如月京一郎は変態である③
「宗二だぞ!」
「賢だぜ!」
「……え?」
『前回までのあらすじっ!!』
「……は?」
……唐突に何か始まった。
「相も変わらず変態街道をばく進する、ケーツーこと如月京一郎」
「ある日、秋と連れションこいた勢いで二人で廊下でホモってると、意外な人物が声を掛けてきた」
「ケーツーとは対極的な意味で学校の有名人、生徒会副会長……いや、次期生徒会長の兎川光さんだ。何と二人は幼馴染みだという」
「動揺を隠し切れずモブと化してしまう秋。留まることを知らないケーツーのセクハラ」
「しかしそんな変態のセクハラにも怯まず、彼女はケーツーを熱心に生徒会に勧誘するのだった」
「にもかかわらず、ケーツーは彼女に冷たい態度を取るのだった……まるでわざと彼女に嫌われようとするかのように……!」
『次回! コード:ゲスK2!』
「……『Re:嘘と挑戦』あぁwwwこの道の先にwww彼女がいるならばwww僕は……!」
『絶対に見てくれよな!!』
「打ち合わせでもしたのかお前ら!?」
そこでようやく俺は叫んだ。
「何でそうやって、いつも俺を除け者にするの!? いつの間にかケーツーまで混ざるし! もうやめて!」
俺は両手で顔を覆って嘆いた。
「いや、ホラ。秋って結構ボケれるけどさ」
「真に輝きを見せるのはそうやってツッコんでる時じゃん?」
「じゃん? って言われても……」
俺は半目になって、宗二と賢に非難するような視線を向ける。
時は放課後。場所は教室だ。俺がさっそくケーツーにあの休み時間の態度について尋問してやろうと思ったら、友人達が急にアッパーなテンションで割り込んできたのだ。
「大体状況の説明が長いんだよ。そういうのは台詞を使って、迅速かつ自然な流れで状況をアピールするんだ」
「ほう。じゃあ、見せてもらおうじゃねーか」
俺の嘆息混じりのダメ出しに賢が口角を上げる。
「いいだろう……」
俺は負けじと目を細め、口許を歪ませる。
「アーユレディガイズ? レッツアクションっっっ!」
宗二が、何かやたらハイテンションで手を打つ。
俺は小走りにケーツーに近寄り、叫んだ。
「おいケーツー! さっきの休み時間の態度はなんだ!? お前、副会長に嫌われでもしたいのかよ! お前みたいな変態を幼馴染みだからって気に掛けてくれたのに!」
『おお~』
パチパチパチ……と三人が拍手をする。
「ふん、どうだ。状況の説明は三行がベストなんだ。ソレ以上時間を掛けるとテンポが悪くなる」
「お見逸れしました」
「お味噌汁飲みたい」
「俺は赤味噌派だなー」
「あwww僕はねぇwww」
「聞けよっ!! 俺は白味噌派だ!」
こいつらを自由にさせておくと話が進まん! 俺は大きな声を上げ、力付くで進行役の座を奪い取ることにした。
「もっかい聞くけど、お前なんであんな嫌われるようなこと言うの?」
「確かに。優しくていい人なんだろ? 秋が言うには」
「しかもこの学校でおめーに笑顔で話し掛けてくる女子なんて貴重だろ」
「てか幼馴染みってだけで俺は羨ましいぞ」
「あ、分かる。ソレも異性のな」
「分かる分かる」
『お前は委員長と幼馴染みだろ!』
俺と宗二が賢にダブルツッコミを入れた。いかん。自ら話を脱線させちゃったぞ俺。
「そんなワケで……どうにも不自然に感じるんだよ、お前の態度。彼女と……何があった?」
おふざけは終わりだ、とクールダウンを示すように俺は声のトーンとテンポを落とし、先程よりも幾ばくか真剣味のある声を意識した。
「フウウウウ~~わたしは……子供の頃……彼女の下着……アレ、初めて見た時……何て言うか……その……下品なんですが、フフ、勃起……しちゃいましてね」
