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リライトトライ  作者: アンチリア・充
リライトトライ3.5
116/161

如月京一郎は変態である⑤




 翌日の昼休みのことだった。俺と賢と宗二は昼食を摂ろうと、弁当片手に廊下を移動していたのだ。


「アレは……ケーツーと、昨日の……長谷川だっけ?」


 賢の言葉通り、俺達の数メートル先には、昨日のクールでホットな、生徒会眼鏡の長谷川とかいうヤツが、おそらく食堂に向かっている途中であったろうケーツーを呼び止めたのか、何やら話しているのが見えた。


「やはり俺の予想通り、ケーツーに釘を刺しにきたか。くくく……人を掌で踊らせるのは楽しいのぉぉ……!」


「さすがゲス魔王……悪いヤツよのう」


「……何の話?」


 俺と賢がニヤニヤしていると、宗二が不思議そうな声を出す。やばい。こいつがいるのを忘れていた。


「いや、実は昨日、秋がどうしても納得いかねーって二人で見学ですって言って、生徒会に乗り込んで副会長の話を聞きに行ったのよ」


 俺がどう誤魔化すか考えていると、賢が一口でペラっと宗二に説明してしまう。


「……あ~き~。人のプライバシーに立ち入るのはよくないと思うぞ」


 やはり宗二が困ったような顔で、俺を(たしな)める。


「別にケーツーは関係ないよ。俺がどうしても気になったから行動したワケで……」


「ソレで他人にかき回されたくないケーツーが、今現在迷惑してるじゃんか」


「わ、分かってるようるさいな。大体いっつも友達の色恋沙汰になった時に、一番テンション上げるのは宗二だろ? 何で今回に限って──」


「俺も最初はそのつもりだったけど、アレだけ言っても頑なだったケーツーを見て、コレはやめた方がいいと思ったんだよ」


「でも、もうやっちゃったモンはしょうがなくね? ソレより俺はどんな会話をしているか気になるぞ」


 賢が共犯のクセにヌケヌケと言う。だが確かに気になるな。


「ま、確かに。今更うだうだ言ってもしょうがないか」


「俺も一度だけって決めたから、コレでもケーツーが動こうとしないなら諦めるよ」


 俺の言葉に宗二は頷くと、


「で、アレはどういう状況なの? 昨日何があったの?」


 目を輝かせながら食いついてきた。やっぱり気になっていたんだろうな。


「簡単に言うと、俺達が兎川さんに、ケーツーとの思い出話と、ケーツーをどう思ってるか聞いてたのね」


「うん」


「そんで彼女はケーツーが今何を思っているのか聞きたいのと、昔みたいにお話したいからあいつを生徒会に誘ってるって話になったのね」


「うん」


「そこであの眼鏡が話に割って入った。ヤツは兎川さんに気があって、副会長としても、男としても君を支えるのは僕だ、って感じ」


「おお!」


 宗二が盛り上がってきた。お前興味津々じゃねーか!


