。友達も引っ越してしまった。彼は今日も一人公園にいる。友達が遊びにきてくれること、そして母親が迎えにきてくれることを信じて……」


「てか友達がいても、ボール蹴ってたら危なくない?」


「友達がいた時は違う遊びをしてたんですー。友達がいなくなってブランコや砂遊びはやり尽くして今ボールなんですー」


 くるりのツッコみに対して、俺は瞬時にバリアを張った。


「勿論見掛けた人達は、くるりと同じように声を掛けました。ですが彼は反応してくれないそうです。夜になって家に連れ帰る時も大変らしいです」


「友達一人しかいなかったの?」


「意外と近い、仲いい、同い年の条件が揃う友達ってな少ないモンさ。でも学校でも塞ぎがちで孤立しつつあるんじゃないかな、彼は」


「可哀想ですよぉ……クルリ何とかしてあげて下さいですよ!」


「えぇ……?」


「どうにかしたいと願うくるりに、秋色が力を貸そうと微笑む。そう、彼はかつてパリコレ女優からも引っ張りだこの、『メイクアップマジシャン』の異名を持つ天才メイクアップアーティストだったのだ!」


「スゲーですよアキーロ!」


「何でそのマジシャンが、こんな東洋の島国に?」


「そこはホラ、アレだ。かつて恋人だった病弱なトップモデルがステージの上で死んだのがトラウマだとかで隠居してたんだよ。こっちはあまり掘り下げないでよろしい」


「はぁ」


「そんなワケで少年を助けたいと言うくるりの瞳に、かつての恋人と同じ情熱を見た秋色は、彼女に力を貸すことに! ソレ魔法のファンデーションに魔法のウィッグに魔法の……あの、アレだ、偽おっぱいだー!」


「テキトーか!」


「ババーン! そこにいたのは元の素材のよさも相まって、見る者を魅了せずにはいられない完璧な美女でした。一人の少年を救う為、今まで自分の女らしさや美しさと向き合わなかった少女の戦いが、今始まる!」


「おぉ……」


「『めたもるふぉ~ぜ! くるりちゃん』でどうだろう」


「タイトルの爆死臭がやばい」


「じゃあ『くるりん☆レボリューション』で」


「パクりはやめろっ!」


 俺は焦りながらツッコむくるりの、その眼前に指を突き出す。アルルだったらガブっときそうで怖いが。


「その今まで自分の女らしさや美しさと向き合わなかった少女であり、マジシャンのスーパーメイクアップイリュージョンで完璧美女に変身したのが、今のお前だ」


「お、大袈裟すぎやしないかい? 大体その子が求めてるのはお母さんであって美女ってワケじゃ──」


「大袈裟なモンか。お前は可愛い。ハッキリ言って可愛い」


 俺はズバリぶちこんだ。恥ずかしかったり素直になれない変化球ばっかりの思春期には、ストレートが一番効果的だ。


「──な」


「自信を持てくるり。お前は可愛い。お前に話し掛けられればソレだけであの子もレッドゾーンだ」


「い」


「お前がこういう女の子な部分を前面に押し出すのはあまり好きじゃないのは何となく分かってる。でもお前は可愛いんだ! その可愛さで救える人がいるのなら、ここは一つ主義を曲げてはくれまいか?」


 俺は恭しく頭を下げる。


「…………」


「……くるり?」


 くるりが無言なので、もしかして怒ったのかと俺は視線を上げた。


「……とに」


「ん?」


「……本当に、可愛い?」


 見ればくるりは湯気が出んばかりに顔を真っ赤にしていた。汗も凄い。


 効果は抜群だ! コレはチャンス!


「勿論だ! くるりは可愛いよ。なぁ、二人共」


「かわいーですよ!」


「可愛いです」


「可愛いよくるりちゃん! くるりちゃん可愛い!」


「わ、わ、分かったよ! やればいーんでしょ! やるよ!」


 くるりが観念したと声を上げる。さすがにここで『お前がお願いしてきたお前がやって当然の仕事だろうが』と言う程、俺はバカでも野暮でもなかった。


 何かを成し遂げるのにはどうしたってモチベーションが必要なのだ。人に何かを教える、実践させるということはモチベーションを上げてやる、ということがかなり重要な部分を占めている。ソレが上手い人を名監督というのかもしれないな。


