如月京一郎は変態である⑥
「……ふぅ」
紫煙を勢いよく吐き出し、煙草を携帯灰皿に放り込む。
「……ふむ」
そろそろ時間か、目的地に向かうとしよう。
俺の名は戸山秋色。齢二十五にして未だに穢れを知らぬ童貞紳士だ。
今、俺は街灯照らす夜道を歩いている。高校時代の級友達から、久しぶりに集まってメシでも食べようとお誘いを受けたからだ。
井上宗二に石田賢、そして如月京一郎。
ケーツーに会うのはいつぶりだろう? 俺の記憶では高校を卒業して以来会ってないはずだが……アテにならない。
「…………」
俺の過ごした高校生活の記憶では、賢とケーツーは面識がない。ソレどころか俺の知っている高校生活に賢の姿はない。
だが、この間会った際にあいつの口からはケーツーの名前が出た。その理由についても分かっている。
「……ふぅ」
一瞬、家で留守番をしている妹のことが頭に浮かぶ。留守番というか、昼寝している間に置いてきてしまったのだが。
俺が友達とご飯食べてくる、なんて言ったら絶対についてきたがるだろうからな。
多分起きて俺の姿がないことに気づいたら泣いてしまうだろう。少し前に起こったショッキングなできごと以来、元来より更に泣き虫で甘えん坊になってしまったのだ。
……ちゃんとお土産買って行くからな。あと、まぁワガママの一つも聞いてやろう。
……で、何だっけ?
あぁ、今日久しぶりに会うケーツーの話だ。
如月京一郎は変態である。しかしソレと同時に秀才である。
そういえば後から聞いた話だと、ケーツーは俺達の高校の生徒会長と幼馴染みだったんだよな。
その生徒会長がまだ副会長だった時に、最後の選挙の際に、ケーツーを熱心に生徒会に誘っていたんだっけか。
でも結局ケーツーはなんやかんやと理屈を捏ねて立候補はしなかったんだよな。宗二もケーツーが嫌なら無理強いはできないとか言って、成り行きを見守るしかできないでいたな。
勿論俺も何もしなかった、と思う。
俺は優乃先輩を失ってから、微妙に記憶に欠落があるんだ。特に中学後半から高校卒業まで。全部忘れてるワケでもないが。
しかし、今の俺の脳裏には、一つの可能性が浮かんでる。
俺にはここ最近、ある奇跡が舞い降りたので、大切な人を取り戻すことができたんだ。
その結果、彼女を失わなかった俺は、今の俺が歩んできたのより充実、奔放な学生時代を送ったのだと言われたことがある。
……もしかしたら、その充実秋色は、ケーツーに協力をしたのではないだろうか?
倉廩満ちて則ち礼節を知る──などとまで言うつもりはないが、あの時の俺に比べて心が満たされていた秋色は、周囲を気遣う心を備えていたのではないだろうか?
そして賢もいる。調子こいた俺と賢がそこにいて、面白半分にしろ真剣にしろ、おせっかいを焼いたのではないだろうか?
そんな可能性だ。