「そんでケーツーに『今更来てもお前の居場所なんかない』って伝えてくれとか言ってきたら、秋が言ったワケだ」


「なんて?」


「キザったらしく、『自分で言え。決めるのも、行動するのも、本人……だぜ?』って」


「うわ、秋っぽい」


「な、秋っぽいよな!」


「何だよ秋っぽいて!? しかもそんなナルっぽい言い方してねーよ! 何だ『だぜ?』って!」


 ケラケラ笑う二人に俺は突っ込む。


 ……しまった。どうせならこの間こいつらがやってたみたいに、次回予告風ダイジェストで伝えてやればよかった。後悔先に立たずか。


「で、何であの眼鏡くんを煽ったの?」


「ケーツー言ってたじゃん? 大好きだ。でも伝えないって」


「うん」


「ソレって本音を押し殺して我慢してるか、気持ちが通じ合ってるからいいんだって、現状に満足してるかのどっちかだって思ったのね」


「おお」


「だから兎川さんの話を聞いて、彼女の方からアクションを起こしてもらおうかって思ってたんだけど、そこであの眼鏡が現れたワケだ」


「うんうん」


「あいつはストレートに行動を起こしたし、途中からこいつの方がいいんじゃないかって思いもしたんだよ」


「ふむ」


「だからケーツーが我慢してようが、満足してようが、行動をしないヤツに勝利はないと思い知らせたくて、あの眼鏡に行動を起こしてもらった」


「おお! ノースピリット、ノーグローリー! だな」


 賢と宗二が感心したような声を出す。


「コレでケーツーがやる気を出さんようなら、俺はもう干渉しないよ。元々頼んでねーだろ、って感じだしね」


「秋、相変わらず何も考えてないようで、色々と考えてるんだな」


 そう、あいつはぬるま湯に浸かっている。ソレを気づかせてやる必要がある。


 ハッキリとした関係はないけど、好意のある女子がいて、お互い想いは通じてるじゃないか、なんて思ってるかもしれん。


 だがそんなモンは、都合はのいい思い込みなのだよ。


 他にもその娘を狙ってるヤツは、ゴロゴロいるんだということを見せつけて危機感を煽るのだ!


 ……壮大なブーメランな気もする。


 何か胸と背中に色々なモノが刺さってる気がしたが、今はケーツーの話だ! 俺のことは置いておこうね?


「で、どんな会話してるか、盗み聞きしてーとこだな」


「でも俺と賢は昨日あいつに顔見られてるし、近づいたら捨て台詞残して行っちゃうんじゃないか?」


「じゃあ秋、変装だ! 前髪上げてオールバックにして伊達メガネ外せ!」


 賢が俺の眼鏡を取り上げて、前髪を引っ張る。


「いててて! バカ野郎お前、俺のクセ毛の強さなめんなよ!」


「俺、寝ぐせ直し持ってるぞ!」


 そんなことを言った宗二が、鞄から取り出したスプレーを俺の顔面に吹き付ける。


「ぎゃあああ目があああ!」


 せめて眼鏡したまま吹きかけてぇえ!


「クセとれねーなぁ!」


「ヘアピン使おう!」


 俺が悶えるのも構わず、二人は俺をおもちゃにする。


「よし行け秋! 完璧だ!」


「コレだけ廊下で騒いでたら、すでに存在がバレバレな気もするが行って来い!」


「ホントソレだな! 覚えとけよお前ら!」


 俺は意を決して、ケーツーと長谷川の元へと歩を進める。


「……!」


 長谷川が俺を見て厄介なのがきた、といった反応をする。


 やっぱバレバレじゃねーか!


「……言いたいことは以上だ。ソロソロ失礼する」


「だから十中八九ないってばwww安心してちょwww」


「……ふん、杞憂だったか。やはりお前みたいなヤツは彼女にはふさわしくない」


「同意見でーすwww」


 長谷川が行ってしまう。何か今のムカつく受け答えだけで、会話の内容が大体分かってしまうな。


「アレ? アッキー何してんの?」


 そしてやはり変装意味ねーっ! バレバレにも程があるだろ!


「いや、コレは……俺のクセっ毛を解消しようという試みで……生まれ変わった俺に誰か気づくヤツがいるのか? って企画だ」


「そうなんだwwwところでwww」


「ん?」


「昨日サッシーと生徒会に見学に行ったんだって? どうしてだい? まぁ大体察しはつくけどwwwサッシーだけに」


「……No」


 俺は外国人役者のように頭を抱えた。何から何までバレバレか。


「秋、どうだった?」


「お、ケーツーじゃないか! 奇遇だな!」


 作戦終了の気配を感じた二人が寄ってくる。わざとくせー演技やめろ!