「……アキーロ、アキーロ」


 見下ろすと、リライが何か言いたげに俺のシャツの裾を引っ張っていた。


「ん?」


「…………」


 ……あぁ、なるほど。何か言いたげというか言って欲しげというか……そういうことか。


「リライも可愛いよ」


 俺はそう言っていつもの様にリライと、リトラの頭に手を置いた。


「……ぬふふ」


 いつもと違って、少し恥ずかしそうにリライは笑った。






「登場シーンは拍手がいいなぁ。ソレであのガキんちょが振り向いたら優しい声と笑みで言うんだ。『ボール蹴るの、すごい上手だね』ってな! コレでマジ完璧。イチコロだよ!」


「何その自信。あと何か凄い個人的な思い入れを感じるんだけど」


「アキーロとユノの出会い方ですよ。アキーロが女にフラれてソーヂと喧嘩して仲直りして泣いてたらユノがそう言ってきたですよ」


 リライがペロっと一口で説明する。いや間違っちゃいないけど簡単に纏めてくれるなぁ、おい。コレじゃ聞いてる方はワケ分からんだろ。


「……ふぅん、そなんだ。馴れ初めってヤツ?」


 ……アレ? 意外にもくるりは理解できているのかのような返事をした。アレだけ聞いたことのない固有名詞を並べられたのにソレに対しての質問も苦情もない。普通『いやユノって誰さ? ソーヂ?』ってこないか? 興味がないだけかもしれんが。


「あ、でもでも、アキーロの時わ『ボール蹴り』ぢゃなくて『歌』だったですよ。アキーロわ歌がうめーです」


「……知ってる」


「何で知ってんだよ?」


 俺はこいつの前で歌なぞ歌っとらんぞ。


「マ──母親から聞いた」


「ふへ?」


「ほへ?」


 俺とリライは同時に首を傾げた。


 同時に、くるりがしまったという顔をする。


 つまり、くるりの母親は俺の歌を聞いたことがある人物であるということか?


「くるりさん」


「あ──いや、違う。おっさんがお風呂入ってる時に歌が聞こえてきたから! ソレで『ゲームも料理も下手くそのクセに歌だけは聞けるな』と思ったんだよ!」


 リトラにツッコまれて、くるりは何かを思い出したかのように捲し立てた。


 多分、禁則事項だったのだろう。クソ、気になるが聞くワケにいかんか。答えないだろうし。


 先程くるりはしまったという顔をすると同時に、少し不愉快そうな、あまりこの話題に触れて欲しくなさそうな表情をしていた。どうやら彼女にとって家族の話はあまり愉快な話題ではないようだ。


 とはいえ気になるな……


 えー……誰だ? 俺の歌を聞いたことがある女性。知り合いか? ソレともライブか何かに居合わせただけの人か? いやでもわざわざ子供に俺の話をするくらいだからやっぱりソレなりに関わりのある人?


 ソレか、もしかしてコレから俺、有名人になっちゃったりするんだろうか?


「よ、よし! ソレじゃあ行ってくる!」


 最後のマインドセットとばかりに深呼吸したくるりが、己を奮い立たせようと声を出す。


「よし行ってこい! 骨抜きにしたれ」


「メロメロにするですよ!」


「メロメロです」


 ソレゾレのエールを背中に受けたくるりが振り返り、俺を見た。


「……えと」


「……? どうした?」


「……酔っぱらいのおっさんにはビビってた癖に、相手によって態度変えやがって、とか……思う?」


「何言ってんだ。相手によって態度変えるのなんて当たり前だろ」


「え……」


「相手が誰だろうが態度や口調を変える気はない、なんてヤツは漫画やアニメや物語の主人公だけだよ。もしくは自分に酔ってるだけの傲慢な子供だけだ」


「そうなの?」


「そうだよ。相手と打ち解けよう、物事を円滑に進めよう、て気遣いだろソレも。ソレをしなくてもいいのは絶対的権力者か、他人に合わせることのできない……空気の読めない社会不適合者だよ」


「…………」


「媚びへつらえって言ってんじゃないぞ。最低限の気遣いを持てって話な」


「……分かった。行ってくるね」


「おう」


 改めて前を向いたくるりが目標に向けて歩き出す。


「…………」


 ……母親、か。


 正直、勘の域を出ないのだが、一人こいつに似た女性を俺は知っている。


 ボーイッシュで、目付き悪くて、女としての自分にあまり自信なくて、でも根はしっかり女の子なヤツ。可愛いという言葉に弱いヤツを。


 でもまぁ──


「──まさか、な」





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