だがケーツーはやはりケーツーだった。
「奇妙でも冒険でも何でもねー激白だな、おい」
「誰も『爪』をのびるのを止める事ができないように……持って生まれた『性』というものは誰もおさえる事ができない……」
「……好きな人をそんな目で見たことが、負い目になった?」
なおも憑かれたように語るケーツーを無視して宗二が尋ねる。俺も同じ事を思っていたのでちょうどいい。
「いんや全然www」
「何なんだてめぇは! 発言に脈絡を持たせろ!」
『落ち着け秋!!』
いい加減俺はキレた。宗二と賢が止めるも構わずケーツーの胸ぐらを掴んで強制ヘッドバンキングの刑に処した。
「俺が思うに……あの人がこの変態と話す時のテンションと声のトーンは、優乃先輩が俺と話す時に似ている!」
『ほぉ~』
「ということは……だ。あの人はお前に好意があるに違いない!」
「へぇwww自分は先輩に好かれてる自信がおありですかwwwだから告白もしないとwww」
「今頃、他の男に告られてるよ」
「今頃、他の男の隣で寝てるよ」
「やめろよぅ!」
俺は三匹の悪魔の言葉から逃れようと耳を塞ぎ頭を振った。正直突かれると痛いところだ。自分でも情けない。このままではいけないと思ってはいるのだが。
「でも……秋の話が本当なら勿体ない話だな」
「そうだよ。彼女作るチャンスじゃねーか」
「そうだよ! 俺はソレを言ってんの! お前の変態性を知っていながらあの優しさだぞ!」
「変態性てwww人を異常性犯罪者みたいにwww」
「違うとでも言うのか! 間違いなく予備軍だろうが!」
「落ち着け秋。でもまぁ……確かに」
「入学したての時や、クラス替えしたばかりの時は、女子は進んでおめーに話し掛けにきてたのになー」
「二言三言話しただけでwwwニ◯ラムを唱えたかの様に消え去りましたねwww」
「あぁ……蜘蛛の子散らすというか」
「残像が見えるくらいにサーっと引いていったよな」
「そうだよ分かったか!? ソレがお前の現状なんだよ! そんなお前が女子とお近づきになるには、お前自身が変わるか、等身大のお前を受け入れてくれる人を見つけるしかないんだよ!」
「前者は……まぁ、無理かなぁ」
「無理てソージーwwwまぁ無理だけどwww」
「大体今変わったところで、この学校の女子には変態っつー印象が刻まれてるだろーが」
「僕は自分に正直なだけのつもりなんだけどなwww」
「まぁつまりそういうことだよケーツー! 前者が無理なら後者しかないだろ。そのままの、クズで、ゲスで、変態で! 息をするかのようにセクハラをする、お前を受け入れてくれる人を探すしかないんだ!」
「ひでえwww」
「ソレが……その副会長さんだと?」
「そう! あの人の他にはマザーテレサかガンジーくらいしか俺は知らん!」
「ガンジーだとホモになっちまうぞ秋」
「待て待て、その人がケーツーに好意的なのは分かった。でもケーツーの気持ちを聞いてないだろ。他に候補がいなかったとしても押し付けはよくないぞ秋」
宗二が何か真面目なことを言い出す。好きな人ができたと相談してきたヤツ全てに『じゃあ告っちゃえ』と返すこいつなだけに、ちょっと意外だ。
でも確かに、ちょっと熱くなり過ぎててケーツーの気持ちを聞いてなかった。
「ケーツー。お前は……その兎川さんのこと、どう思ってた?」
宗二が落ち着いたテンションで、ケーツーに質問する。
「大好きだったよ」
『……おおぅ』
ハッキリと言い切ったケーツーの返事に、俺達は三人共、感嘆するように呻いた。
じゃあ問題ないな──と俺が手を打とうとすると、その前に宗二が、再びケーツーに尋ねた。
「今は? どう思ってんの?」
「大好きだよ」
『おぉ……ぉ』