「無駄だよ。何もかもバレバレだったよ……」


「えー! 何やってんだよ!」


「もっとこう、忍びの如く気配を殺さなきゃ!」


「ていうかさ、顔の見られてない宗二が行くか、賢が俺の眼鏡掛けて行けばよかったんじゃないの?」


「…………」


「…………」


『……ソレな』


 ドヤ顔でこちらを指差す二人に、俺はヘアピンを外して投げつけてやった。


『ムダァッ!』


 二人は上体を反らしてそれを避ける。


「避けんな!」


「でwwwどういうつもり?」


 俺達がジャレていると、背後からケーツーの声がした。


 いつも通りの声。この場面だからこそ、違和感のあるいつも通りの声。


「…………」


 俺は振り返り、ケーツーの顔を見る。


 いつも通りのニコニコ顔だ。だからこそ読めない。怒ってるのか、呆れてるのか。


 ……俺がケーツーの立場で、宗二や賢が自分の知らぬところで何やら動いてて、突然知らないヤツから釘を刺されたら……まぁ、怒るだろうな。『余計な真似すんじゃねー!』とか言って。ソレか……溜息吐いて呆れを顕にするであろう。


 だがこいつはいつも通りだ。内心どうなってるのか分からんが。


 問題は、この状況で、俺はどういった行動に出るべきなのか、だ。


 俺の脳裏に選択肢が浮かぶ。


『余計な真似してごめん』と素直に謝る   ←

『お前が何もしないからだろ!』と逆ギレる

『いや別にお前の為じゃねーし?』とツンデレる


「…………」


 さて、ドレを選んだモノか。


「アッキー?」


「タイム」


 俺は両手でTの字を作る。


「タイムてwww」


「賢。宗二」


 チョイチョイと二人を手招きし、ナイショ話の作戦会議を始め、考えを伝える。


「俺は素直に謝るべきだと思う」


 と宗二。


「俺はキレるべきだと思う。この後に及んでニコニコしてるのがムカつく」


 と賢。


「……いっそ全部いっとく?」


 何となく俺はそう口にしてしまった。


「じゃあ俺が謝るわ」


「じゃあ俺がキレるわ。秋ツンデレな」


「え、ちょ──」


「ケーツー。勝手な真似してすまんかった」


 俺が止める間もなく宗二が謝ってしまう。しかしこいつはついさっき関わり始めただけで、自分は何一つ謝ることなどしていないのに、何故こんなことができるのか。器の違いを見せつけられるな。


「でもお前が何もしねーからだろ! 俺の目から見てもあの副会長は上玉だ! 何カッコつけてんだか知らねーけどあんないい女を見送るなんて正気じゃねーぞバカ!」


 さらに賢がキレてしまう。


 ……何か、俺の真似してねーか? こいつ俺のモノマネ好きだよな。


『……!』


 二人が俺の番だと視線を送ってくる。ええい、ままよ!


