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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ3.5
118/161

如月京一郎は変態である⑦




「俺は戸山秋色。十七歳。ゲス魔王などと呼ばれてはいるが、その実態は天使の如く穢れを知らぬピュアボーイだ」


「どうしたの急にwww」


「いや、ごめん。何か急にもう一人の俺に見られてるような気がして」


「いつから二重人格キャラにwww」


 まるで語り手のポジションを奪われてしまうような、謎の感覚を覚えたぞ。


「で、何だって?」


 俺は気を取り直し、まるで鬼の首でも獲ったかのように傲慢不遜な態度で、教室の床に土下座しているケーツーを見下ろしながら言った。


「自分の過ちに気づくのが遅すぎた、この哀れな虫けらにどうか慈悲を……」


「えぇっ!? どうしてまた急にやる気になっちゃったのぉ!?『大好きだよ。でも僕は彼女に想いを伝えない』な~んて言ってらしたのに~?」


「自分なんかに愛想を尽かさず、声を掛け続けてくれた彼女に報いたいのです」


「へー! ビックリ! じゃあアレか? 彼女は僕のことが好きに違いないってか? 随分と自信がおありですなぁ~?」


「倍返しは甘んじて受けます」


「今更行動して何とかなると? やめて! クール眼鏡の行動力で、兎川副会長がトゥンク……ってきちゃったらケーツーの精神まで燃え尽きちゃう! お願い、死なないでケーツー! あんたが今ここで倒れたら、兎川さんや俺との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、クール眼鏡に勝てるんだから! 次回『ケーツー死す』決闘スタンバイ!」


「秋……ソレくらいにしとけ」


「小物くせーぞ。そもそも約束とかしてねーし」


 俺の物言いに宗二はヤレヤレといった困った顔で、賢は若干楽しそうにニヤニヤしながら言ってきた。


「だぁってこいつアレっスよ!? 俺がドレだけ心のまま魂の叫びを浴びせても、闘牛士の様にヒラリとかわしてくれやがったんスよ!? あーお兄ちゃん傷ついちゃったな~。心の治療費億千万だな~♪」


「で、どうして急に考えを改める気になったワケ? よかったらその辺聞かせて欲しいんだけど」


「うんうん」


 あ、俺を無視して進めるなよ、と言う間もなく宗二がケーツーに質問してしまう。


「実は昨夜、こんなことがあったんだ。ほわんほわんほわ~ん」


「いや回想導入のSEとかいらねぇから!」






 日曜の夜、ケーツーは何気なしに部屋のカーテンを開けたらしい。


 すると、そこから見える景色の中に兎川さんがいたそうな。


 ケーツーに気づいた兎川さんは自室の窓を開け、窓越しの会話が始まったのだとか。


「お前ら家が隣同士なだけじゃ飽き足らず、部屋も向い同士だったの?」


「うんwww言わなかったっけ? ベランダ伝いで忍び込もうとしたってwww」


 ……あぁ、そういやそんなこと言ってたか。そういうことか。


「幼馴染みの女子と窓越しの会話とかソレだけでムカつきが止まらねーけど続けろ」


「はいwww」






「……ごめんなさい」


 窓越しの会話は兎川さんのそんな言葉から始まったらしい。


「長谷川くんが無茶な行動に出たの……あたしが未練たらしかったせいだ……」


「…………」


「長谷川くんにも京ちゃんにも……色んな人に迷惑を掛けちゃった。こんなんで生徒会長になんてなっちゃっていいのかな……?」


「……僕は気にしてないよ」


 ケーツーはいつものニコニコでそう言ったらしい。うん、目に浮かぶ。


「…………」


「…………」


「少なくとも僕が副会長として……支えれてたかは分からないけど、支えたいと思ってた生徒会長は尊敬できる素晴らしい人であり、自慢の幼馴染みだったよ」


「……え」


「僕が高校で生徒会に入らなかったのは、君が嫌になったからじゃない。ソレだけは……絶対にない」


 ……アレ? 誰だこいつ? このちょっとカッコいいこと言ってるのは、俺の知っている如月京一郎その人?


「…………」


「…………」


「初めてだね……そんなこと言ってくれたの」


「そうだっけ?」


「うん……ありがとう」


 兎川さんは涙ぐみながらそう言ったらしい。


「来年から受験で忙しくなる……だから、コレが京ちゃんと一緒にいられる最後のチャンスだと思ったの」


「最後って……一緒だったじゃないか。そりゃ昔みたいにいつでもってワケにはいかなくなったけど、カーテンを開ければ顔が見れる。窓を開ければ声が聞けるじゃないか。僕はソレで──」


「ううん……あたし、県外の大学受けるつもりだから。この家、出るんだ」


「──っ!?」


「何だかんだで京ちゃんに甘えてたのかな? 窓を開けて、話を聞いてもらって、いざとなったら勉強教えてくれて……ソレで、本当に弱った時は……さっきみたいに励ましてくれる。あたし多分心のどこかでソレを分かってたの」


