#05
「ひかり達先に帰っちゃうから、ビックリしたよ~」
翌日の学校。ひかりの所に来るなりそう言い出す千歳に、ひかりは「ごめんね」と一言謝る。千歳は、まぁいいけどさ~と軽く許してくれた。
「そういえばさ、ひかりと湊君って付き合ってたんだねー!」
大声で言う千歳を、ひかりは諭す。やめてほしい、そんなことを大声で言うのは。
疲れきったひかりに、千歳は「いつから付き合ってたの?」と興味津々に訊いてくる。う、となりながらひかりは答えた。
「き、昨日付き合い始めて……」
「へぇー、昨日!」
ヒロ君ナイス! と、千歳は独り親指を立てた。
ひかりは、昨日のことを思い出すだけで頭が痛くなりそうだった。スマートフォンは取り返せたものの、湊と付き合う羽目に。波瑠からのメールには早々返事をすることはできたが、湊との『イツワリの関係』の条件は面倒くさいものだった。
名前で呼ぶこと。他人には秘密にすること。バレないように演じること。その他諸々、ひかりはしょうがなくのんだ。
「ねぇねぇ、湊君のどこを好きになったの~?」
「どこを!?」
そんなこと訊かれても、まず好きになっていないのだから答えられない。千歳の嫌な質問に焦りながらも、思い付いた言葉を適当に口にした。
「く、クールなとこ?」
「確かに、魅力のひとつだよね~」
適当な言葉はどうやら信じてもらえたらしい。にしても、変な誤解を招きそうな気がしてならない。いっそ、千歳に本当のことを言ってしまおうかと考えた。
「……あのさぁ、千歳――」
「よお! 千歳とひーちゃん!」
突然、ひかりの言葉に宏樹が被さってきた。反射的に湊も来たのかと思い、驚いた声をあげる。
(……よかった。今のタイミングで言わなくて)
湊にバレていたら、どうなっていたかわからない。心の中で、宏樹に感謝した。
だが、想像とは違い、宏樹の隣に湊の姿は無かった。
(何でいないんだろ。まぁ、そっちのほうが気が楽だけど)
ホッと胸を撫で下ろす。不意に、千歳と仲良く話していた宏樹がひかりを見た。
「そういえば、ひーちゃんと湊って付き合ったんだってなー」
ガタッ、と椅子から落ちそうになる。湊がいないことに安心したのも束の間、宏樹にもこの話題を持ちかけられた。
「なんか意外だよな~」
「だよね~」
(だから、私はべつに好きじゃないんだってば……)
千歳と宏樹がお互いに頷きあう。その傍ら、ひかりはため息を溢した。
「湊って、女が苦手みたいだし、大切な人は作らねぇって言ってたし。それにしても、ひーちゃんの今後が大変そうだよな」
「……はっ!! 確かに!!」
女子の目というのは鋭いものだ。隣を歩いているだけで、全ての女子から睨まれ、そして祟られそうだ。想像するだけでゾッとした。
「……でもいいの。極力近くにいないって決めたから」
「そう簡単にいくかな~」
宏樹が意味深に笑う。なんだか嫌な予感がしたが、気にしないことにした。
「今日の放課後から、早速一緒に帰ったりして?」
「あー、ひかりにそれは不可能だなぁ」
千歳の言葉に、ひかりと宏樹は同時に「何で?」と千歳を見る。自分のことなのにわかっていないひかりに、千歳は少々呆れた。
「何でって、今日の放課後は入学後テストの補習でしょ?」
「……はっ!! そうだった!!」