「てゆーか別にお前の為じゃないし! 俺は俺のやりたいようにしただけなんだからねっ! 勘違いしないでよっ!」


「…………」


「…………」


「…………」


「……なぁ、コレどうやっても俺だけスベったみたいな空気にならないか?」


「ははははっ! さすが秋!」


「期待を裏切らねぇ!」


「……てめぇら」


 爆笑しながら、俺の肩をバンバン叩く宗二と賢。気がつけば廊下を行く生徒達の視線が俺に注がれていた。


「……また、恥をかいてしまった」


「ドンマイwwwアッキーwww」


「うるせーよ! 悪かったよ! ごめんな!」


「怒ったり謝ったり忙しいねwww」


 結局ニコニコしてるケーツーに、俺は顔を真っ赤にして怒鳴ることしかできなかった。


「……ごめんねついでに聞くけど、本当コレが最後」


「……何?」


「ケーツー。あいつ兎川さんのこと好きみたいだぞ」


「……らしいね」


「副会長としても男としても、彼女を支えるのは自分だって思ってるみたいだぞ」


「……みたいだね」


「すごいよな。コレで落選したりフラれたりしたらトラウマ級の赤っ恥だ。ソレでもあいつ、本人の前で言ってのけたんだ」


「……すごい勇気だよね。ソレとも自信なのかな」


「あぁ、そうだな……」


「…………」


「…………」


「なぁケーツー。お前、彼女のこと好きなんだよな」


「大好きだよ」


「……でも、伝えないのか? 告白とか、しないのか?」


「……しないよ」


「どうしてっ!? 状況分かってんのか!? 彼女のこと好きだって男がいて、行動してんだぞっ! 取られちまうぞ!」


 ……あぁ、結局俺はこうなっちまう。どんなに『もし自分が相手の立場だったら』なんて日頃考えるようにしていても、結局俺は自分の価値観を叫んでしまう。感情をぶつけてしまう。家訓の第一条を守れない甘ったれの次男坊だ。