「……いいでしょ。ソレくらい」


「ううん……駄目だよね。こんなんじゃ」


「…………」


「あたし、コレからは頑張るから。生徒会長になって、みんなのお手本になって、勉強も、もっと、もっと頑張るから」


「…………」


「…………」


「…………」


「ねぇ……京ちゃん」


「……何?」


「……何でもない。おやすみなさい」


 そう言って彼女は窓を閉め、カーテンを閉じた。


 二人の間に隔たりを作った。






「──といったことがありまして」


「……ソレでそこで初めて彼女の弱いところを見て、お前は、彼女は自分や周囲の思っていたような完璧超人ではない、と気づいたワケだ」


「その通りにございます」


「そんで彼女にも弱ってしまう時があって、誰かにもたれ掛かりたくなる時がある……誰かに支えて欲しくなる時があるのだ、と知ったお前は……今まで彼女は完璧で、支えてくれる人なんて欲してねーんだよと勝手に勘違いしてたお前は! そこで初めて焦り始めたんだな!?」


「その通りにございます!」


「そこでやべ、このままじゃマジであのクール眼鏡に取られちまうと思った! つまり俺の魂の忠告を! 叫びを! お前は何の根拠もねぇ思い込みでスルーしてたってワケだなオラぁああ!?」


「その通りにございますうぅ! 平に、平にぃぃぃぃ!」


 ガンガンとケーツーが床に頭突きをする。


「極めつけに彼女が支えを欲しているのなら、その時、そこには自分がいたいとか、欲を出してきたワケだなサラマンダぁぁぁあああっ!!」


「一切の相違なくその通りにございましゅうぅぅぅ!!」


「はぁっ……はぁっ……」


「ふぅ……ふぅ……」


「で、どうして兎川さんは支えを欲してる、とか思ったんだ? 彼女がハッキリそう言ったワケでもないし、またお前の思い込みかもよ? そう思った根拠は?」


「……女の子が『何でもない』って言ってて、何でもなかった試しがないので」


 ……おぉ、意外と分かってんじゃねーか。ギャルゲーでしか知らねーくせに。だがここで甘い顔をするワケにもいかん。


「十中八九ないんじゃなかったっけー?」


「例えそうだとしても、残された一二に賭けてみたいのです」


「……ふむぅ」


「誠心誠意頑張ります! オナ禁願掛けもします!」


「やめろ」


 ソレよくやるけど、きっと神様は受け付けてねーぞ。


 ……てか、願掛け自体が自己満足みたいなモンだし。


 自分からやっといて思い通りにいかないと「どうしてさ」みたいな考え方が俺は気に入らない。


 まぁ自分はその辺完璧か、と言われたらちと苦しいので言わないけど。


「お望みとあらばこの場で色々漏らしてその姿を写真に残してもらっても構いません!」


「てめーは家康か! お前が漏らしたとこ見て誰が得すんだよ!」


「ソレを盾に脅して、色々いやらしい要求をしてもいいんだよ!?」


「女の子ならともかく男友達にそんなことするか気持ち悪い! いや女の子でもキツいけど!」


「いやぁwww女の子相手にアッキーがそんなことする度胸はないと思うなぁwww」


 いらっ、ときたが、見れば宗二も賢も腕組みしながらウンウンと頷いている。


「だから代わりに僕を好きにしてもいいですからぁ!」


「やめろアホ! 分かったよ!」


「分かっていただけましたか! お許しいただけましたか!」


「あぁ……でもいいか。コレだけは言わせろ。現実世界での恋愛はギャルゲーやアニメとは全くの別物だ。自分から何か行動を起こさないと本当にビックリするくらいになんっっっにも起こらないんだよ」


「はい」


「何もしてないのに、何故か自分に好意を寄せる異性なんて有り得ないからな?」


 自分を棚に上げまくって、俺は上から言ってやった。


 お前はどうなんだよって罵りは、後ほどまとめて承ることにした。まずはこいつの恋を決着させるのを優先させる。


「世の中に腐る程いるカップルはみんな行動を起こした勇者なんだ。行動を起こしたけどフラれて独りのヤツと何もしないで独りのヤツとじゃ勇者と腐った死体くらい違うからな?」


「……僕は勇者になりたいです」


「……分かった。例え討ち死にしても骨は拾ってやる。誰が何と言おうと俺達だけはお前を勇敢な変態だと語り継いでやる」


「ありがとう。僕は戦うよ」


「うむ。よく言った」


「僕は……生徒会選挙に出馬する……!」


『おぉ~~♪』


「……で、お願いがあるんだけどwww」


「……?」


 くるりとこちらを振り返りながらケーツーはそんなことを言ったのだが、この時の俺にはよく意味が分からなかった。


「副会長にwww僕はなるっ!! ドン!!」


 このお願いとやらのせいで、一生モンの恥をかくことになるとは、この時の俺はまだ知らなかった。


 出来れば忘れたい。この記憶を知らないでいられたら未来の俺はどんなに幸せだろうか、と思うほどだ。




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