何かケーツーのくせに男らしい! 俺が女だったら『素敵! 抱いて!』って……ならねーな。ごめん言い過ぎた。
「でも僕は、光ちゃんに気持ちを伝えるつもりはないよ」
「……ふへ?」
俺は思わずマヌケな声を出してしまった。見れば宗二も賢も呆気に取られている。
「どうして!?」
逸速く現実に回帰した俺は、ケーツーに食って掛かった。
「そう決めてるからwww」
「何で!?」
「決めたかったからwww」
「おま、何をカッコつけてんだ!? そんな場合かよ!? 大好きだったって、今も大好きだって言ったじゃないかよ!?」
「大好きだよ。でも伝えない。そう決めたから」
ケーツーは先程言っていた言葉を三つ並べてみせた。
「どうしても?」
「十中八九ないかと」
──ふざけんな、好きな人とくっつかないで誰とくっつくつもりなんだお前は。と叫びそうになったところで気がついた。
俺、全然言う資格ないな、と。
「秋。コレは無理だ。そこはあまり突っ込んでやるな」
「……んん」
納得したワケではないが、宗二の言葉に俺は渋々と言った声を出した。
「ごめんねwwwありがとうwww」
「でもいい機会だから言わせてもらうぞ! さっき宗二も言ってたけど、お前は何かこう、勿体ないんだよ! もっとこう、いいところを前面に押し出してアピールすれば簡単に彼女とか作れちゃいそうなのに!」
やや気まずく、硬い空気になってしまったのを理解していた俺は、敢えていつものテンションで喚いた。
「じゃあwww僕のいいところって?」
「え、え~~……、と」
やべぇ、こいつ誉めるとこねぇ。
「長考www」
「か、顔はいいよな。可愛い系男子というヤツだ」
ナイスだ宗二。
「可愛いねぇwwwあとは?」
「あ、勉強ができる!」
いいぞ賢。
「あざーっすwwwじゃあ悪いところは?」
「変態」
「ゲス」
「存在がセクハラ」
「即答www」
「要するにおめーは短所を隠せばモテるだけの素質があるんだよ! なのにいつもいつも……」
「ちょっと待ってよwwwじゃあアニメの単発回の設定みたいに、僕が頭でも打って記憶喪失になって、全くアクのない鈍感系難聴主人公になって『ん? 何か言った?』とか『何怒ってるんだろ?』とか言ってたら、キミ達は満足かい?」
「いや、友達でいるかすら怪しい」
俺は脊髄反射で口を開いた。
「また即答www好きだぜぇwww」
「だってそんなケーツー愛せないし」
宗二の言葉に、俺と賢はウンウンと頷く。
「多分……男友達はみんなこんな感じになって、本命の女は『いつものあんたじゃなきゃいや~!』とか言って突き飛ばされたお前が頭打って、戻ってよかったよかったになるな、その単発回」
「すばらしい回答ですwww」
俺の言葉に、ケーツーは満足そうに目を輝かせる。
「いや、でもよ──」
「そんなワケでこれでいいのですwwwさぁ帰りますぞwww」
そう言って、無理矢理話を打ち切ってしまうケーツー。
ハッキリ言って納得できん!
だって考えてもみてよ? その人に自分が近づいたら迷惑だとか思ってんのか知らねーけど! ソレがその人の幸せとか思ってんのか分からねーけど!
大好きな人がいるのにアプローチしないってことはさ。じゃあお前の幸せはどうすんのって話だよ!
自分を変える気もない。でも受け入れてくれる大好きな人には近づかない。
じゃあ何か? 一生一人でいるか、そこまで愛してはいないけど自分を受け入れてくれるって人を探すってか!? どんだけ希少なんだよそいつは! ツチノコか!?
……とまぁ、頭の中には色々と渦巻いていたのだが、自分も優乃先輩にハッキリと交際を申し込めていない手前、俺は二の句を継ぐことができないのだった。