「『ソレでも彼女は僕を好きなはずだから大丈夫』とか思ってんのか!? そんなワケないだろう!」


「秋……」


「『こんな僕が近くにいたら彼女に迷惑がかかる』とか思ってんのか!? ソレを決めるのはお前じゃないだろう!」


「おい秋……」


 宗二や賢に声を掛けられ、いつの間にか本気で怒鳴っていることに気づいた俺は、肩でしていた息を無理矢理大きく、深く吐いて自分をクールダウンさせた。


「アッキー……僕はやっぱり、君のそういうところが大好きだなぁ」


「…………」


 やめろ気持ち悪い、と突き放す気にも茶化す気にもなれなかった。


「……でもごめん。僕は自分の気持ちを伝えない」


「…………」


「…………」


「……そうか。こっちこそごめんな。俺はお前のそういうところは好きになれない」


 ソレだけ言って俺は歩き出した。また爆発しそうになる前にさっさと立ち去るべきだ。


「秋……俺は好きだぞ」


「お、俺もだぜっ!」


「やめい。何で告白セールみてーになってんだ。こんなハーレム嬉しくないぞ」


 後を追ってきた宗二と賢に俺はツッコむ。こいつらなりの気遣いに、ちょっと頭が落ち着いた。


「秋──」


「分かってる。俺は自分がこうなって欲しいって気持ちを押し付けようとして、失敗しただけだ。ケーツーを恨むのも失望するのも筋違いですっ!」


「──ハナマルっ!」


「よくできましたっ!」


 両脇から頭をグリグリと撫でられながら俺は歩みを続けたのだった。


 昼飯だ昼飯。


 母さんの弁当はいつも美味いが、今日はとびきり好物が入ってるといいな、と思った。







 翌週になっても、俺の気分が晴れ上がることはなかった。


「秋。いーかげん機嫌直せよ?」


「土日挟んだのにまだ怒ってんのかぁ?」


「は? 怒ってませんけど???」


『怒ってんじゃん!』


「怒ってないのに『怒ってる』って言うから怒ってるんですー!」


「よくあるカップルの会話みたいのやめろ!」


 笑いながらも宗二がツッコんでくる。


「帰りにどっか寄って何か食おーぜ。どこがいい?」


 俺に気を遣ったのか、賢がいつもより爽やかに声を掛けてくる。


「えー? ご飯ー? どこでもいー」


「じゃあマ◯ク行くか」


「えー?」


「じゃあサ◯ゼ」


「えー?」


「どこならいいんだよ!」


「だからよくあるカップルの会話すんな!」


「ふん。まぁいいだろう。今日はこのくらいにしといてやる」


「お前が女だったらワガママだろうなぁ」


「いいんだよ。処女は童貞と違って価値があるから」


 俺が偏見にまみれた言葉を吐き捨てると、ところで、と言いたげに二人が顔を寄せてきた。


「なぁ、今日ケーツー何かおかしくね?」


「俺も思ってた。朝からまともなんだよ」


「……何言ってんのお前ら? てか顔近いよ」


「朝から女子に対しても、普通におはようって挨拶してるし」


「率先して教室の花瓶の水を取り替えてたし。ソレも水を流す時も、花瓶を水洗いする時も、何も言わずに」


「……確かにいつものヤツなら『らめぇぇ! お汁いっぱいれちゃうのぉお!』くらい言うな」


「だよな。さすがだぜ秋」


「しかも女子が落としたハンカチを、普通に拾って返したんだぜ?」


「……確かにいつものヤツなら匂いの一つも嗅いで『うぅん、鉄分の香り……女の子の日だねっ!』くらい言うな」


「だよな! さすがだぜ秋!」


「さっきから窓の外を眺めては、儚げな表情で溜息を吐いてるし」


「……確かにいつものヤツなら『あの雲の形は釣り鐘型のおっぱいっぽい! 片目を閉じて遠近感を殺して触ってる気分になりたい! 雲かためガス出してよドラ◯も~ん!』くらい言うな」


「いや……ソレはどうだろう」


「ソレはさすがに引くな」


「何でだよ! 言うだろ!」


 俺はプンスカ怒るが、二人はどこ吹く風だ。


「ソレはさておき、そんな感じで一般生徒だったら極めて普通な行動をケーツーが取り続けてるんだ」


「即ち──コレは異常だ」


「……いいんじゃないの? 別にどうでもいいよ」


「しかもそんなケーツーに対し、早くもクラスの女子達が母性本能を掻き立てられているような視線を送っているんだ」


「ソレは許さ──んっ!!」


 俺は怒号と共に立ち上がった。何か後ろから『アホじゃないの……』という声が聞こえた気がしたが、今はソレどころではない。


「許すまじっ!! いいだろう。貴様が俺の敵となるならば、望み通り魔王としてかつての友を(ほふ)ってみせよう!」


「……アッキー」


「うおぁっ!」


 気が付くと話題のケーツーが目の前にいて、俺は大層驚くことになった。


「な、なんだぁ……?」


「アッキー……あのね」


 何だ、一体何なのだ。確かに今目の前にいる如月京一郎は俺の知ってるそいつとは様子が違う。もしや『僕は双子の弟、圭一朗(けいいちろう)です。兄は死にました』なんてくるんじゃ──


「──っ!?」


 俺は突然の事態に目をひん剥いた。宗二や賢も息を呑んでいる。


 目の前の如月……圭一朗(?) が、突然床に手を着き、土下座をしたのである。


「僕は……何だかんだと理屈を捏ねて、格好をつけて、揺るぎない自分を確立している風な男を装っておきながら、その実一皮剥けばたった一つのできごとで主義主張を覆すコウモリ野郎です。どうか、バットKとお呼び下さい」


「……いや、自分を卑下するようなこと言いつつもアダ名がちょっとカッコいいじゃねえか」


「あぁ、こんな虫けらに暖かいツッコミをありがとうございます。こんな白なのか黒なのかもハッキリさせない僕だけの灰色野郎の相手をしてくださり、感無量です」


「…………」


「…………」


「保健室か?」


「いや、救急車じゃないか?」


 俺達は眼下に膝を着く自虐野郎にソレゾレの感想を述べた。


「お心遣いに感謝します。野戦病院だろうと焼却炉だろうと構いません。でも墓の下だけは御免(こうむ)ります。まだ死ぬワケには行かないのです」


「……焼却炉は死ぬだろ」


「いえ。今の自分は燃えておりますので。萌えてるんじゃなくてね?」


「分かってるよバカ」


 俺は嘆息混じりに言った。何となく話が見えてきたぞ。


「お前主義主張を覆すって言ってたな。まさかとは思うが──」


「……僕は光ちゃんが好きです。失いたくありません。ずっと離れたくありません。どうか力を貸してください」


「…………」


「………」


「──ふぅん」


 俺は何てことない様子で興味無さげな声を出した……つもりだ。


 が、宗二達曰くこの時の俺は口許を弛め、眼は失っていたギラつきを取り戻していた……そうだ。


 あくまで宗二達曰くな。



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